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「この人がいないと仕事が回らない」と思われる組織ほど〝実は弱い〟という事実

2026.09.18

下半期に向けて組織体制が変わるとき、「あの人がいたから今の仕事が回っていた」という声が上がることは少なくないのではないでしょうか。一見、頼れる人材がいる組織は強く見えます。しかし、その人が異動・退職した途端に業務が滞ったり、後任者が同じ成果を出せなかったりするなら、それは組織ではなく個人に依存していた証拠です。識学では、仕事の役割は本来「役職」に対して与えられるものであり、「個人」に与えられるものではないと考えます。役割を個人のものと捉えてしまうと、担当者が変わるたびにその役職で何をすべきかという定義があいまいになり、組織としての機能が引き継がれません。誰が担当しても同じように機能する組織をつくるために、体制変更で見直すべき視点を識学の理論から解説します。

「あの人がいないと回らない」組織の落とし穴

実際、下半期に人事異動や組織再編が発表されると、現場では「あの人が抜けたら、この業務は誰も回せない」「今の体制が保てているのは、あの人が踏ん張っているからだ」といった声が決まって上がります。こうした声は、一見すると優秀な人材への信頼の表れであり、美談として語られがちです。

しかし、経営やマネジメントの視点に立てば、この状態は看過できないリスクを意味します。その正体を見れば、その業務は「組織の仕組み」によって回っているのではなく、「特定個人の資質と踏ん張り」によってかろうじて維持されているに過ぎないからです。異動や退職、あるいは体調不良による長期離脱など、その人が抜ける可能性は常に存在します。にもかかわらず、多くの組織はその日が来るまで、属人化の危うさに気づくことができません。下半期の体制変更は、その危うさが一気に表面化するタイミングに他なりません。

識学が説く「役割」の本質

この考え方をもう一歩掘り下げると、識学が「役割は役職に宿るものであり、個人に宿るものではない」と考える理由が見えてきます。それは、仕事を個人に与えられたものだと捉えた瞬間、組織はその人の存在そのものに依存してしまい、想像以上にもろくなるからです。

例えば、役割を個人に紐づけて捉えている組織では、「営業部長のAさんだから顧客との関係が築けている」「Aさんの人脈と経験があるから、この取引は成立している」というように、成果の要因が個人のキャラクターや能力に還元されてしまいます。すると、Aさんが異動した途端、後任者は「Aさんと同じことができない自分」というプレッシャーにさらされ、周囲からも「Aさんならできたのに」という声が上がるようになります。これは後任者の能力不足ではなく、そもそも役職に求められる結果が言語化されておらず、属人的なやり方に依存する設計になっていたことが原因です。

一方、役割を役職に紐づけて設計している組織では、「営業部長というポジションには、この基準の売上と、この水準の顧客管理体制の構築が求められる」という定義が明確に存在します。誰がその役職に就いても、果たすべき結果は変わりません。属人化のリスクを乗り越え、人が変わっても組織の機能が揺らがない状態こそ、識学が目指す「仕組みで回る組織」の姿です。

属人化を生む「曖昧な役割設定」という原因

なぜ、多くの組織が知らず知らずのうちに属人化を進めてしまうのでしょうか。その主な要因は、役職ごとに求めるべき「結果」が具体的に定義されていないことにあります。

役職に求める結果が曖昧なままだと、実際にその役職を担う人は、自分の得意なやり方、自分の人脈、自分の経験則に頼って結果を出そうとします。これ自体は自然な行動です。しかし問題は、その先にあります。上司やマネジメントが、そのプロセスを「その人だからできる特別なもの」として評価してしまい、本来行うべき仕組み化の努力を後回しにしてしまうのです。結果を出している間は誰も疑問を持たず、その個人に依存した状態がそのまま定着していきます。

さらに厄介なことに、この属人化はマネジメント側の怠慢だけでなく、本人の心理によっても加速します。優秀な人材ほど、「自分がいなくても回る状態」をつくることに抵抗を感じやすいのです。自分にしかできない仕事を抱えていることは、組織内での存在価値の証明でもあるため、無意識のうちに仕事を抱え込み、周囲への共有や仕組み化を後回しにしてしまうケースも少なくありません。マネジメント側の評価の仕方と、本人の心理。この両方が絡み合う以上、組織側がこの構造を放置すれば、属人化は個人の問題ではなく、明確な「マネジメントの不備」として蓄積していきます。

誰でも機能する組織への3つの視点

では、属人化から脱却し、誰が担当しても一定の結果が出る組織をつくるためには、何をすべきでしょうか。識学の考え方に基づけば、次の3つの視点が、定義・仕組み化・評価という一連の流れとして有効です。

第一に、役職ごとの「完全結果」を定義することです。「顧客との良好な関係を築く」といった曖昧な表現ではなく、「四半期ごとに主要顧客との定例会を実施し、次期契約の意向を文書で確認する」というように、誰が見ても達成・未達成を判断できる基準まで言語化します。この定義こそが、属人化を防ぐための土台になります。担当者が変わっても、後任者は何を目指せばよいかに迷うことがありません。

第二に、業務プロセスを個人の裁量から「組織のルール」へ移行することです。特定の担当者しか知らない進め方や暗黙知は、必ず手順やチェックリストとして文書化し、個人の頭の中から組織の外側へと持ち出す必要があります。属人的なノウハウを個人の頭の中に留めておく限り、その人がいなくなった瞬間にノウハウごと失われてしまうからです。

第三に、評価の対象を「その人らしいやり方」から「役職として求められる結果」に切り替えることです。上司は、部下が独自の工夫で成果を出したこと自体を否定する必要はありません。ただし、その工夫を個人の手柄として終わらせるのではなく、組織の標準として仕組み化できたかどうかまでを評価に含めることが重要です。評価の軸は常に「役職に求められる結果を満たしたか」に置きながら、個人の工夫を組織の資産へと転換できたかを合わせて確認する姿勢が求められます。

下半期の体制変更で、今すぐ問うべきこと

体制変更の発表を控えたこのタイミングこそ、自組織の属人化リスクを点検すべき契機です。「この業務は、担当者が変わっても同じ結果を出せる状態になっているか」「この役職に求める結果は、誰が読んでも同じ解釈ができる言葉で定義されているか」。この2つの問いに即答できない役職があるとすれば、それこそが今、静かに存在している組織の弱点にほかなりません。

異動や退職は、企業活動を続ける限り必ず発生します。そのたびに業務品質が揺らぎ、後任者が疲弊し、周囲が「あの人がいた頃は良かった」と口にする組織であり続けるのか。それとも、誰が担当しても機能する強い仕組みを、今この瞬間から構築し始めるのか。その分岐点は、体制変更を目前に控えた今にあります。

まとめ

「あの人がいないと回らない」という言葉は、美談のように聞こえて、実は組織の設計不良を示すサインです。識学の考え方では、役割は個人ではなく役職に与えられるものであり、誰が担当しても同じ結果が出せる状態こそが、真に強い組織の姿だと考えます。属人化が生まれる背景には、役職ごとの結果が曖昧なまま放置され、個人の裁量とノウハウに依存する運用が定着してしまうという構造があります。

下半期の体制変更を控えた今、まずは自組織の主要な役職について、「求める結果が誰の目にも明確な言葉で定義されているか」を一つひとつ確認してみてください。もし答えに詰まる役職が一つでもあったなら、それは異動や退職のたびに組織が揺らぎ続けることを、今この時点で意味しています。その穴は、体制変更の発表と同時に一気に表面化します。体制変更を控えた今は、着手を検討するタイミングとしてふさわしい時期です。

文/識学コンサルタント 林良樹

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