■連載/ヒット商品開発秘話
ネック部分にくびれのある歯ブラシが発売と同時に話題を集め、好調に売れている。その歯ブラシは、2026年3月に発売されたサンスターの『ガム・プレミアム デンタルブラシ』。発売から約2週間で100万本が出荷された。
『ガム・プレミアム デンタルブラシ』のくびれは適度にしなるようになっており、しなることで余分な力を吸収しブラッシング圧を自動的に補正する。これにより、歯科医がすすめる「軽い力でブラッシング」ができるようになる。
また、毛先が16本に分かれた特殊な超ミクロ毛先を採用。先端3本毛と組み合わせた総本数1万5000本以上の毛先で、歯ぐきにやさしく当たりながらしっかり汚れを落とす。
「わかってはいるけど止められない」を解決
開発の出発点は、歯みがき時の悩みだった。開発を担当したオーラルケアマーケティング部 GUMシニアブランドマネージャーの植田隆宏氏が着目した歯みがき時の悩みは、「正しいみがき方を知っていてもできていないこと」だという。
「歯科医や歯科衛生士の指導により、歯の正しいみがき方は軽い力でみがくことが知られるようになってきましたが、実践できているかどうかは別です。力を入れず軽くみがけばいいのですが、力を入れてついゴシゴシみがいてしまう人が多くいらっしゃいます」
このように明かす植田氏。歯をゴシゴシみがいてしまう生活者へのヒアリングを重ねていくうちにわかったことが、正しいみがき方はわかっていても力を入れてゴシゴシみがくのがやめられないことであった。その理由は、歯科衛生士などが指導する歯のみがき方はやさしく、汚れ落としに不安を覚えることにあった。植田氏は次のように話す。
「本当にこの力加減で歯の汚れが落ちるのか?と思いつつも、指導を受けた後は教えられたみがき方を実践してみますが、歯の汚れが落とせた実感が得られにくいことから、つい力を入れてゴシゴシみがいてしまうようです。頭では力をかけずやさしくみがくことはわかっていても、どうしても力を入れてみがいてしまうのが止められないことにジレンマを抱えています」
歯ぐきにはやさしいがしっかり汚れを落とすことができる歯ブラシが実現できれば、ジレンマを抱えた人の悩みを解決することになる。正しい歯のみがき方を意識せずとも、ブラッシング時の力加減が適切になるよう自動で補正する歯ブラシとして『ガム・プレミアム デンタルブラシ』をつくることにした。
1万本を超える試作から誕生した、独特のハンドル
開発がスタートしたのは発売の2年近く前。歯ぐきにやさしく当たりつつ汚れをしっかり落とすために採用したのが、毛の先端が16本に分かれた特殊な超ミクロ毛先であった。
この特殊な超ミクロ毛先は『ガム・プレミアム デンタルブラシ』が企画されるよりも前から研究・開発が始まっていたもので、完成までに9年近くの時間を要している。もともとは、歯周病により歯ぐきが腫れてしまっている人向けに、歯ぐきにやさしいと同時に汚れ落ちがいい歯ブラシをつくるために研究・開発されたものだった。実現すれば歯周病で悩んでいる人だけではなく、軽い力でやさしくみがけばいいことをわかっていても力を入れてゴシゴシみがいてしまう人にとっても有益と判断できたことから、開発が加速していった。
歯ブラシに用いられている一般的な毛は、根元から毛先に行くに従って細くなっているが、超ミクロ毛先は毛先だけ16本に分かれており太さは根元から変わっていない。毛先に行くに従って細くなる従来の毛は歯ぐきへの当たりはやさしいものの、ブラッシング時に反発力で負けてしまい汚れが落ちにくいところがあったが、超ミクロ毛先は太さが変わらないため毛にコシがあり、反発力が担保されたまま16本の毛先が歯ぐきにやさしく当たりつつ汚れをしっかり落とせるようになっている。
超ミクロ毛先はヘッドの左右両サイドに配置。中央には先端が3本に分かれた毛を用いることにした。
ハンドルのネック部にある独特のくびれは、試行錯誤を繰り返した末に生まれたものだった。ブラッシング時の余計な力を、ネックをしならせることで逃がし、意識することなく適切な圧力でみがけるようにする考えのもと、一から構想しベストなハンドルを導き出した。
植田氏によれば、現在のハンドルに決まるまで量産検討を実施した試作は約2000本。設計検証を含めると試作は1万本を超えた。どの程度くびれていれば適切なブラッシング圧になるのかを検証しながら見極めていったことから、ハンドルを製造する金型には何度も修正が加えられた。
「ブラッシング時の力を分散させるために設けたくびれは、細くなっているとはいえ使っている時に折れてはいけません。力の逃がし具合とハンドルの強度のバランスを取ることが重要でした」と植田氏。品質や安全面で問題のないものにするため、量産化までにトライ&エラーを繰り返した。
使っている時にくびれが折れることが最も懸念されたことだったので、試作の検証では人の手でハンドルのくびれを曲げ伸ばすことを繰り返し何度も実施。実際の歯みがき時にかかる力以上の負荷をかけても折れないことを確認したほどだった。
歯のキャラクターをテレビCMに起用
発売開始時のヘッドは、奥までみがきやすい「5列先細ヘッド」と効率的に汚れを落とせる「6列幅広ヘッド」の2種。どちらもヘッドの厚さは3mmと薄く、毛の硬さは〈やわらかめ〉と〈ふつう〉を用意した。
現状の売れ行きを「堅調」と評する植田氏。直近6年間に発売されたサンスターの歯ブラシの中で、最速で100万本出荷を達成したという。
発売開始ともに売れ行きが好調だが、販促面では主に、テレビCMの放映による認知拡大、体験価値の拡散の2点に取り組んだ。
テレビCMは、これまでとはアプローチを変えた。以前の同社のテレビCMは主に、研究員が登場して正しい情報を届けるようにしていたが、歯のキャクター「はっくん」を使って情報を届けることにした。
キャラクターを使ったのは、自分ごと化を促すため。プロモーション施策に関する議論を重ねていく中で出てきたアイデアだった。植田氏はキャラクター活用の経緯を次のように明かす。
「これまで続けてきたようなコミュニケーションの取り方もとても大事ですが、一方で“歯周病はとても怖い病気ですよ”といったような怖さを訴求するのでは自分ごとにしてもらいづらいです。人がメッセージや情報を伝えると自分ごと化が起きにくいところがあることから、キャラクターが商品の特長や便益を代弁する形をとり、ジレンマを抱えている人たちに商品を届けられればと考えました」
体験価値の拡散では、インフルエンサーからの発信などを実施した。
「パフォーマンスに自信がありますので、商品の特長や体験価値を伝えることにしました。私たちが商品に関して伝えるメッセージもありますが、実際に使っていただいたインフルエンサーが商品について感じたことを伝えてもらうことによって、商品の特長などを知ってもらうよう目指しました」と植田氏は話す。
現時点では先細ヘッドの方の売れ行きがいいという。幅広ヘッドは歯ブラシ市場で現在人気を集め伸びているが、この流れを受けてこの9月に「7列超幅広ヘッド」を発売した。「6列幅広ヘッド」と比較してヘッドの面積が約30%アップ。より広範囲の汚れを効率的に落とせるようになったほか、歯ぐきへの接触面積が広くなったことから圧力がより分散され、使い心地がさらに良くなった。
「ジレンマを抱えている人たちは好まれるヘッドサイズに関係なくいらっしゃいます。自分が好むヘッドサイズがないことでジレンマを解決する機会を逃すことのないよう、できるだけさまざまなヘッドサイズを用意し、商品を手に取ってもらえるようにしたいと考えています」と植田氏。多くの人に商品が届けられるよう、売れ行きなどを注視しながら今後のラインアップを検討していくという。
取材からわかった『ガム・プレミアム デンタルブラシ』のヒット要因3
1.ジレンマを解決
歯は軽い力でやさしくみがけばいいことをわかっていても、長年の習慣から強くゴシゴシみがいてしまう。わかってはいてもやめられないこのようなジレンマを抱えている人たちにとっての解決策になることができた。
2.行動を変える必要がなく普段通りに使える
強い力でゴシゴシみがいても、歯ぐきへのブラシの当たり方はやさしく、軽い力でみがける。いままで通りのみがき方でいいので行動を変える必要がなく、道具に解決を任せられる点が支持を集めた。
3.汚れがしっかり落とせる
力を入れてもやさしくみがけるとはいえ、歯ブラシである以上は汚れがしっかり落とせることが不可欠。毛先が16本に分かれた超ミクロ毛先の採用などにより汚れがしっかり落とせ、歯ブラシにとって最も重要な性能を担保している。
力を入れて歯をゴシゴシみがいていると歯ぐきを傷めたり歯ぐきが下がってしまったりするため、歯周病を進行させてしまう可能性がある。しかし、わかっていても長年の習慣から、ついゴシゴシみがいてしまうのはよくあることだろう。人の行動は簡単には変わらない。したがって、行動を変えることなく道具で解決するというアプローチは理に適っており、合理的だともいえる。
取材・文/大沢裕司
累計出荷台数が5万台を突破!シャープ「ヘルシオ トースター」が大ヒットした理由
■連載/ヒット商品開発秘話 高価格帯のオーブントースターが家電量販店の店頭を賑わせ続けている。現在人気を博している1台が、シャープの『ヘルシオ トースター』。2…




DIME MAGAZINE






















