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「トヨタの港」に上海から上陸したテスラが1000台!愛知・豊橋で見えた日本経済の現在地

2026.09.30

「トヨタのお膝元」が、米国EVの新しい玄関口になった

三河港には、フォルクスワーゲンやアウディといった輸入ブランドの陸揚げと新車整備の拠点が集まります。その隣で、トヨタやレクサスが海外へ出ていきます。テスラが加わったことで、この港で輸出入される自動車ブランドは28になりました。

テスラにとって三河港は、横浜市の大黒ふ頭に続く国内2カ所目の輸入拠点です。今後は四半期ごとに最大6000台規模の輸入を目指すとしています。国内販売台数は2025年に初めて1万台を超えたと報じられており、名古屋や関西方面への販売網を広げるための布石といえます。今後はセダンのモデル3も加わる予定とされます。

港を選んだ理由に「災害」が入っていた

拠点に選んだ理由として挙げられるのは3点です。災害や物流の混乱に備えて輸入拠点を複数持つこと。輸入車の整備拠点が集まっていて、整備を委託しやすいこと。そして関東と関西の中央という立地です。速さや安さではなく、止まらないことを優先した選び方に見えます。

トヨタとテスラの因縁も、この光景に重なります。リーマン・ショック後に閉鎖されたカリフォルニア州のトヨタとGMの合弁工場を引き継いだのがテスラでした。EVの開発で協業した時期もあります。その後、別々の道を歩んだ両社の一方の車が、いま相手のお膝元の港に1000台単位で並んでいます。

国内勢は慎重、輸入勢は前のめり

トヨタは2024年、2026年時点のEV生産の目安を年150万台から100万台へ引き下げ、2025年にはさらに下方修正したと報じられました。世界的にも、EV一本に絞るのではなく、ハイブリッド車なども残す方向への見直しが進んでいます。国内メーカーが足元を固め直している局面で、中国製の米国ブランドEVがこの港から各地へ流れ出す。この非対称が、いまの自動車産業の姿です。

大企業は8年ぶりの高水準。では、地方の現場は

数字の上では、景気は悪くありません。日本銀行が7月1日に公表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の業況判断指数(DI)はプラス22。改善は5四半期連続で、2018年3月以来の高い水準と報じられています。AI・半導体関連の需要や価格転嫁の進展が押し上げ、2月末からの中東情勢の悪化による原油高も、それを打ち消すには至りませんでした。

中小企業に目を移すと、景色が変わります。業況判断DIは製造業がプラス9、非製造業がプラス15。仕入価格判断DIは中小製造業で76に達する一方、販売価格判断DIは40にとどまりました。仕入れは上がる。売値は追いつかない。この差が、中小企業の現場そのものです。

賃上げも同じ構図です。連合の2026年春闘最終集計では、全体の賃上げ率が5.01%と3年連続で5%台に乗りました。3月の集中回答日には、トヨタ自動車が6年連続の満額回答です。一方、組合員300人未満の中小組合は4.69%でした。平均値の好調が、地方の中小企業や個人店にどこまで届いているのか。統計は、そこまでは教えてくれません。

人口36万人の豊橋は、どういう街なのか

豊橋市の人口は約36万人。豊橋駅には東海道新幹線が停まり、名古屋までは20分ほど、東京へも1時間半弱です。駅前からは路面電車が走り、車で20分も市街地を離れればビニールハウスと畑が広がります。県庁所在地ほど大きくはなく、ベッドタウンでもありません。市街地から工業地帯、農地へと、短い距離で風景が切り替わります。

農業の規模は全国でも上位です。2023年の農業産出額は約420億円で、市町村別で15位。隣の田原市は891億円で全国2位です。豊橋市では大葉やトマト、うずらの生産が盛んで、田原市はキャベツの産地として知られ、産出額では花きが最も大きな割合を占めます。自動車の輸出入拠点のすぐ隣に、全国有数の農業地帯が続いています。

働き手の構成も動いています。豊橋市の外国人市民は2025年4月時点で約2万2000人。人口の約6%です。2018年12月時点では約1万8000人、比率は5%弱でした。長くブラジル国籍の住民が中心でしたが、近年はフィリピンやベトナムなど東南アジア出身の住民が増えています。

輸出入、食、労働力。豊橋を見ることは、この3つを同時に見ることでもあります。

港に船が着けば、陸揚げ、新車整備、陸送と仕事が生まれます。ただ、岸壁の活気が街の商店や町工場まで届いているかどうかは、港の統計には出てきません。そこで、豊橋で事業を営む2人に聞きました。

豊橋の株式投資家と経営者、2人に聞く

株式投資家の中野勘十さんと、株式会社Style代表取締役の船井博文さんに、地元経済の現状を聞きました。

■株式投資家 中野勘十さん

Q:三河港にテスラが陸揚げされたというニュースは、地元ではどう受け止められていますか。仕事の場で話題になりましたか。

A:地元では、意外とそこまで話題になっていません。ただ、投資家としては、テスラの輸入拡大で恩恵を受ける港湾物流や整備、陸送の企業をチェックしています。実際に関わっている企業を調べると、非上場の会社が中心のようです。

Q:港の動きや、円安・関税といったニュースが、ご自身の商売に効いていると感じる場面はありますか。

A:飲食店では、円安による輸入食材の値上がりを実感しています。投資家としても為替はかなり意識しています。想定為替レートを155円や160円に置いている海外依存度の高い企業にとって、急激な為替の変動や関税の変更は、業績への影響が大きいと見ています。

Q:仕入れや光熱費の値上がり分は、価格に反映できていますか。

A:飲食店では、値上げ分を価格に反映できているのは半分程度で、かなり厳しい状況です。高級店を除く個人店は特に苦しいと思います。投資でも同じで、独自の技術や強みを持つ企業は値上げがしやすい。差別化できない企業は価格転嫁が難しく、利益を削っていると感じます。

Q:人の確保は、この数年でどう変わりましたか。外国人の働き手についてはどうですか。

A:飲食店の人材確保は非常に厳しいです。最低賃金も年々上がり、高い時給を出せば採用できるという状況でもなくなってきました。外国人材にも期待していますが、2026年は特定技能「外食業」の受け入れが上限に達し、新規の申請が制限されています。人手不足なのに、必要な人材を増やしにくいという難しさを感じます。

Q:5年後、豊橋の街と経済は、どうなっていると思いますか。

A:豊橋市の中期的な街づくりを見ると、今後は駅前など主要エリアへの人の集約がさらに進み、そこから外れた地域では土地や店舗の空洞化が進むと思います。AIやSNSによって商売のやり方も大きく変わるので、その変化を取り入れられない店舗や業界は、これまで以上に厳しい競争を強いられるでしょう。

■株式会社Style代表取締役 船井博文さん

Q:三河港にテスラが陸揚げされたというニュースは、地元ではどう受け止められていますか。仕事の場で話題になりましたか。

A:製缶や板金、設備関係の同業や取引先のあいだでは、かなり話題に上りました。三河港はもともと輸入車日本一の港ですが、そこにEVの代表格であるテスラが入ってきたのは、象徴的な変化として受け止められています。ものづくりの現場の視点では、ガソリン車からEVへのシフトで、下請けに流れてくる板金・プレス・製缶の部品需要がどう変わるか。危機感と期待の両面で話に出ることが多いです。

Q:港の動きや、円安・関税といったニュースが、ご自身の商売に効いていると感じる場面はありますか。

A:直接の輸出入をしていなくても、波及効果として確実に効いています。三河港を通る自動車関連や設備投資の増減は、治具や架台、搬送パレットなどの製缶・板金の需要に直結します。円安による鉄、ステンレス、アルミ、購入品の材料費の高騰もダイレクトに響いていて、為替の変動は常に注視せざるを得ません。

Q:仕入れや光熱費の値上がり分は、価格に反映できていますか。

A:材料費については、相場の高騰を理由に一定の理解を得られるケースが増え、以前よりは価格転嫁しやすくなりました。一方で、機械にかかる電気代などのエネルギーコストや労務費の転嫁は、まだ交渉が難しいのが本音です。まだまだ価格競争に巻き込まれやすいですね。

Q:人の確保は、この数年でどう変わりましたか。外国人の働き手についてはどうですか。

A:若手の採用は年々難しくなっていて、応募自体が集まりにくいのが実感です。製缶板金のような職人技が必要な仕事は一人前になるまで時間がかかるので、技術継承の難しさを痛感しています。外国人の受け入れも周囲では増えていますが、弊社はまだ雇っていません。言葉の壁や技術指導のハードル、受け入れ体制の整備を考えると踏み切れていないのが現状です。その分、今いる職人の労働環境の改善や作業の効率化を進めながら、少数精鋭で付加価値の高い仕事、特注品や図面起こしからの製作にどう対応するかに力を入れています。

Q:5年後、豊橋の街と経済は、どうなっていると思いますか。

A:自動車産業の構造転換や人口減少で、従来と同じやり方を続ける中小製造業は淘汰が進む厳しい局面を迎えると思います。ただ、三河港という物流インフラと、長年培われた金属加工の技術集積という強みは変わりません。既存の自動車下請けに依存しすぎず、産業機械や特注設備、試作開発に柔軟に対応できる会社が生き残り、街全体としても多様で筋肉質なものづくりの街へ脱皮していることを期待しています。

関税、円安、賃上げ、人手不足。現場の声はどこに刺さるか

テスラの話題ひとつ取っても、受け止めは割れました。町工場では取引先との会話に上り、飲食店ではほとんど出てこない。港の変化が届く距離は、業種によって違います。

まず関税です。米国の日本車に対する関税は、2025年の日米合意で15%になりました。それまでは追加関税によって27.5%に引き上げられていました。完成車メーカーだけの話ではありません。部品や加工を担う取引先にも、形を変えて降りてきます。

船井さんの会社は直接の輸出入をしていません。それでも、港を通る自動車関連の荷動きや設備投資の増減が、治具や架台といった製缶・板金の受注に跳ね返ります。関税の影響は、完成車メーカーから部品や加工の工程へ、時間差で伝わります。

円安の効き方は、立場で正反対になります。為替は7月下旬に1ドル=164円近くまで円安が進み、政府・日銀の介入もあって反落し、9月上旬には153円台まで戻しました。6月短観で企業が2026年度の事業計画の前提に置いた想定為替レートは、全規模・全産業で152.57円です。夏の実勢は、それより円安の水準が続いたことになります。輸出企業の採算を支える一方、輸入食材やエネルギーの価格を通じて、飲食店のコストを押し上げます。

中野さんは、飲食の現場では輸入食材の値上がりがはっきり出ていると話します。一方、投資家として見れば、同じ円安が輸出企業の追い風になります。一つのニュースが、仕入れ値と企業の決算の両方に効いてきます。

賃上げは3年連続で5%台に乗りましたが、中小組合との差は残ったままです。値上げができなければ、原資は出ません。6月短観では、中小製造業が1年後の自社の販売価格を平均4.6%引き上げる見通しを示しています。意欲はある。あとは、取引先と消費者がそれを受け入れるかどうかです。

2人の証言は、転嫁できるものとできないものが分かれると示しています。材料費は通るが、電気代と労務費は通らない。飲食店で価格に乗せられるのは上昇分の半分程度。仕入れ76に対して販売40という短観の差は、現場ではこう見えています。

人手不足について、短観の雇用人員判断DIは、全規模・全産業でマイナス37。中小企業ではマイナス39で、大企業のマイナス28より不足感が強い状態です。省力化の投資も続き、2026年度の設備投資計画は全規模・全産業で前年度比6.8%増となっています。

2人が最も強い言葉を使ったのが、この話題でした。片方は若手の応募が集まらず、技術継承が進まない。もう片方は時給を上げても採用できない。外国人材という選択肢も、外食業分野では狭まっています。特定技能1号の在留者数が受け入れ見込数の5万人に近づき、2026年4月13日以降に受理された新規の申請は、原則として不交付・不許可とする運用になりました。

テスラの輸入拡大は、港の仕事を増やします。それが地域の中小企業の業況や賃金にまで広がるかどうかは、三河港の今後の取扱台数と、10月に公表される9月調査の短観で確かめるほかありません。6月短観の時点では、大企業製造業のDIは9月にプラス17へ下がる見通しが示されています。

豊橋の変化は、あなたの業界の未来かもしれない

5年後について、2人の答えは重なりました。船井さんは中小製造業の淘汰が進むと見たうえで、下請けに依存しない会社が残るといいます。中野さんは駅前への集約と、それ以外の地域の空洞化を挙げます。立場は違っても、選別が進むという見立ては同じでした。

海外のブランドが、日本にある港と整備網を使って販売網を広げる。コストの上昇分を価格に乗せられるかどうかで、会社の体力が決まる。人手が足りず、技能の評価が重くなる。豊橋で起きていることは、業種を置き換えれば自分の業界にも当てはめられます。

トヨタの港に、中国製のテスラが1000台並ぶ。この光景には、関税も円安もEVも人手不足も入っています。2026年の日本経済は、東京の指標より、こういう岸壁のほうが見やすいのかもしれません。

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の投資行動を推奨するものではありません。

文/ 鈴木林太郎 ライター 企業・自治体の取材とデータ検証を重ね、現場の課題を言語化する記事づくりが得意。

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