400冊以上の著書を持ち、今年3月に開設したYouTubeチャンネル「加来耕三の歴史未来チャンネル」も人気を集める歴史家で作家の加来耕三氏と、『ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました』(発行:日経BP)の著者の1人であり、複数のブランド創りを行っている博報堂のエグゼクティブクリエイティブディレクター・宮永充晃氏。一見、異なる世界を歩んできた二人による、「歴史」と「ブランディング」を軸にした異色の対談が実現した。織田信長の組織づくりから、豊臣秀吉や伊達政宗のブランディングまで。歴史とビジネス、それぞれの視点を交差させながら、現代の企業が「歴史という実学」から何を学べるのかを語り合った。

織田信長に学ぶ「強い組織」のつくり方

宮永:私は大学時代に教育と歴史の関係をテーマに研究していました。その中で感じていたのは歴史の中に現代の社会の課題に解決できる糸口があるのではないかということです。今回は私が尊敬する加来先生との対談を通して、この疑問を紐解いていきたいと考えています。
早速なのですが、今、企業のブランドづくりに関わっていて、すごく大きな課題だと感じているのが「継承」です。
例えば、一人の優秀なリーダーがあるブランドをグッと伸ばしたとします。すると、その人は評価されて昇進したり、別の部署に異動したりする。でも、そこで培った考え方やノウハウが次の担当者にうまく引き継がれない。新しい人は「前任者とは違うことをしよう」と考えて、結果としてブランドが崩れてしまう。そういうケースを何度も見てきました。
歴史上の人物で、組織をつくり、人材を次につないでいくという意味で参考になる人物はいますか。
加来:おっしゃる通り、歴史から現代の企業が抱える課題を解き明かすヒントはあります。
例えば、今、挙げられた「継承」に関しては織田信長が参考になるかもしれませんね。信長の組織を見ると、北陸方面の柴田勝家、中国方面の羽柴秀吉というように、それぞれまったくタイプの違う人間に組織を任せています。
彼は、「優秀な人間なら誰でも同じように使う」という発想ではないのです。
今の会社でも、営業が好きな人もいれば、研究部門が向いている人もいるでしょう。それを無理やり、同じ型に合わせても仕方がない。柴田勝家のところには、勝家と同じようなタイプの人間を置く。一方で秀吉のところには、また違うタイプの人間を置く。みんな一通りの仕事はできるけれど、何を好み、何を重要だと考えるかは違う。その違いを見て、組織を編成しているのです。

宮永:現代の会社で言えば、人事ですよね。「この人はこの上司のところに置いたほうが伸びる」と考える。
加来:そう、信長は400年以上前に現代で通用する人事をすでにやっているのです。
例えば、柴田勝家の下には前田利家や佐々成政らが置かれる。タイプが近い人間を合わせているから、方面軍ごとにまったく雰囲気が違うのです。しかも、ただ仕事を細かく教えるわけではない。上の人間が「どうあるべきか」を示して、下の人間はそれを見て覚える。昔は職人の世界に限らず、何でもそうでした。全部を言葉で教えてもらうのではなく、自分で見て考える。その形で伝承していたのです。
宮永:そこは、今の企業にもすごく通じますね。
ブランドを引き継ごうとすると、「フォーマットをつくろう」「マニュアル化しよう」という考えに至る。ある意味正しくはあるけれど、フォーマットに落とせるものって、どうしても粗くなるんです。優秀な人が「何を見て、なぜそう判断したのか」までは資料にはできない。
だから、本当に継承するのであれば、次の人をどれだけ近くに置いて、弟子というか右腕のような立場で育てられるか。ブランドを継続させるという意味では、そこまで含めてチームや仕事の仕組みを設計する必要があると思います。
加来:もちろん、最低限必要な共通項はあります。ただ、そのうえで人間の性格やタイプを見なければいけない。
みんなを同じ人材に育てるのではなく、それぞれに合う人間を組み合わせて力を発揮させる。信長の組織は、そこが非常によくできていました。
豊臣秀吉と伊達政宗に学ぶ「ブランディング」

宮永:広告会社はクライアントのブランドづくりをサポートしていますが、今はテレビCM一本でブランドイメージが決まる時代ではありません。ある場所では真摯な姿を見せ、別の場所ではユーモラスな姿を見せる。いろいろな面が重なって、一つのブランドがつくられていく。そう考えると、秀吉の振る舞いはすごく面白いと思うんです。
加来:いいところに目をつけますね。秀吉というと、一般には「人たらし」と言われますよね。たくさんの人間を懐に入れて、敵まで味方につける。確かにそういう面はあったでしょう。ただ、私はそれが一つの「演出」だったのではないか、と思っています。
人間を見る時は、一つの場面だけを見てはいけない。点をつないで線として、生涯を見ていくと、本当の姿が見えてくる。秀吉は、自分がどう見られているかを非常によく計算していた人物です。
宮永:意図的に「秀吉というブランド」をつくっていたということですよね。
加来:その通りです。
例えば、信長が「裏切った人間は最後には許さない」というイメージをつくったとするならば、秀吉は逆に「あの人は人を殺さない」というイメージをつくった。
合戦が終われば、敵味方を区別せずに労う。降参してきた相手には、それまで以上の領地や利益を与えることもある。
そうすると、「秀吉には早く降参したほうが得だ」と思わせることができる。本能寺の変からわずか数年で秀吉が一気に天下へ近づけた背景には、軍事力だけではなく、そういう見せ方もあったのだと思います。
宮永:そこはブランドづくりとよく似ています。
全部の場面で同じ顔を見せればブランドに一貫性が出る、ということでもないんですよね。秀吉も、ある時には「俺は寛容な人間だ」と見せる。でも、締めるべきところでは厳しい顔も見せる。
いろいろな面を見せながら、最終的には「秀吉とはこういう人間だ」というイメージができている。今のブランドも、あるメディアでは真摯な面を伝え、別の場所では親しみやすさを伝える。その積み重ねでブランドが太くなっていく。秀吉の見せ方は、そこがすごく参考になります。

加来:伊達政宗も同じですね。政宗は非常によく物を考える人間で、相手がどういう性格なのか、どう言えば動くのかを細かく見ていました。それだけではなく、「今、自分がどう見られているのか」まで分かっていたのです。
宮永:自分を客観視までできていたんですね。
加来:そうです。自分を演じるだけならできる人はいる。でも、自分が演じている姿を、観客がどう見ているのかまで把握できる人は少ない。
秀吉や伊達政宗は、それができました。
の自分がどう見られているのかを客観的に判断しながら、必要なら言葉や行動を変える。分かりやすい形で、自分のイメージをつくっていったです。
宮永:現代のブランディングでも、まさにそこが重要です。「自分たちはこう見られたい」と発信するだけではブランドにはならない。
実際に相手からどう見えているのかを把握して、そこから自分たちの振る舞いを修正する。戦国武将のセルフブランディングを見ていると、今の企業にもそのまま通じるところがあります。
歴史から学ぶ意味とは?「点」ではなく「線」で物事を見る
宮永:
僕は仕事でも歴史がすごく役に立つと思っています。ただ、「信長がこうしたから、こうしよう」という使い方ではないんです。
僕が面白いと思うのは、その人がなぜその立場に置かれて、なぜその判断をしなければならなかったのかを見ることなんです。ある一点で「この人はこう判断しました」だけを見ることには、それほど意味がない。どういう流れがあって、その状態になったのか。その結果、なぜその選択をしたのか。そこまで見ると、仕事にもすごく生きてきます。

加来:歴史は「点」で捉えたらいけないのですよ。
一つの出来事だけなら、いろいろな解釈ができる。でも、それを線につないで生涯を見ると、「この解釈ではおかしい」という矛盾が見えてくる。
宮永:企業を見る時もまったく一緒です。例えば、今あるブランドのシェアが落ちているとして、「今シェアが落ちています」という一点だけ見ても仕方がない。
なぜ落ちたのか。
その前に会社はどんな判断をしたのか。
なぜその戦略を取ったのか。
僕は企業のブランディングを見る時、十数年分の資料を遡って読むことがあります。そうしないと、「なぜ今ここにいるのか」が分からないからです。現在だけを見て、「もっと格好いいブランドにしましょう」と提案しても、そのブランドが今の状態になった原因を理解していなければ、また間違った選択をしてしまう。歴史もブランドも、大きな流れを読むことが重要なんだと思います。
加来:だから、歴史は本当は「実学」なのです。
未来は分からない。でも、過去はすでに結果が出ている。紀元前の人間であろうと、現代の人間であっても、人間そのものはそれほど変わっていません。同じように失敗して、落ち込んで、そこから立ち直る。
だったら、過去の人間がどのように動いたのかを見る必要があります。特に大事なのは、成功よりも失敗です。
自分で大きな失敗をする前に、歴史上の人間がした小さな失敗から学べばいい。歴史は同じ形では繰り返しませんが、人間がやることは必ずどこかで同じような繰り返しをします。
宮永:未来を考える時にも使えるということですよね。
加来:ええ。例えば今、「AIが発達するとホワイトカラーの仕事がなくなる」と言われています。
でも、同じような技術革新は過去にも何度もありました。
明治時代に鉄道ができれば、それまで人や物を運んでいた仕事はなくなると思われた。でも鉄道が走れば、人が大量に移動するようになり、駅ができ、街ができ、食堂や店ができる。新しい仕事が生まれていったのです。
技術によってなくなるものだけを見るのではなく、その技術によって人間の生活がどう変わり、その結果、何が新しく必要になるのかを見ることです。AIで仕事の時間が短くなって、週休3日、4日の時代になれば、今度は余暇をどう使うかが大きなテーマになるでしょう。歴史の流れを見ていけば、その「次」を考えることができるのです。
宮永:結局、歴史から答えをそのまま持ってくるのではなく、過去に何が起き、なぜそうなり、その後に何が起きたのかを考える。その思考の仕方自体が、今の仕事や経営にも生きるということですね。
加来:そうです。
歴史を知れば未来がそのまま分かるわけではありません。でも、過去の人間が何をして、どこで失敗し、そこから社会がどう変化したのかを知っておけば、新しい道を考える材料にはなります。そこが、歴史から学ぶ一番大きな意味だと思いますね。

取材・文/DIME編集部 撮影/木村圭司




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