こんにちは。弁護士の林 孝匡です。宇宙イチわかりやすい法律解説を目指しています。
「残業代を支払わない」という合意って、あり?
んなバカな!って思いますよね。
これが争われた事件を解説します。裁判所の判断は!?
※ 実際の判決を基に構成
※ 判決の本質を損なわないようフランクな会話に変換
※ 争いを一部抜粋して簡略化
登場人物
▼ 会社
飲食店の経営(社員約10名)
▼ Aさん
正社員としてある店舗で勤務
Aさんは、約1年2か月で退職します。長時間労働と残業代の不払いに耐えきれなかったのでしょうか。その後、未払い残業代の支払いなどを求め、会社を訴えました。
どんな事件か
■ 営業時間
Aさんが勤務していた店舗の営業時間は、下記のとおりです
平日:12~15時、17~23時
土日祝:12~23時
■ 「残業代を支払わない」との合意?
―― そんな合意があったんですか?
会社
「はい」
会社
「Aさんをアルバイトとして採用する際および正社員として採用する際の面談において、Aさんの給与には1時間分の時間外・深夜割増賃金(固定残業代)が含まれていることを説明しました」
会社
「Aさんもこれを了解しましたよ」
会社
「その上で、Aさんは1時間分を超える割増賃金については請求しないことについて納得して、会社とその旨合意をしました」
―― そんな不利な合意をするんですかね?
会社
「そのかわりに、店舗の営業終了時刻より早く退勤した場合であっても賃金は減額しなかったですからね」
―― Aさん、ご反論はありますか?
Aさん
「固定残業代に関するそのような説明を受けた事実も、合意をした事実も一切ありません」
完全に言い分が衝突していますね。裁判へGo!
裁判所のジャッジ
Aさんの勝訴です。裁判所は「会社はAさんに対して残業代約248万円を支払え」と命じた。
―― 勝訴のポイントはどこでしょうか?
裁判所
「そのような合意は成立していないですね」
【補足】
具体的には、裁判所は、「雇用契約書等は作成されておらず、また、Aさんに交付された賃金明細にも固定残業代に関する記載は見当たらない。さらにAさんが当事者尋問において上記合意を明確に否定していることも踏まえると、上記合意の成立を認めることはできない」と判断しました。
裁判所
「かりに残業代を支払わないという合意があったとしてもですよ」
「労働基準法37条に違反しており無効です」
「残業代が基本給に含まれるものとして一切支給しないに等しいからです」
そして、裁判所は「会社はAさんに対して残業代約248万円を支払え」と命じました(休憩時間や終業時刻などについても、おおむねAさんの主張が通りました)
■ 社長の責任
裁判所
「社長も連帯して248万円を払ってね」
―― どうしてでしょうか?
裁判所
「会社が従業員10名程度の比較的小規模な会社であること、社長が唯一の業務執行社員であることからすれば、残業代の支払いは、社長の職務の一つであり使用者の義務である。これに違反した者には刑事罰が科せられるほか、事業主に対しても罰金刑が科せられるんです(労基法119条1号、121条1項)」
裁判所
「これらの事情に照らせば、社長は、職務の一つとして、労働基準法37条に従ってAさんに対して残業代を支払うべき義務を負っていたといえる」
裁判所
「残業代の不払いについては、社長に悪意または重過失による任務懈怠(けたい)が認められます」
■ お仕置き(付加金)
裁判所
「まだあります」
「社長は……」
「さらに、残業代と同額(約248万円)の付加金(労働基準法114条)を払ってください」
付加金の最大額は、2倍。すなわち、裁判で認定された未払い賃金と同一額とされています。今回、最大の付加金が命じられた背景には、社長とX社の対応が悪質だという裁判所の判断があったのでしょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな~」があれば下記URLからポストしてください。また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
「ムズイ法律を、おもしろく」をモットーにコンテンツを作成している弁護士
YouTube:https://www.youtube.com/@saiban_LABO
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