■連載/ヒット商品開発秘話
2026年に入り、凍らせて使うそうめんつゆが各社から発売されるようになった。夏バテで食欲が落ちた時などにピッタリだが、中でも味の素の『氷みぞれつゆ』の売れ行きが好調だ。2月の発売から6か月で累計出荷数量が92万食を突破した。
『氷みぞれつゆ』は、特許出願中の同社独自技術「みぞれ凍結製法」により、-10℃以下の氷点下の冷たさとシャリシャリ食感、力強いだしの味わいを実現。冷凍庫で24時間以上凍らせてから割りほぐしたものを、冷水で〆たそうめんの上に乗せ全体を軽く混ぜてから食べる。現在、2種類が発売されている。
必要な技術を1から開発
開発の背景には、深刻な社会課題となりつつある酷暑があった。開発を担当した食品事業本部コンシューマーフーズ事業部新領域グループ マネージャーの上丸茉莉花さんも「酷暑に対して何か商品をつくろう、というのが始まりです」と言い切る。
上丸さんが所属する新領域グループとは、同社が現在発売していない製品カテゴリー向けに新たな価値を持つ製品を送り出す役割を担っており、さまざまな切り口から商品を企画・開発している。いろんな切り口がある中で着目したのが、酷暑であった。
ただ、『氷みぞれつゆ』の開発は、酷暑だけではなく同社ならではの事情も重なった。同社ならではの事情とは、鍋つゆやスープなど秋冬向け商品の方が得意で、暑い季節向けの商品がやや手薄なところ。「当社は夏向けの商品として経口補水液など持っていますが、どちらかといえば秋冬に需要が盛り上がる商品の方が多いので、真夏に向けた提案をすることで皆様の生活により貢献したいという思いがありました」と上丸さんは話す。
2024年10月頃から、酷暑をテーマにした商品のアイデア出しを開始。40近く出てきたアイデアの中から、「自社の強みが生きるか?」「市場性」などといった軸を基に絞り込み、最後まで残ったのが『氷みぞれつゆ』であった。
開発に着手したのは2024年12月頃のこと。凍らせた液体調味料を使ってそうめんを冷たく食べさせることをコンセプトとし、実現するために「活用できる技術はあるか?」「確立しなければならない技術は何か?」といったことについて、社の内外を調べ尽くした。
その結果たどり着いた結論は、生活者に届けるには独自の新製法が必要なこと。こうして「みぞれ凍結製法」が開発されることになった。上丸さんは次のように話す。
「味の素グループには味の素冷凍食品があるので、グループに冷凍技術や冷凍食品の知見はありますが、『氷みぞれつゆ』は凍ったままの状態で食べるので、冷凍に関する経験やノウハウを横展開することはほとんどなく、必要な技術を1からつくることになりました。完成するまで時間はかかると思っていたものの2026年春夏シーズンに間に合わせたかったので、技術スタッフが本当に頑張ってくれたと思っています」
使い勝手を左右する割りほぐしやすさ
『氷みぞれつゆ』は、冷凍庫で凍らせると-10℃以下の冷たさになり、凍った状態が長時間維持される。これは、氷は0℃~-5℃の温度域でゆっくり凍結していくと結晶が大きく成長することを利用したもの。鮮度保持や出来立ての美味しさをキープする際に行なう急速冷凍とは正反対の技術を必要とした。
凍らせて使う商品の経験がなかったこともあり、開発初期の頃はすぐ氷が溶けてしまい、すぐ溶けないようにするために試行錯誤を重ねた。1食に必要な分量もわからず、決まるまでに時間を要したという。
使うに当たっては、割りほぐしやすくすることが不可欠。そこで「みぞれ凍結製法」では、水分子を分散させて凍結させる技術を採用し、シャリシャリとした食感を楽しめるようにした。包装資材も重要な要素となることから、ほぐしやすさと使い心地を重視して設計した。
また、味にムラが出ないよう、調味料全体が均一に凍結、溶解する技術も採用。配合を工夫するなどしたことで、味の濃い部分から先に溶け出し味の薄い氷が残る心配をなくした。
凍らせることで直面した味づくりの難しさ
現在販売されている2種は〈かつおだし〉と〈鶏だしゆず風味〉。製品コンセプトが受け入れられるかの調査を実施した際にコンセプトに合うフレーバー、食べてみたいフレーバーをリサーチした結果、上位になったものを選択した。トップがかつお、その次に鶏とゆずがほぼ同数で並んだ。
まずは要望の多かったものを採用した形だが、味づくりは凍らせて使うことの難しさに直面した。それは鶏だし味をつくった時に顕著に現れた。上丸さんは次のように振り返る。
「鶏だし味をつくり凍らせてみたら、だしの風味が弱く感じられました。鶏のスープは温かいと美味しい、体に沁みると感じられますが、冷たいと何を食べているのかはっきりせず、ぼやっとしてしまいました」
温度によって味の感じ方が変わることは理解していたものの、凍らせると味のシャープさが弱くなることは思いもしないことだった。凍らせて食べるには、鶏だしだけでは不十分だった。
凍った状態でも味わいをシャープにする方法としては香辛料をプラスすることなども考えられたが、そうめんに使うことや長く愛用いただきたいことから、食べなじみがある和の素材をプラスすることにした。そこで着目したのが、コンセプト調査で鶏と同程度の人気があったゆず。鶏だしとのバランスは悩んだところだったが、凍らせても鶏だしが際立ちシャープな味わいになったという。ゆず以外にもだしが出る昆布、帆立も使い、だし感を高めた。
〈かつおだし〉については、かつおだけだと凍らせた時に香りの立ち上がりが弱く、味わいが物足りなくなってしまう問題に直面した。〈鶏だしゆず風味〉同様、つくってみて初めてわかった想定外の事態。かつお節のほかに、いりこ、昆布、さば節、うるめ節も使うことで解決した。「だしが出る素材を複数使って複雑味を出し、冷たくてもしっかりだし感のある強い味をつくりました」と上丸さんは振り返る。
生活者に美味しさ、楽しさ、驚きを直接訴求
従来なかったタイプの商品なので、発売にあたっては何よりも認知してもらうことに注力した。店頭での試食や地域を限定したテレビCMの放映のほか、メディアに猛暑の食トレンドとして情報を提供。酷暑と珍しさの両方から、メディアで取り上げてもらう機会に恵まれたという。
学校が夏休みに入ったあたりから、生活者に直接訴求するイベントにも注力した。
まず7月24日と25日の2日間、東京スカイツリータウンのソラマチひろばにて『氷みぞれつゆそうめん屋』をオープン。上丸さんは「暑い時期に生活者の方にこの商品の美味しさや楽しさ、驚きなどを体感いただきたく、こうしたイベントを企画しました」と話す。
また、特定非営利活動法人放課後NPOアフタースクールと連携し、「氷みぞれつゆで学ぶ ひんやり自由研究教室」を開催。学童を利用している小学生が猛暑で外遊びや屋外での体験が制限される夏休み期間中、室内にいながら夏らしいひんやり体験を楽しめる五感を使ったプログラムを行なった。
7月29日に東京都北区、8月19日に同目黒区の学童で開催。『氷みぞれつゆ』の温度や特長を学ぶクイズ、開発のヒミツ紹介、子どもたちがそうめんの仕上げに挑戦する「パキッとそうめんチャレンジ」が実施された。
取材からわかった『氷みぞれつゆ』のヒット要因3
1.高い体験価値の提供
そうめんは夏になると無性に食べたくなるが、めんつゆにつけて食べる以外の食べ方が乏しい。このような中、凍らせる、凍らせたものを割って乗せる、といった従来にない食べ方を提案した。つくる楽しさ、食べた時の驚きがあり、楽しく食べることができるものになった。
2.今日的で深刻な課題に対応し話題に
開発の背景には酷暑があった。夏の暑さが年々厳しくなってきていることを受け、酷暑に対応するものとして開発されたので、話題にされることが少なくなかった。凍らせて使うそうめんつゆが他社からも発売され、新たなトレンドとして注目を集めた点でも話題にしてもらえた。
3.必要な技術を開発し、好印象を持たれる品質を確保
コンセプトが斬新で評価できても、技術が伴っていないと味や使用感の面でマイナス評価となってしまいかねない。味や使いやすさの面で評価されるよう新しい製法の開発や包材を工夫したことで、コンセプト倒れにならない品質で提供することができた。
「実は、凍らせなくても使えるので万能なんです。煮浸しなどをつくるのに使えますよ」と上丸さん。そうめん以外での使い方提案については、生活者の要望を踏まえながら今後の方針を検討するという。
活用の幅は広く万能ではあるものの、もっとも本領を発揮するのは凍らせてそうめんの上に乗せて食べる時。そのため上丸さんは、「幅広く使えることを訴求すれば長いシーズン取り扱っていただきやすくなるかもしれませんが、そうするとコンセプトがぼやけてしまうので、いまは凍らせてそうめんの上に乗せる使い方の訴求に徹し、認知を広げていきたいと考えています」と明かす。
日本の夏は以前より猛暑、酷暑になっただけではなく、残暑が長引き夏が長期化する傾向が強まっている。9月に入ってもそうめんが食べたくなる日はあるはず。まだまだ出番は多いだろう。
取材・文/大沢裕司
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