■連載/阿部純子のトレンド探検隊
日本の労働者の8割以上が日常的に疲労を感じているという調査結果もあり、睡眠不足や疲労が蓄積することで、集中力や判断力、生産性の低下や、ヒューマンエラーの増加につながることが指摘されている。解決策のひとつとして注目されるのが、短時間の仮眠を取る「パワーナップ」だ。
海外の企業では専用のナップルーム(仮眠室)を設置したり、スペインやイタリアではシエスタ(短い昼寝や長めの昼休み)文化が根付いたりと、休息が働き方の一部として受け入れられているが、日本では「仮眠=サボり」という意識が根強く、休息を妨げている一因となっている。
トヨタ自動車では今年の6~7月にかけて、生活者実態調査とパワーナップ(仮眠)導入企業調査を実施。8月に調査をまとめた「お昼寝白書2026」を発表した。白書では仮眠は生産性向上に繋がるという調査結果を基に、企業が戦略的に休息を取り入れることの重要性を提案している。
※本記事での数字・グラフ等調査結果の出典は「お昼寝白書2026~オフィスワーカー編」(以下、「お昼寝白書2026」)
仮眠取得の障壁は「周囲の目」「サボっていると思われそう」という職場文化
仕事のある日の睡眠時間は7時間未満の人が約8割を占め、8割以上が日常的に疲労を感じている結果となった。疲労を感じる時間は「夕方」(41.4%)が最も多く、疲労の原因として「睡眠不足」(50.7%)、「精神的ストレス」(49.2%)を挙げており、仕事のパフォーマンスに影響を及ぼしていることがわかった。
一方で、疲労に十分対処できている人は約1割にとどまり、半数以上が「十分に対処できていない」と回答した。
オフィスワーカーの9割近くが勤務中に休憩や仮眠を取りたいと感じているが、日常的に仮眠を取る人は約1割で、勤務中に仮眠をしたいと思いながら我慢をしたことがある人が8割以上となった。
仮眠を取ったことがあるか尋ねたところ、約6割が勤務中に仮眠を経験しており、20代は仮眠の実施率が高く、年代が上がるにつれて低下する傾向が見られた。仮眠自体は特別な行為ではないものの、日常的な休息習慣として定着していないと思われる。
調査では「なぜ日本人が昼寝できないのか」についても検証し、「仮眠=サボり」と思われる空気が最大の障壁であると判明した。8割以上が「仮眠=サボり」という空気があると回答した反面、実際に「サボっていると思う」のは1割未満という結果になり、社会全体の空気と個人の認識にギャップがあることがわかった。
勤務中に仮眠を取りやすい雰囲気だと回答した人は3割未満。仮眠制度や仮眠スペースを整備している企業も約2割と、制度不足に加え、「周囲の目」や「サボっていると思われそう」といった職場文化も仮眠休憩の妨げになっていることが示唆された。
日本の疲労状況・休養環境の分析を行っている「日本リカバリー協会」副会長で、大阪公立大学 健康科学イノベーションセンター 特任教授の水野敬氏は仮眠の重要性についてこう話す。
「日本リカバリー協会が毎年実施している10万人調査では、コロナ禍以降、8割以上が『疲れている』と回答する傾向が続いており、20代~40代の働き盛りの世代が特に深刻で、約85%が疲れがたまっている状態だと答えています。
疲労とは、過度の肉体的・精神的活動、または疾病によって生じる、心身の活動能力の減退、パフォーマンスの低下を指します。 疲労は痛み、発熱と並ぶ『三大生体アラーム』であり、“休め”という身体からのサインです。サインを軽視すると慢性疲労へ進みやすく、さらに悪化していく可能性もあります。
OECD(経済協力開発機構)の国際比較調査で、日本人の平均睡眠時間は7時間22分とOECD加盟国の中でワースト1位です。『お昼寝白書2026』の調査でも、仕事のある日の睡眠時間は6~7時間未満が38.2%と最多で、5~6時間未満と合わせると約8割が7時間未満でした。
オフィスワーカーの疲労の原因のひとつは睡眠不足であり、仮眠は能動的に休養を取ることができる戦略でもあります。パイロットやアスリート、オフィスワーカーなどを対象に仮眠の効果について研究が進んでおり、仮眠は科学的効果があり疲労感が取れることもわかってきています」(水野氏)
パワーナップを体験できるイベント「Power Nap Culture Lab 大阪」が開催中
グラングリーン大阪南館4階「SLOW AND STEADY」にて、仮眠を通じたウェルビーイングや生産性向上を実証する体験型イベント「Power Nap Culture Lab 大阪 ― 都市における回復インフラとしての仮眠実証―」が、10月29日まで期間限定で開催されている。
会場にはトヨタ自動車が新規事業として開発した戦略的仮眠ツール「TOTONE(トトネ)」や、広葉樹合板の立ち寝仮眠ボックス「giraffenap(ジラフナップ)」をはじめ、睡眠の質を可視化する最新計測技術などを、予約不要、無料で体験できる。
「TOTONE」は自動車で培った空間設計技術、シート設計技術、居眠り防止技術を応用した、パワーナップ(仮眠)をサポートする技術を搭載。半個室シートに、エアクッションによる身体への働きかけや適切な温度制御、光や音を組み合わせ、呼吸のリズムを整えながら入眠を促し、覚醒時には背中と腰をやさしく押し上げることで、快適な入眠、睡眠、目覚めをサポートする。
「睡眠不足は自動車事故の重要な原因のひとつであり、睡眠課題を解決することがトヨタの使命のひとつであると考えています。
夜にぐっすり眠れば解決なのですが、夜間睡眠は本人のコントロールが難しく、個人差も大きいことから、すべての人が夜間に十分な睡眠時間を確保するのは難しいのが現状です。そこで夜間睡眠以外で、注意力や判断力の低下を防ぐ方法として、日中の短時間仮眠が重要になります。
『TOTONE』は企業や施設向けに展開しており、社内では工場の夜勤者向けに導入が進んでいます。社外では航空会社の整備士向けや、ITコンサル・プログラマー向けに福利厚生の一環として導入されています。導入後のアンケートでは、期待していた集中力向上に加え、ストレス軽減効果も報告されており、生産性向上に繋がっているとの声をいただいています。
今後は夜勤のある医療関係者やタクシードライバーなど、まだ潜在的なニーズがある層へも展開を広げていきたいと考えています。現在は東京、愛知が中心ですが、大阪など他地域へも拠点を拡大していく計画です」(トヨタ自動車 TOTONEプロジェクトオーナー 金子敬氏)
広葉樹合板が開発した、世界初の立ったまま眠る仮眠ボックス「giraffenap」の最新モデルが「YOHAKU(ヨハク)」。電話ボックスほどの省スペースで、頭・臀部・すね・足裏の4点保持により、立ったままに近い姿勢で深くリラックスできる仮眠姿勢を実現する。
昨年開催された大阪・関西万博へも出展し、予約枠が30分単位で満枠になる盛況ぶりだった。体験者の半数以上が実際に眠ってしまい、次の予約者のためにスタッフが起こす必要があったほどだったという。
「知財ビジネスマッチングイベントでイトーキ社の特許に出合ったことをきっかけとなり、 “立ったまま寝る”というユニークなコンセプトの仮眠ボックス『giraffenap』を開発しました。
深い睡眠に入り過ぎず、短時間で効率的にリフレッシュできる“立ち寝”が日中のパフォーマンス向上に繋がるという科学的検証に基づき開発し、『giraffenap』は立ったままに近い姿勢を、頭・臀部・すね・足裏の4点で支えることで、脱力した状態での仮眠を可能にします。
オフィス、病院、保育園での社内向け福利厚生、商業施設での空きスペースを活用した収益化の導入事例があります。また、仮眠以外の用途として、ボックス内にはUSBポートやコンセントも装備し、ノートパソコンを置けるスペースもあるので、ウェブミーティングや軽作業もできます。大手町のオフィス導入事例では午前中は仕事用、午後は仮眠用というハイブリッド運用が実施されています。
現代人は常に脳が働いている状況で、うまく休めていない人が多くいます。そのような状況を改善するため、決済・予約機能付きのレンタルモデル『YOHAKU』で、オフィスや公共施設での新しい休憩文化の普及を目指しています」(広葉樹合板株式会社 代表取締役 山口裕也氏)
【AJの読み】リフレッシュのための仮眠=パワーナップを支援する強力な2つのツール
昼寝といっても長く眠ることではなく、心身を休息させる短時間の仮眠がパワーナップ。「お昼寝白書2026」では正しいパワーナップとして、眠る時間は15~30分、照明を暗くして静かな場所を確保、椅子や仮眠ツールなどで座り姿勢で眠る、時間になったらパッと起きる、と定義している。
パワーナップの条件を整えたツールがトヨタ自動車の「TOTONE」で、入眠時と目覚め時に光や音楽、シートの状態を変化させて最適な仮眠をサポートする。
「TOTONE」を導入した、全日本空輸、デンソー先端技術研究所、ALPHA GROUPのアンケートでは、パワーナップを経験した人のうち、 95.8%が集中力向上を実感、90.5%が仕事のストレス軽減を実感、83.3%が仕事の質にも変化、99.4%が今後も継続したいと回答した。
また、一見すると「こんな姿勢で眠れるのか?」と思ってしまう立ち寝仮眠ボックス「giraffenap」だが、実際に体験してみると、見た目からは想像のできない快適さで驚いた。
筆者は踵骨骨折後遺症で両かかとが変形、両股関節変形、腰痛持ちで、10分以上立ち続けるのも、長時間座り続けることも辛いという状況だが、「giraffenap」は4点保持のうち、すね部分に最も力がかかるそうで、足裏にも腰にも負担がかからず、脱力した姿勢を保つことができ非常に快適。寝つきが悪く昼寝が苦手な筆者でもすんなりと眠れる状態だと感じた。商業施設に設置されていたら、休憩のためにぜひ使いたいと思う。
取材・文/阿部純子




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