若者世代で流行中のネットスラング「ドパガキ」。「ドーパミン中毒のガキ」の略で、ショート動画などで刺激を浴び続けないとかえって落ち着かない子供を冷笑する自虐的な言葉だが、どうも笑い話では済まないらしい。
アメリカで薬物依存症の治療に携わってきた法廷臨床心理学博士の遠藤貴則氏は、その脳で起きていることを「薬物依存と同系統」と指摘し、大人も無縁ではないという。手遅れになる前に何ができるのか。
「ドーパミン中毒」という病気は存在しない
ショート動画を延々とスワイプし、「10分だけ」が気づけば深夜に。サビから始まる音楽、倍速視聴にファスト映画。ひいては強い刺激がないと集中力が続かない子供たちを指す「ドパガキ」という言葉について、遠藤氏はこう一蹴した。
「そもそも『ドーパミン中毒』という病気はありません。ドパガキの脳に出ているのはドーパミンだけではないので、科学的にも的を射ていません。ドーパミンに加え、覚醒に関わるノルアドレナリン、ストレスホルモンのコルチゾールが大量に分泌され、逆に眠りを促すメラトニンは減る。脳の興奮と抑制のバランスが崩れ、『いいね』をもらうと天然の麻薬物質まで出ます。確かにキャッチーな言葉ですが、私はその事の深刻さも踏まえて、あえて『高刺激デジタル脳』と呼びたい」
こうした脳内に分泌される物質が、人を悪循環に陥れる。
「スマホを見ることでドーパミン系が反応し、動画やゲーム、連絡などの通知が来れば覚醒系が高まります。通知を見逃したくないという気持ちからストレスホルモンが分泌され、メラトニンが減ることで夜更かしする。睡眠不足になると翌日さらにブレーキが弱まり……。このループはネバーエンディングです」
ではなぜ、ショート動画にここまで脳が支配されるのか。カギは「ランダム報酬」だ。
「ショート動画をスワイプする行為は、いわば“無限に引けるガチャ”。『次は面白い当たりの動画を引けるかもしれない』というランダムな報酬が、人間を依存させます。構造はギャンブルとまったく同じで、現代ではほぼすべての人間がポケットの中にスロットマシンを持ち歩いているようなものです」
その代償は、データにも表れ始めている。
「2026年に発表された延べ9万8000人分のデータを統合した分析では、ショート動画の使用が多い人ほど注意力と抑制制御、つまり衝動にブレーキをかける力が低いという関連が示されました。診断名こそ付いていませんが、こうした症状のカテゴリとしては若年性認知症に近い」
とはいえ、相手はスマホ。薬物やギャンブルと並べるのは大げさではないのかとぶつけると……。
「脳で起きていることは、薬物やギャンブル依存症とほぼ同じ。スマホ中毒者にも、依存症の特徴である禁断症状は出ます。ただ、これらと違うのは一発で強い刺激を受けるのではなく、小さな報酬を1日に何百回、何千回と繰り返すこと。厄介なのは、少しずつジャブを打たれているのでなかなか依存を自覚しにくい点です」
そして、これは若者だけの話でもない。
「理性のブレーキを担う前頭葉は20~25歳ほどで完成するとされており、酒やたばこ、ギャンブルが20歳からしかできないのは、ある意味理にかなっていると言えます。アメリカ心理学会の研究発表などを見ると40~50代でも十分に起こり得るとされていますが、やはり若者の方がリスクは高い。にもかかわらず、現代では学校の連絡をLINEで行うなど、社会的な要請から子供にスマホを持たせる動きが進んでいる。この風潮に強い危機感を覚えています」
あなたは何段階目?依存度を測る5つのチェック項目
では、あなたの依存度はどの程度か。アメリカ心理学会などの知見をもとに遠藤氏が挙げる、「問題のあるスマホ使用」の早期スクリーニングが次の5項目だ。
◆スマホ依存度チェック
(1)予定より長く使ってしまう——「10分だけ」が毎回30分、1時間になる
(2)やめようとしても何度も失敗する——スクリーンタイム制限を自分で解除してしまう
(3)刺激がない時間に耐えられない——電車、信号待ち、食事中、トイレでもスマホを出す
(4)睡眠・仕事・勉強・人間関係を侵食している
(5)楽しいからではなく、嫌な気分を消すために使っている——不安、退屈、孤独を感じるたびにSNSや動画を開く
ポイントは、当てはまる項目の組み合わせで深刻度が変わることだ。
「(3)だけならただの習慣ですが、(1)(2)(3)のすべてが当てはまると、もう自分をコントロールできなくなり始めている段階です。(4)まで来たら、もはや『問題使用』。うつ病もそうですが、精神疾患は日常生活に支障が出た時点で病気と判断されます。ここまで来たら専門家に相談してください。そして(5)まで来たら重度の依存です。薬物依存でいえば、楽しいからクスリをやる段階から、クスリが抜けたときの苦痛を消す“痛み止め”として使う段階に移る。そうなると末期だと言われますが、(5)はそれとまったく同じ構造です」
依存の恐ろしさを、遠藤氏はこう端的に説明する。
「スマホを見ながらの交通事故がありますよね。あれは単なる不注意ではなく、脳が目の前の現実よりも刺激を優先するようになった結果です。『気づかなかった』なんてただの言い訳だろうと思うかもしれませんが、依存が進むと本当に『見えなくなる』んです」
「スマホハック」で脳を再設計する
対策の定番として語られるのが、スマホを断つ「デジタルデトックス」だ。ところが遠藤氏の評価は冷ややかだ。
「チェックリストの(1)~(3)の段階なら効果はあるでしょう。でも(4)(5)まで進んだ人は、これでは無理。なぜなら、環境を変えていないからです。デトックスを終えても、家にスマホ以外の楽しみがなければ必ずスマホに手が伸びる。環境の影響力は、意志力よりも強いんです。研究でも、1週間SNSを断つと健康状態や不安が改善する一方で、孤独感やネガティブな感情がむしろ増える人がいることがわかっています」
そこで遠藤氏が勧めるのが、脳を高刺激から引き剥がす5つの「スマホハック」だ。
◆スマホハック5選
(1)スマホの画面をグレースケール(白黒表示)に設定し、通知を切る
→これを実践した調査結果によると、2週間で問題使用とスクリーンタイムが減り、睡眠まで改善
(2)先に睡眠を改善する
→睡眠不足だと脳の制御機能が弱まり、報酬系が反応しやすくなる。スマホは寝室に持ち込まない
(3)1日30分、運動をする
→おすすめはダンスや武道のような体を制御し、決まった動きをするもの。脳と連動し、ブレーキ力そのものを高める練習になる
(4)1日30分、脳に何も入れない時間を作る
→働きっぱなしの脳の注意システムを休ませるだけで、回復力が高まる
(5)スマホを絶対に使わない場所を決める
→『使うのはデスクの上だけ』などを決め、環境の力を利用する
一方で、良かれと思ってやりがちな逆効果もある。筆頭が“ご褒美スマホ”だ。
「例えば、『宿題が終わったからショート動画を見る』はご法度。スマホが明確に報酬となってしまっているからです。また、食事をしながらスマホを見るなど、刺激を複数同時に受けるのもよくない。そして完全スマホ禁止も反動で爆発するので逆効果になりがちです」
大切なのはスマホに使われるのではなく、こちらから使う意識を持つことかもしれない。
【識者プロフィール】
遠藤貴則/法廷臨床心理学博士
株式会社ビジネスサイエンスジャパン取締役、ビジネスサイエンストレーニングアカデミー学長。米ルイス&クラーク大学で心理学を専攻し、カルロス・アルビズ大学大学院で法廷心理学に特化した臨床心理学博士号(Psy.D.)を取得。米オレゴン州の臨床心理学ライセンスを持ち、フロリダ州で薬物依存症の治療に従事。帰国後は脳科学と心理学をビジネスに応用するニューロマーケティングの専門家として活動する。著書に『ザ・ニューロマーケティング』(KADOKAWA)など。
文/桜井カズキ
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