リモートワークから出社回帰への世界的トレンド
悪いことばかりではなかったと考えたくもなるコロナ禍中の特異な日々であったが、個人的にある意味新鮮だったのは世の働き方が否応なく多様化したことだ。
出社しない勤務形態であるリモートワーク、テレワークという言葉が生まれ、その一方でフードデリバリーをはじめとするアプリで完結するギグワークを試みる者も増えた。もしコロナ禍の時期がなかったらなら、フードデリバリーは今日のような規模では社会に定着していなかったかもしれない。
このように働き方が多様化し、コロナ禍後もリモートワークを続ける職場も少なくないようだが、ここにきて“出社回帰”の動きが強まっているようだ。
7月にはT大手のGMOインターネットグループが在宅勤務を原則廃止にして話題となったが、ほかにもアクセンチュア、楽天グループ、LINEヤフーなど、それまでは在宅勤務を推奨してきた大企業の出社回帰が進んでいる。
海外ではAmazonやZoomなどが原則出社や出社日数の増加を義務化しており、IT分野を中心に出社回帰はある意味で世界的なトレンドになっているようだ。
週5日の完全出社に加えて、出社とリモートを混ぜた“ハイブリッドワーク”も一部の職場では定着している。ではオフィス勤務と在宅勤務で何が得られ、何が失われるのだろうか。新たな研究では出社かリモートワークかで従業員のつながりや承認意識にどのような影響が出るのか、そして組織はそれらを取り戻すために何ができるのかを検証している。
ハイブリットワークにおける勤務体験の変化を追跡
独コンスタンツ大学をはじめとする研究チームが今年7月に「Journal of Occupational and Organizational Psychology」で発表した研究は、オフィスのコーヒーメーカーのそばでの同僚との何気ない会話、廊下で出くわした際のちょっとした近況報告、会議開始までの待ち時間での雑談など、働く人々は日常的な人的交流から活力と繋がりを感じていることが示されている。
研究チームは特定の連続する数日間、従業員に毎日複数回短いアンケートに回答する経験サンプリング調査を2件実施し、同一人物における日々の経験の変化を可能な限り把握した。
最初の調査では、イギリスのフルタイムのハイブリッドワーカー119人が5日間にわたって2回のアンケートに回答し、528件の日々の観察データが得られた。
参加者は、その日の勤務場所、午前中に同僚と交わした雑談の量、午後の仕事上のやり取りの後に感じた活力などを報告した。
研究チームはまた組織がオンライン会議に非公式な社会的交流をどの程度組み込んでいるかを評価した。その質問項目には、オンライン会議中にメンバーの近況を確認したり、互いを気遣ったりすることなどが含まれている。
2つ目の調査では、ドイツのフルタイムのハイブリッドワーカー171人を対象に、10日間の勤務期間中に3回のアンケート調査を実施し、1518件の観察データを得た。
この研究では、職場における日々の帰属意識(グループの一員として受け入れられていると感じること)と独自性(他者が自分の個性に気づき評価してくれると感じること)に関する指標を追加することで、研究チームは勤務場所から社会的欲求充足(social need fulfillment)に至るまでの連鎖を追跡することができた。
研究チームは朝の気分、同僚との交流時間、曜日、往々にして邪魔な同僚の介入など、別の説明となり得る要因についても把握し分析に含めた。
活力は同僚とのリアルな交流から生まれている
1つ目のデータを分析した結果、従業員が在宅勤務をした日は、オフィスに出勤した日と比べて、同僚との雑談が著しく少なかったと報告している。これは今回の調査で最も顕著な影響の一つだった。雑談の機会が減ると、同僚との交流によって活力を得る感覚、つまり「人間関係におけるエネルギー」も低下するという結果になった。
2つ目の研究でもこの傾向は続いていた。リモートワークの日には従業員は職場への帰属意識と、自分の貢献が認められているという独自性の感覚が低下した。つまり雑談が減り、それに続いて人間関係におけるエネルギーが低下したのだ。
研究者たちは、雑談の減少がリモートワークのほかの利点によって相殺されるかどうかも検証した。リモートワークの日には同僚からの邪魔が減ったのは事実で、邪魔が減ったことで個人として認められているという独自性の感覚がわずかに向上した。
しかしプラスとマイナスを合計すると、リモートワークの交流喪失コストはメリットを上回った。帰属意識と独自性の両方に対する間接的な影響は、全体としてマイナスだった。
最初の研究における補足分析では、家族やカフェの仲間など、仕事以外の人とのちょっとした会話が、失われた職場での人的交流を穴埋めする可能性があるかどうかが検証された。リモートワークの日にはそうした気軽な会話が増えてはいたものの、それが仕事に対する活力にはつながってはいなかった。仕事への活力をもたらす効果は、職場での同僚とのリアルな交流から生まれていることが示唆されてくる。
オンライン会議でのささやかな近況報告の重要性
研究チームは組織がリモートワークによる社会的影響を軽減できるかどうかにも関心を持ち、オンライン会議の時にささやかであれ、仕事外の人的交流が含まれているかどうかを検証した。たとえば会議の冒頭で数分間、お互いの近況を報告し合ったり、仕事以外の出来事について尋ねたりするような行為である。
分析の結果、こうした交流はリモートワークに伴う雑談の減少を補完した。こうした確認の時間を定期的にオンライン会議に組み込んでいる組織に所属する従業員は、リモートワークの日にはオフィス勤務の日よりも雑談の機会は少なかったものの、その影響の差は小さかった。その結果、「人間関係におけるエネルギー」の喪失や、帰属意識と独自性の低下の度合いも小さくなっていたのだ。
研究チームはこうした比較的単純で手間のかからない交流が、オフィス勤務では自然に生まれる雑談の喪失を補うのに役立つのだと解釈している。
研究チームは単発のオンライン交流会を実施するのではなく、オンライン会議の中に小規模で定期的な交流の機会を組み込むことの価値を指摘している。単発のオンライン交流は強制的な負担に感じられることもあるため、通常のオンライン会議の中に人的交流の時間を織り込むことが推奨されてくる。
オンライン会議でのささやかな人的交流が帰属意識を維持するのに思いのほか効果的であることが示唆されることになった。オンライン会議の有効性が確認できたことは、コロナ禍を通して得られた思いがけない僥倖というべきなのかもしれない。
※研究論文
https://bpspsychub.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/joop.70150
文/仲田しんじ
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