マッキンゼー・アンド・カンパニーは2026年8月4日、汎用ロボットへの移行が日本のロボティクス産業にもたらす機会と課題を分析した最新インサイト「汎用ロボットが切り拓く、日本の1,000億ドル市場」を公開した。
本稿では同社発表リリースをベースに、その概要をお伝えする。
世界のロボティクス市場と日本の製造業
世界のロボティクス市場は、特定用途向けの専用機を中心とした時代から、AI・ソフトウェア・データを競争力の源泉とする時代へ移りつつある。
AIを搭載し、経験を通じて学習しながら多様な環境で幅広い作業を担う汎用ロボット市場は2025年時点で10億ドル未満だが、2040年には約3,700億ドルへ拡大する見込みだ。経済産業省も、同年までに日本企業が世界市場の30%、約1,110億ドルを獲得する目標を掲げている。
一方、日本の製造業におけるロボット密度の世界順位は、2009年の1位から2024年には5位へ後退。世界の産業用ロボット生産に占める日本のシェアも、2015年の54%から2024年には29%へ低下した。
日本が再び世界のロボティクス競争をリードできるかは、精密工学やメカトロニクスの強みを、AI、データ、ソフトウェア、そして実環境への大規模展開力へと転換できるかにかかっている。
注目すべき「日本の逆説」
■添付図表1:日本のロボット密度は世界1位から5位へ

製造業の従業員1万人当たりの稼働ロボット台数で、日本は1994年から2009年まで世界首位であったが、2014年に2位、2019年に3位、2024年には5位へ後退した。2024年のロボット密度は、日本446台に対して、韓国1,220台、シンガポール818台、中国567台、ドイツ449台となっている。
国内需要の伸び悩みと海外市場での競争激化が同時に進むなか、従来型の産業用ロボットで築いた優位性が、そのまま次世代の汎用ロボット市場での優位性につながるとは限らない。
■勝敗を分ける主なポイント
・汎用ロボット市場は、2025年の10億ドル未満から2040年には約3,700億ドルへ拡大する見込み。従来型ロボットを含む世界市場全体は約4,500億ドル規模に達する可能性がある。
・従来型の産業用ロボット市場は2040年まで年率約3%で成長する一方、汎用ロボット市場は年率約70%で成長すると見込まれる。
・日本企業には、世界の汎用ロボット市場の30%、約1,110億ドルを獲得する潜在機会がある。
・日本の強みは、精密工学、メカトロニクス、品質・安全性、複雑なシステムを「すり合わせ」て実装する力。一方、AI、ソフトウェア、データ、人材、資本配分、展開スピードが課題。
・勝敗を分けるのは、ロボットを実環境へ早期に大量展開し、運用データを学習・性能改善へ還流させる「データフライホイール」を構築できるかどうか。
・OEMは、統合ソフトウェア基盤、OTA更新、ロボット群管理、予知保全、RaaS(Robotics as a Service)などへ収益モデルを広げる必要がある。
・部品サプライヤーには、単品部品から、スマートジョイント、安全性をパッケージ化したサブシステム、認識と制御を統合するアクションスタックへの転換機会がある。
■添付図表2:2040年の成長の中心は「汎用ロボット」

2015年に約140億ドルだったロボティクス市場は、2024年には約280億ドルへ拡大した。2040年には、従来型ロボットが約800億ドル、汎用ロボットが約3,700億ドルとなり、市場の成長の大部分を汎用ロボットが牽引すると見込まれる。
日本企業に迫られる3つの戦略転換
■1:「製品を売る」から「学習し続けるシステムを運用する」へ
ロボットの機能や精度だけでなく、現場で得られるデータをモデル学習へ反映して、継続的に性能を高める能力が競争優位に繋がる。OEMには標準API、ミドルウェア、OTA更新、シミュレーション、安全システム、ロボット群管理を統合するソフトウェア基盤が求められる。
■2:「部品供給」から「モジュール・プラットフォーム提供」へ
ギア、モーター、センサーなど個別部品のコモディティ化が進む一方、演算装置やセンサー、ソフトウェアを統合したスマートジョイントや、安全認証に必要な機能・文書をまとめた「Safety in a Box」など、顧客の統合作業を減らす提案に商機がある。
■3:「国内で確立してから海外へ」から「初日からグローバル」へ
国内需要の相対的な縮小を踏まえ、製品設計、標準、価格、サプライチェーン、人材、意思決定権限を当初から世界市場前提で構想する必要がある。M&A、アライアンス、海外人材採用、独立性の高いビジネスサンドボックスの活用が、スピードを高める鍵となる。
日本にとっての社会的インパクト
日本では今後20年間で労働人口が約1,500万人減少すると予測され、人手不足は製造業だけでなく、介護、物流、外食、建設、農業などへ広がっている。汎用ロボットは、単なる産業政策上の成長市場ではなく、サービス供給力や地域インフラを維持するための選択肢にもなり得る。
特に介護・医療、点検、防災、不発弾処理など、品質、安全性、信頼性が重視される用途では、日本企業が長年培ってきた強みを発揮できる可能性がある。同時に規制、安全基準、責任所在、プライバシー、サイバーセキュリティを含む社会実装のルール形成が不可欠となる。
◎汎用ロボットが切り拓く、日本の1,000億ドル市場
https://www.mckinsey.com/jp/our-insights/japans-100-billion-opportunity-in-general-purpose-robotics
関連情報
https://www.mckinsey.com/jp/overview
構成/清水眞希




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