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「給料は出ない」「一見さんお断り」は真実か?元芸妓漫画家に聞く花街のリアル

2026.10.13

京都と言えば、芸妓や舞妓がいる花街をイメージする人も多いはず。15歳から舞妓として働き、当時の経験を親しみやすい絵柄で楽しく伝えている漫画家・松原彩さんに、京都における花街の文化について、玉川さんが聞いた。

松原 彩さん

漫画家 松原 彩さん
1998年生まれ。22歳に芸妓を引退後、漫画家としてデビュー。2021年『おきばりやす!舞妓はん』で第12回新コミックエッセイプチ大賞を受賞。正派若柳流名取、書道三段。

自身の経験をもとに芸舞妓の暮らしを描いた!

『舞妓をやめたそのあとで』

芸舞妓(舞妓・芸妓)生活の後日談を描いた『舞妓をやめたそのあとで』(KADOKAWA)に続く、松原彩さんの最新著書『舞妓をめぐる花街の人々』(KADOKAWA)は、舞妓・松乃として出会った人々との日常をつづるエッセイ漫画。舞妓の日常や一流の人の遊び方を知ることができ、よりよい人間関係を築くヒントも得られる一冊。

花街で働くこと6年!芸舞妓の経験を発信している漫画家に取材

玉川 40年ほど前の学生時代に、祇園近くのお店でアルバイトをしていました。元芸妓のママさんから花街のことを何となく聞いていたんですけど、松原さんはなぜその世界に入ったのですか?

松原 母の影響で日本舞踊を嗜んでいて、美しい着物で踊り、三味線やお茶を習える点に魅力を感じたからです。中学卒業後に舞妓になり、芸妓で辞めました。※1

玉川 舞妓になると、芸能プロダクションのような置屋に住み込みをするんですよね。その際の給料や生活費などは、どうなっているのですか?

松原 置屋にいる間は給料が出ません。芸舞妓が働いた報酬は置屋に入り、置屋はそのお金で食事や習い事といった芸舞妓に関するいっさいの面倒を見てくれます。置屋で何年か働いた後に〝自前さん〟といって1本立ちをし、一人暮らしを始めると置屋からお給料が出ます。

玉川 独特のシステムですね。花街の世界に入って一番大変だったことは?

松原 花街の言葉遣いを身につけることです。現在使われる京都弁とも異なり、単語を覚えるだけではダメ。会話中のイントネーションを、花街の言葉遣いに合わせないといけません。約1年かけて自然に話せるようになりました。また、芸事を習って披露できることばかり頭の中にあり、接客業という点を意識せずに舞妓になったので、どうすればお客様に楽しんでいただけるのか、毎日悩みました。

玉川 ただでさえ京都の言葉は独特ですから。芸舞妓が働くお茶屋は〝一見さんお断り〟ですよね。過去に一度、お座敷遊びに招待されましたが、普通の人はどうしたら遊びに行けるのでしょう?

松原 お茶屋を利用するには口座が必要です。口座を持つには、すでに口座を持つ人に紹介してもらわなければなりません。さらにお茶屋のおかみさんが「遊びに来て良い」と判断してはじめて、口座が持てます。それには理由があって、お茶屋は〝つけ〟(後払い)の文化だから(その場での支払いは〝粋じゃない〟とされる)。万一の時は紹介者が代わりに払うことになっていて、信用できる人しか口座が持てません。なお、京都には祇園甲部や私がいた宮川町など、花街が5か所あります。それぞれの花街で口座を持てるのは1軒のみ。ひとつの花街で複数のお茶屋の口座を作るのはご法度です。

玉川 30年ほど前に招待された時、ひと晩で約100万円かかったと聞きました。一般的な料金はどのぐらいですか?

松原 たくさん人を呼び、豪華な料理で遊べば、そのくらいになるかもしれませんが、東京の一流クラブのほうが高いくらいの料金です。いくらでどう遊ぶのかは、お茶屋が提案してくれます。ちなみに、芸舞妓は各置屋にいて、お茶屋から呼ばれてお座敷に行く仕組みです。

舞妓

舞妓が成長する姿を楽しむ粋筋

玉川 お客さんはどんな目的でお茶屋を利用し、芸舞妓を呼ぶのですか?

松原 いろいろですね。芸舞妓なしでおかみさんとおしゃべりしたい人もいます。おかみさんから紹介された新人の舞妓が育っていく様子を応援しようと、長く見守るお客様もいらっしゃいました。

玉川 それは紳士的かつ上級の遊び方ですね。でも、お茶屋を利用しているお客さんの中には、舞妓と個人的に仲良くなりたいから通う人もいるのでは?

松原 未成年がほとんどの舞妓にトラブルがないよう、お茶屋や先輩の芸妓が守ってくれます。なお、私が舞妓だった頃、一線を越えて付き合いたいと考えるお客様はいらっしゃいませんでした。

玉川 昔に聞いた話では舞妓から芸妓になる時、パトロンが1000万円の費用を支払って身請けしたそうです。

松原 今はそういう話を聞きません。主にお金がかかるのは着物ですが、1本立ちの際に組合がいろいろとサポートしてくれて、着物を貸し出してくれたり、安く譲ってくれたりすることもあります。

玉川 僕が京都にいた頃とは、ずいぶん仕組みが変わっているようですね。

松原 芸舞妓をされていた50〜60歳代の人には「私たちの頃とは時代が違う」とよく言われました。今は、芸舞妓やお茶屋の数は減り、業界全体が縮小傾向にあります。花街という日本独特の文化を消さず、そこで働く芸舞妓が長く仕事をしやすいような環境にしていこうと、仕組み自体も変わってきているのです。私もたくさんの人に支えられている舞妓の本当の姿を知ってもらうために、エッセイ漫画を描きました。今後は、人だけでなく使う物・小道具、そしてそれらを扱う店舗も紹介したいです。

芸舞妓がいる京都の花街ではいろいろな人が協力し合っている

芸舞妓がいる京都の花街ではいろいろな人が協力し合っている

花街は、【1】座敷に料理を用意する料理屋、【2】宴席場を提供するお茶屋、【3】芸妓がいる置屋という〝三業〟から成り立っている。芸を教えるお師匠さん、踊りと宴席で着付けを変えてくれる男衆さんなどが、それぞれの立場で芸舞妓を支えてきた。楽しい宴席は芸舞妓だけのものではなく、特殊な技を持つ凄腕の人々の存在が欠かせない。

芸舞妓の世界を伝える漫画家への取材で理解を深めた
伝統を守りつづけるために必要な視点

□ 日常生活では使わない言葉でも後世まで伝える
□ 信用で成り立っている〝粋な世界〟を守るため一見さんのお断りを貫く
□ 未成年で働く舞妓をお茶屋や先輩芸妓が守る
□ 1本立ちする際にも花街の組合がサポートする

今回のまとめ

 京都には何百年と続いてきた伝統や価値観が、いまだに残っています。江戸時代に始まった花街の文化はそのひとつで、中心的存在の芸舞妓は世界中の人々を魅了しつづけてきました。でも、松原さんによると、京都出身の芸舞妓は1割以下で、花街全体が縮小傾向にあるそうです。今回の取材では、僕が京都にいた頃に比べて花街のシステム自体が変わっていることを知りました。時代に合わせて働きやすく変化させていましたが、完全に変えてしまったら、別のものになってしまいます。伝統と革新のバランスを取りながら、アップデートしなければなりません。京都全体の傾向として表われているバランスの良いアップデートが花街にも見えたことは、感慨深かったです。

今の時代に合わせることが花街でも必要だと実感しました

玉川徹さん

玉川徹さん
テレビ朝日系、朝の情報番組『羽鳥慎一モーニングショー』のレギュラーコメンテーターとしておなじみ。パーソナリティーを務めるレギュラー番組『ラジオのタマカワ』(TOKYO FM/毎週木曜日11:30~13:00)が大好評オンエア中!

※1 舞妓(半人前)は中学・高校を卒業してすぐ修行に入った女の子ばかりで、年齢は20歳前後までという慣わしがある。それ以上の年齢になると芸妓(一人前)になる。

取材・文/柿川鮎子 撮影/佐藤信次 編集/田尻健二郎 ©松原彩/KADOKAWA

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