電通と聞くと、多くの人がテレビCMや新聞広告といった「広告」の仕事を思い浮かべるだろう。しかし、同社の事業領域は広告やマーケティングだけでなく、コンサルティングやスポーツビジネス、そしてAIなどへと大きく広がり、それに伴ってさまざまな業界で経験を積んだ人材が集まるようになっている。
今回は、広告業界とは異なるキャリアを歩み、現在は電通でコンサルティング、スポーツ、AIの各領域の最前線を担う3人にインタビューを実施。各界のスペシャリストたちは、なぜ電通を選んだのか。そして、広告会社である電通だからこそ、それぞれの領域で実現できる仕事とは何か。3人に話を聞いた。
総合コンサルティング企業を経て電通のコンサルティング領域へ「今これからの時代に求められる電通ならではのコンサルティングに可能性を感じた」
電通が近年、事業領域を広げている分野のひとつがコンサルティングだ。
「電通」と「コンサルティング」。一見すると距離があるようにも思えるが、第2ビジネス・トランスフォーメーション局で、クライアントに向けたコンサルティングを推進する多賀咲耶さんも、入社前は電通にコンサルティングのイメージはあまり持っていなかったという。

「電通とコンサルティングのイメージが結びつかない方も多いと思いますが、入社前は私もそうでした。でも、よく考えてみれば、電通は日本を代表するさまざまな企業と長く仕事をさせて頂く中でクライアントのさまざまな課題に向き合い、解決策を考えてきた会社です。『コンサルティング』と呼んでいなかっただけで、課題に向き合うという仕事の仕方は以前から行われていたんですよね」
多賀さん自身、広告業界とは異なるフィールドでキャリアを重ねてきた。エンタメ企業にて経営企画や人事を経験した後、総合コンサルティングファームへ転職。人財・組織領域のコンサルタントとして、さまざまな企業の課題解決に携わった。
そんな多賀さんが、コンサルティング業界における電通の強みを感じたのは、電通が広告ビジネスを通じて培ってきた「クリエイティビティ」と「クライアントとの関係性」だった。
「総合的なケイパビリティという意味では、コンサルティングファームも非常に強く、特に私がいた企業だとテクノロジーの活用や海外チームとの連携を含め、さまざまな手段を使って課題を解決できました。一方で電通に来て面白いと感じたのは、課題解決の打ち手として、かなり早いフェーズからクリエイティビティを掛け合わせられることでした」
また一般的なコンサルティングでは、課題を分析し、As-IsとTo-Beのギャップを埋めていく施策をクライアントに提示していくことが求められる。しかし、多賀さんが電通に入って感じたのは、これまでとは少し異なるクライアントとの向き合い方だったという。
「以前はコンサルタントとして、クライアントの課題を解決するために一番効果的な方法を正しく提示しなければという意識が強かったのですが、電通では、『何を目指すのか』『何のために行うのか』ということを、よりクライアント目線で一緒になって考えていく機会が多いと感じます。広告の仕事を通じて長年築いてきたクライアントとの関係性が、コンサルティングにも生きていると感じます」
実は多賀さんと電通との接点は、今回の転職が初めてではない。新卒時の就職活動では広告業界を志望し、電通が第一志望だった。
その根底にあったのが、「どれほど良いものでも、良さが人に伝わらなければ意味がない」という考えだった。
過去に働いたエンタメ企業では経営企画を経て人事に携わり、主に採用を担当。経営目線で企業の課題を解決していく取り組みや、学生や求職者に自社の魅力を伝える仕事に面白さを感じた。その後、自社だけではなく、より多くの企業の課題に向き合い解決していきたいと考え、コンサルティングの世界へと進んだ。
そして約14年を経て、かつて第一志望だった電通にキャリア入社することになる。今度は「広告」の仕事ではなく「コンサルタント」としてだった。
「時代の流れが速く、特にAIが急速に浸透していく世の中で、コンサルタントの仕事は淘汰されてしまうという意見もあります。いま世界中のコンサルタントが『自分たちの価値』について向き合っていると思いますが、私は、コンサルタントの仕事はなくならないと思います。ただ、今後はより「人」目線で考えること、判断していくことや、クライアントとコミュニケーションをとりながら、一緒に答えを作っていくことの価値が高まっていくのではなかと考えています。そうした人間的な部分を大切にする電通のコンサルティングは、これからの時代に必要なひとつの形だと思っています」

保険、商社から電通のスポーツビジネスへ「国内外のスポーツ業界に広く関われる面白さ」
コンサルと合わせて、電通が近年、力を入れているのがスポーツ領域だ。
電通のスポーツビジネスと聞くと、多くの人はスポンサー契約や放送権を思い浮かべるかもしれない。しかし近年は、その枠を超え、スポーツを事業として成長させる取り組みにも力を入れている。その一翼を担うのが、スポーツビジネスプロデュース局 事業開発部だ。
スポーツビジネスプロデュース局事業開発部部長の伊地知亮太さんに話を聞いた。

「これまで電通は主に放送権や協賛権の扱いを中心にスポーツ界に価値を提供してきました。一方で私たちの部署は、チケッティングやホスピタリティ、マーチャンダイジング、ファンエンゲージメント、さらにはスタジアムやチーム経営など、様々なバリューチェーン領域の中で新たにビジネスを広げることをミッションとしています」
その代表例の一つが、北海道ボールパークFビレッジのプロジェクトだ。日本ハムや北海道日本ハムファイターズとともに、電通もスタジアム会社へ出資して事業に参画。広告会社としてプロモーションや協賛セールスを支援するだけではなく、プロジェクトのコンセプト作りなど株主の立場でも事業を推進した。
こうした新たな事業を担う人材の一人として電通に加わったのが伊地知さんだ。新卒で大手損害保険会社に入社後、MBA取得のためスペインへ留学。その後は総合商社でエネルギー事業に携わるなど、広告業界とは異なるキャリアを歩んできた。
「学生時代からスポーツに関わる仕事がしたいと思っていました。当時はスポーツ業界の門戸が今ほど開かれておらず、一度は別の道に進みましたが、東京オリンピックを前に電通がスポーツ人材を募集していることを知り、応募しました」
異業種で培った経験は、現在の仕事にも生きているという。
「保険会社では東京に加えて地方でも営業を担当し、地域課題を見る視点が養われました。留学や商社では海外とのビジネス経験を積み、現在も国際経済の動きの中でスポーツビジネスを捉えることに役立っています」
そして伊地知さんは、広告会社だからこそスポーツビジネスで発揮できる強みがあると話す。
「電通は長年、放送権や協賛権を中心にスポーツ界の発展に広く関わってきました。そのネットワークや知見があるからこそ、事業開発や投資といった新しい挑戦にもつながっています。また、特定の競技だけではなくスポーツ業界全体に横断的に関われること、世界のスポーツ業界のダイナミックな動きを身近に感じられることも、電通ならではの面白さだと感じています」

通信会社から電通のAI領域へ「AIを使う/作る電通のAIガバナンスだからこそ、多くの企業のロールモデルになる」
「AIガバナンス」と聞くと、使ってはいけないことを並べた禁止事項リストを思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし電通がいま向き合っているのは、それとは少し違う課題だ。広告やマーケティングの現場でAIをクリエイティブに活用するだけでなく、独自にAIを開発する側にも回る。“使う側”と“作る側”の両方を担う会社だからこそ生まれる課題に取り組んでいる。
dentsu Japan(国内電通グループ)は2025年、AI開発・活用の中核を担う横断組織として、約1000人規模の「dentsu Japan AIセンター」を立ち上げた。社内では数千種類のAIエージェントが稼働し、1億人規模を仮想再現した“AIペルソナ”で生活者の反応をシミュレーションする取り組みも進んでいる。その規模とスピードに見合うガバナンス体制をどう作るか。それが今、勝山翔平さんに託されているミッションだ。
2025年、大手通信会社からキャリア入社した勝山さん。AI利用ガイドラインの策定や社内から日々寄せられる相談への対応、AI関連契約の整備など、dentsu JapanがAIを安全に活用するための「基盤」を一つひとつ作っている。

「私自身、転職活動をするまで電通は広告会社というイメージが強く、データやAIにこれほど投資していることを知りませんでした。AIをクリエイティブに活用するだけでなく、AIそのものの開発にも取り組んでいる。そこは、まだ世の中に十分知られていない部分だと思います」
その電通のAI戦略を、ガバナンスの面から支える立場で、通信業界で10年近く培った経験を生かしているのが勝山さんだ。
新卒で大手通信会社に入社し、カスタマーサービス部門を経て、渉外部門へ。競争政策やデジタルプラットフォーム規制、AI・Fintechなどの政策対応に携わってきた。業界各社の意見を一つの声にとりまとめる場面もあり、通信技術だけでなく、政府の政策や規制、法律などへの理解も求められる仕事だったという。
さらに2022年からは主要経済団体へ出向し、米国やOECD(経済協力開発機構)に向けた政策提言活動を担当。海外の政策形成の現場に立つなかで、勝山さんのキャリアにとって大きな転機が訪れる。
「経済団体に出向していた頃に、ちょうどChatGPTが登場しました。最初は多くの人が『すごい技術が出てきた』と驚きましたが、その次に世界中で議論されるようになったのが安全性です。学習データの取り扱いやAI倫理などさまざまな論点が次々に出てくる一方で、技術の進歩にルールが追いついていない。その状況を見て、AIのルールメイキング、つまりAIガバナンスに取り組みたいと思うようになりました」
AIを積極的に事業へ取り入れるからこそ、「何ができるか」だけではなく「どのように使うべきか」も考えなければならない。勝山さんが現在担当するガイドラインや契約の整備は、AIを事業で活用していくための土台ともいえる。
「私がやっているのは、使ってはいけないことを並べることではなく、安心して使える範囲を一つずつ広げていくためのルールづくりです。電通はAIを活用するだけでなく、作る側にも回っているからこそ、この仕事の意味は大きいと思っています。今、AIを開発・活用している社内の専門部隊と直接やり取りしながらそのルールをつくっているので、ここで培った知見は、いずれ他の企業がAIガバナンスを整備する際のロールモデルにもなり得ると思っています。これまで通信業界で技術と政策・規制の間に立ってきた経験を、今度はAIという領域で生かしていきたいと考えています。AIの技術そのものだけでなく、それを社会や事業にどう根付かせるかを一緒に考えたい人にとって、今の電通はかなり面白い環境だと思います」

取材・文/峯亮佑 撮影/干川修




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