気になる”あの仕事”に就く人に、仕事の裏側について聞く連載企画。第22回は、「東北楽天ゴールデンイーグルス」のグッズ企画・製造を統括するマーチャンダイジング部商品グループマネージャー 野口翔雄さん。年間約1万アイテムという膨大なグッズ展開を支える圧倒的なスピード感と、選手やファンへの熱い想いに迫る。
6名で年間1万アイテムを販売。「グッズ班」と呼ばれる開発チーム
プロ野球の試合が開催されるスタジアムを彩るのは、ユニフォームや応援タオル、そして趣向を凝らした数々の応援グッズだ。東北楽天ゴールデンイーグルス(以下楽天イーグルス)の本拠地・楽天モバイル 最強パーク宮城に足を踏み入れると、グッズが販売されているチームショップには観戦の高揚感をさらに高めるアイテムがズラリと並んでいる。
楽天イーグルスが1年間に展開するグッズは、アイテム数にして約1万点。そのうち約7~8割は前年からの継続ではなく、毎年ゼロから企画・開発される新商品だという。MD(マーチャンダイザー)と呼ばれる商品開発担当者は6名。野口さんはそのチームの責任者を任されている。
野口さんの1日は、メーカーからの新商品提案やデザインのメール確認、新商品の販売状況のチェックなどからスタート。午後になると全国のメーカーや工場から試作品・サンプルが届き、それらを一つひとつ手にとって品質や仕上がりを厳しくチェックしていく。
「新商品の発売日には、ショップに行って、お客様が店内でどのように商品をみて回るのか、新商品の反響など確認します」
年間約1万アイテムという膨大なグッズを発売するために、企画の針は常に未来を指している。まだ今シーズンの熱戦が続いている9月の段階で、野口さんたちは早くも翌シーズンのコンセプト検討や年間スケジュールの策定に着手する。デザインの検討からサンプルの作成、色の調整を経て売場に商品が並ぶまで、どれほど急いでも最低2ヶ月はかかるからだ。では、ファンを魅了するアイデアはどこから生まれてくるのだろうか。
「X(旧Twitter)などでもファンの方々の生の声を常に追っています。楽天イーグルスのファンからは、“グッズ班”と呼ばれていて、『グッズ担当がまたとんでもないものを出してきた』と思われているようです(笑)。SNSでの意見も参考にしながら、ファンが何を思っているのか、何が欲しいのかということはよく見させていただいています」
「また、他球団の公式ホームページで新商品情報をチェックするのは日課ですが、実は音楽ライブやテーマパーク、それ以外でもトレンドになっているものからヒントを得ることも多いです。面白い取り組みがあれば展示会に足を運んだりして、普段からメンバー全員でアイディアの引き出しを蓄積しています」
今年ヒットを記録した「光るグッズ」は、アーティストのライブ演出などで使われる連動型ライトに着想を得たという。ヒットやチャンスなど試合展開に合わせて色や点灯タイミングを無線で制御し客席を幻想的に彩り、ファンの間で人気を博している。
「2週間で店頭へ」“一生に一度”の引退グッズ開発裏
長年チームを支えた選手の節目や記録達成の瞬間は、ファンにとっても球団にとっても一度きりの特別なドラマとなる。その歴史的瞬間を彩る記念グッズの開発には、常にあふれる情熱と限界突破のスケジュールがつきまとう。野口さんのキャリアの中で特に深く記憶に刻まれているのが、「岡島豪郎選手の引退グッズ」と「浅村栄斗選手の2000安打記念グッズ」のふたつだ。
2025年9月21日、岡島豪郎選手の引退が球団から公式発表された。引退試合として設定されたのは、わずか2週間後の10月4日。野口さんたちグッズ担当者がその事実を知ったのも、ファンと同じ発表のタイミングだった。
「発表の2日後、休日の誰もいない事務所に岡島選手に来てもらいました。どんなロゴにしたいか、どんな写真を使いたいか、どんなグッズを作りたいかをじっくり話し合いました」
野口さんは岡島選手とデザイナーの間に立ち、密に連絡を取り合った。打ち合わせからわずか2日後の9月25日にロゴが完成。そこから急ピッチで製造ラインを調整し、引退試合当日の10月4日、無事にキービジュアルをあしらった記念タオルとTシャツを店頭に並べることができたのだ。
「記念グッズの直筆サイン商品は通常、選手の負担を考慮して上限数を設けるのですが、岡島選手に相談すると『最後なので何個でも書きます』と上限なしを引き受けてくださった。ファンの皆さんに喜んでもらいたいという気持ちはすごく伝わってきました」
最短スケジュールの岡島選手の引退グッズとは対照的に、浅村栄斗選手の通算2000安打記念グッズは、半年以上という長い月日をかけて準備が進められた。記録達成がいつになるか分からないため、前年の11月頃から浅村選手本人とロゴのデザインやカラーリング、Tシャツの仕上がりについて打ち合わせを重ねた。年が明け、春季キャンプのタイミングで試作品が完成。浅村選手と一緒にTシャツを確認しながら、ロゴの位置や背中のデザインなど、細部に渡りデザインを調整した。
「選手の人生の歴史に残る1ページですから、こだわってもらって嬉しかったし、納得してもらえるものが作れたので、それは非常に良かったです。最終サンプルを持って行った時には、周りの選手にずっと自慢してくれて、安心しました」
ついに歴史的な2000安打が達成されると、入念に準備された記念グッズが一斉に解禁され、祝福の熱気に包まれた。
楽天イーグルスのグッズの特徴の一つでもあるのが、「唯一無二のユニークさ」だ。その象徴的な成功事例が、今年SNSやメディアでも大きな話題となった「マエケン画伯(前田健太投手)」グッズである。
「前田投手が入団された際、『いつか画伯(がはく)の絵でグッズを作れたらいいですね』という会話があったんです。そこから2月の春季キャンプのタイミングで実際に絵を描いていただき、本来なら販売まで2ヶ月かかるプロセスをわずか1ヶ月半に短縮して、開幕前になんとか第1弾を店頭に並べることができました。
2026年8月に発売された第2弾では、前田投手本人から『移動時に着用するポロシャツを作りたい』という相談があって、『8月の暑いうちに販売したいので、2日後に絵を描けませんか?』とお願いして、本当に2日後にイラストを描き上げてもらったんです。選手の協力だけでなく、メーカーさんや工場さんも理解してくれてなんとか間に合いました」
試合観戦時だけでなく「生活の一部」へ。ファンとチームを繋ぐ架け橋として
数々のヒット商品や感動的な記念グッズを生み出してきた野口さんだが、その5年間の歩みは決して順風満帆なことばかりではなかった。未経験からスタートしたグッズ制作の現場では、いくつもの失敗や壁にぶち当たってきたという。
「今いるMD担当者は、みんなものづくりの経験をしたことがない人たち。僕自身も店舗運営からスタートして1から勉強しました。昔は、今みたいに短期間で新商品を出していけていなかったと思います。
過去には確認ミスにより、販売した商品に誤植があり交換対応をするなど色々な失敗を経験しました。だけど、メンバー全員の経験値も上がり、年間1万アイテム以上のグッズを世に出せることがすごいことだと思います」
プロ野球のシーズンオフであっても、野口さんたちの仕事が休まることはない。ハロウィン、バレンタイン、ホワイトデーといった季節限定のイベントグッズを積極的に展開。普段のユニフォーム姿とは一味違う、選手の素顔や仮装姿を収めた限定アイテムを届けることで、試合のないオフ期間もファンの心を温め続けている。
「シーズンオフはどうしても選手とファンのタッチポイントが減ってしまいます。だからこそ、グッズがチームとファンを繋ぐ“架け橋”になれればと思っているんです。今後は、試合観戦という、非日常時だけでなく、大好きな選手を身近に感じられる、普段使いできるグッズにも力を入れていきたいと考えています」
ファンとチーム、そして選手を繋ぐ“架け橋”でありたい。1万アイテムのグッズには、ファンの笑顔と選手の想いを繋ぐ熱いドラマが詰まっている。
【取材協力】
東北楽天ゴールデンイーグルス マーチャンダイジング部 商品グループ マネージャー
野口翔雄さん
楽天イーグルス オンラインショップ
取材・文/岡のぞみ
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