コロナ禍を経て、地方に移り住んで働くことのメリットが注目されるようになった。
この風潮は今も続いており、近年は地方経済の循環促進や関係人口の増加という観点からも歓迎されている。
ビジネスパーソンにとっては依然として「給与水準」や「交通の不便さ」がハードルとなり、地方移住や転職を躊躇するケースも少なくない。その一方で、給与水準を下げずに地方移住や転職を実現している人がいるのも事実だ。
給与や待遇の不安を解消するにはどうすればいいのか。今回は、専門家に具体的なアドバイスや成功ケースを聞いた。
データで見る「地方勤務・地方移住」に関する実態
国内最大級の貸し会議室検索サイト「会議室.COM」を運営するアスノシステムが、三大都市圏(東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・兵庫・京都・愛知)在住の会社員・役員・経営者300名を対象に行なった「地方勤務・地方移住に関する実態調査2026」では、都市部のビジネスパーソンにとっての地方勤務・地方移住に対する意識と課題が浮き彫りになった。
地方勤務への印象として、いい印象は計26.0%、よくない印象は計34.0%と、よくない印象がやや多め。そして「どちらともいえない」が最も多く40.0%に。
地方移住の魅力1位は「住居費・生活コストの低下」(48.7%)。次いで「自然環境の良さ」(36.7%)、「ワークライフバランス向上」(29.0%)と続いている。
地方勤務・地方移住に不安を感じる点(複数回答)について、1位は「給与水準」が51.0%。2位は「交通アクセス」(49.7%)、3位は「医療環境」(33.0%)、4位は「地域コミュニティへのなじみやすさ」(32.0%)と続いた。
地方勤務制度があれば「条件次第で利用したい」が41.7%、利用検討層は計51.0%と多めとなった。
そのほか、現在の「働く場所」や「通勤時間」を見直したいニーズも見られ、地方勤務への潜在的なニーズがあることもわかった。
【専門家が回答】地域移住・転職を成功させるには?
地方移住・転職に興味はあっても、やはり給与水準などの懸念を拭えない人は多いだろう。できるだけ納得できる条件に近づけるためには、どのような手立てがあるのだろうか。
地方へのUIターン転職を数多く支援する「リクルートエージェント」で、北信越エリアのマネジャーを務める中野 愛氏に話を聞いた。
中野愛氏
リクルートエージェント 北信越1グループ グループマネジャー。2018年新卒入社後、東北・北信越などで企業の採用支援に従事。現在は営業組織のマネジメントに加え、地方企業のハイクラス採用を担当するプレイングマネジャーとして企業・求職者双方を支援。
給与を下げないポイントは〝実質手取り〟で比較すること
「地方の給与は都心と比べて平均的には低いですが、都心と遜色ない年収帯の求人は確実に存在します」と、中野氏は語る。
「特に専門的なスキルや経験をお持ちの方には、現年収以上のオファーが出ることも珍しくありません。
重要なのは、住居費や通勤費、生活コストなどを含めた〝実質手取り〟で比較することです。
地方企業では住宅補助や転居費用の負担、社用車の支給など、求人票には載りきらない手厚い補助制度が充実しているケースが多くあります」
地方企業にとって、自社のスキルにマッチする即戦力人材は極めて貴重な存在だ。そのため、条件面に関しても求職者の希望に合わせて柔軟に検討してくれる企業が多いという。
生活環境の変化への懸念対策は「情報収集」にあり
「交通アクセスや気候の違い、医療・教育など、生活環境の変化を懸念される方は多いですが、その不安の多くは〝情報不足〟に起因するものです」
中野氏によれば、有効な対策は不安な要素を具体的に言語化し、企業やエージェントから情報を引き出す工夫をすることだという。
「多くの地方企業では、選考とは別に、同年代でIターン入社した社員とのカジュアル面談を設定できます。
そこでは通勤や住まい、子育て環境など、リアルな暮らしぶりを聞き出すことが可能です。
また、地方には世界や全国でトップシェアを持つ技術力の高い企業が数多く存在しますが、その本当の魅力は求人票からは見えにくいもの。
キャリアだけでなくライフスタイル面の希望も掛け合わせて第三者に相談すると、想像以上に選択肢は広がります」
地方への転職においては、こうした生きた情報の収集や条件交渉をスムーズに進めるためにも、「リクルートエージェント」のような転職エージェントを活用するのが賢い一案といえるだろう。
地方移住&転職の成功ケース
では、実際に地方移住・転職にともなう不安を解消し、納得のいく条件を実現したケースにはどのようなものがあるのだろうか。中野氏に具体的な事例を挙げてもらった。
専門的なスキルや経験を持っていることで現年収以上のオファーが出やすいケース
「地方では、特に製造業や建設業において専門スキルを持つ人材へのニーズが非常に高い傾向があります」と、中野氏は現状を分析する。
「例えば建設業では、建築士や施工管理技士、技術士といった国家資格を持つ有資格者が事業運営に不可欠です。そのため、現年収に上乗せする形でオファーが出るケースが少なくありません。
こうした専門スキルをお持ちの方は、複数の競合企業から同時に求められるため、企業側としても採用を成功させるために〝現年収+α〟の条件提示が必要になってくるのです」
各種手当や休日などの総合的な成功ケース
「年収の額面だけでなく、住宅手当や単身赴任手当といった各種手当も含めると、総合的に待遇がプラスになったとの見方ができることもあります。
労働時間や休日も加味した〝実質的な稼働時間当たりの待遇〟という考え方でみると、条件が改善されていることもあります。
地方の中小企業では、住宅ローンなどの事情で月々の手取りを重視される方に対しては、賞与の配分を見直して月給比率を高めるなど、ご本人の希望に合わせて柔軟に条件を組み立てるケースも見られます」
条件の合う別ポジションで年収アップした事例
「地方にとって一件の応募は非常に貴重です。そのため企業側も『この優秀な方に活躍してもらえるポジションは他にないか』という前提で、組織を柔軟に動かす傾向があります」
中野氏によると、当初の応募職種では希望年収に届かない場合でも、経営層の判断でより高待遇な別ポジションへ変更して内定を出すケースがあるという。
「本人の経験やスキルを踏まえ、より責任のあるポジションを打診した結果、希望条件を満たす形で合意に至ることもあります。
このほかにも、通常規定にはない転居費用を企業側が全額負担するなど、地方の中小企業だからこそトップダウンの迅速な判断で個別対応してくれるケースは多いのです」
地方移住・転職を有利に進めるにはハードルが高いイメージがあった人は、地方ならではのメリットをうまく活用するのがよさそうだ。額面の数字だけに惑わされず、手厚い補助や柔軟な交渉といったメリットを最大限に活用し、理想とするキャリアとライフスタイルを同時に実現してほしい。
【出典】
アスノシステム「地方勤務・地方移住に関する実態調査2026」
取材・文/石原亜香利
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