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エースが抜けたら崩れるチーム、ありませんか?森保監督が選んだ四字熟語〝凡事徹底〟が導くボトムアップの本来の姿

2026.08.24

「あの人がいないと現場が回らない」――そんなチームに心当たりはありませんか。FIFAワールドカップ26を振り返ると、日本代表はグループステージで格上相手に2度リードを許しながらも追いつき、決勝トーナメントに進出しました。突出したスター選手の個人技に頼る強豪国とは対照的に、日本代表の強さは「誰か1人に依存しない」チーム全体の連動性にありました。特定のエース社員に依存する組織が陥りがちな脆さと重ね合わせながら、個人の力量に頼らず機能する組織づくりの原則を識学の視点から解説します。

なぜ日本代表は、2度も追いつけたのか

初戦のオランダ戦を思い出してみましょう。後半6分、ファン・ダイクに先制されます。6分後の後半12分、久保建英のパスを受けた中村敬斗がカットインから同点弾。後半19分に再び突き放されても、後半44分、小川航基のヘディングが鎌田大地の頭に当たり、ゴールに吸い込まれます。2度のビハインドを、2度はね返して2-2で試合終了。

注目したいのは、追いついた2点がどちらも「絶対的エースの個人技」ではなかったことです。続くチュニジア戦では、前半4分に鎌田大地、前半31分と後半38分に上田綺世、後半24分に伊東純也が得点し、W杯1試合最多の4得点。得点者が、毎試合入れ替わる。誰が出ても仕事をする。これが「連動性」の実態です。エースがいなかったわけではありません。しかし、エースがいなくても成立する構造がすでにできていた。ここが決定的な違いです。

ここまでは日本代表の得点シーンでした。一方、失点の場面に目を向けると、様相が変わります。オランダ戦の失点はファン・ダイクの一撃によるもので、「個の質」で殴ってくる形でした。個の力で戦うチームと、全員の「当たり前」の水準を上げて戦うチーム——この構図は、多くの日本企業が置かれている状況と驚くほど似ています。

森保監督が、大会前に封印した「特別な何か」

2026年5月15日のメンバー発表会見。恒例の「いまの心境を四字熟語で」という問いに、森保一監督は「凡事徹底」と答えました。4年前のカタール大会は「行雲流水」でした。監督自身が「地味ですけど」と前置きしたうえで語った趣旨は明快です。特別な舞台だからといって特別なことをするのではない。これまで積み重ねてきたプロセスの先にW杯がある。当たり前のことを当たり前に準備して、全力を出し切る――。

大会前から高い目標を掲げていたチームのトップが、開幕を前に「新しい何か」を封印したのです。私はこれを精神論ではなく、きわめて合理的な組織設計の宣言だと受け止めています。

「あの人がいないと回らない」――その脆さの正体

ここから企業の現場に置き換えます。識学として多くの組織を支援してきて、ひとつの結論に至りました。エースが優秀だから依存が生まれるのではありません。エース以外の「当たり前の水準」が低いから、その差をエースが埋めることになるのです。

識学では、組織の生産性を下げる最大の要因を「誤解と錯覚」と捉えます。指示・判断基準・ルールの解釈のズレが放置されると、必ず誰かがそれを埋めることになり、その役をエースが一身に背負います。つまりエースは活躍しているというより、組織の穴を埋めている。だからエースが抜けた瞬間、穴がそのまま露出します。崩れるのはエースが偉大だったからではなく、穴がずっとそこにあったからです。

原則1 ルールを2種類に分け、姿勢のルールに例外をつくらない

エース依存の組織は、ほぼ例外なくエースに対して姿勢のルールの例外を認めています。数字を出しているから日報が遅れてもいい。実力があるから朝会に遅れても仕方がない。――この瞬間、組織の基準は「成果を出せば、例外になれる」へと書き換わってしまいます。すると全員が、ルールを守るかどうかではなく「自分は例外になれるか」を計算し始める。基準はもう上がりません。脆さは、ここから生まれます。

原則2 曖昧な言葉を、組織から消す

「しっかり」「ちゃんと」「なるべく早く」。人は言葉を自分に都合よく解釈します。たとえば「なるべく早く報告して」は「異常を認知してから10分以内に、直属の上司へ第一報」に。「ちゃんと確認して」は「チェックリスト全12項目を、着手前に毎回」に。識学では、期限と達成状態が明確に設定された結果を「完全結果」、曖昧なものを「不完全結果」と呼びます。不完全結果が多い組織では、部下は正当に評価されようがなく、上司は「なんとなくできていない」という感覚を抱え続けます。

労働安全の世界には、1件の重大災害の背後に29の軽微な事故と300のヒヤリ・ハットがあるという経験則があります(ハインリッヒの法則)。300の正体は特別な失敗ではなく、「これくらいは」という小さな省略の積み重ねです。組織のトラブルも、似た構造をしています。「1」を消したいなら、「300」を消すしかありません。

原則3 ルールは「守る」か「変える提案をする」か、の二択

現場がルールに疑問を感じたとき、自分の判断で省略すれば「自分ルール」が生まれます。基準が会社の決めごとから個人の感覚に置き換わる。事故と混乱は、この「隙間」から生まれやすくなります。正しい道は、守りながら上司に提案すること。会社が判断し、「全員のルール」として更新される。決める責任は上司に、守る責任は現場に。この「位置」が明確な組織は、驚くほど速く強くなります。

ここで多くの組織が誤解しています。現場が自分の判断でルールを省略することは、ボトムアップではありません。それは基準の崩壊です。

ボトムアップとは、「底(ボトム)を上げる(アップ)」こと

チームの実力は、エースの高さでは決まりません。全員が確実にできることの水準――つまり「底」で決まります。底が上がれば、誰が出ても一定の水準が出る。誰かが抜けても崩れない。それが、個人の力量に頼らず機能する組織です。そして差がつくのは、ルールの数ではなく「徹底のレベル」だけです。

就業規則も行動指針も、他社と大きくは変わらないはずです。「何をやるか」はどの会社もほぼ同じ。決定的な差は「どこまでやり切るか」にあります。優勝を果たした強豪国のチームも、奇抜な戦術だけで勝っているわけではなく、パス・トラップ・寄せの速さという「基本」のレベルの高さが土台にあります。

そして、「出来ている基準」を上げ続ける

法規制も顧客の期待値も、毎年上がります。昨年の常識が、今年の違反になる。同じ場所に立ち止まっているつもりでも、社会から見れば後退している。識学ではこれを「現状維持=相対的退化」と呼びます。凡事徹底は、一度達成して終わるものではないのです。

だから私は、日本代表の戦いをこの文脈で受け止めています。日本代表は3大会連続で決勝トーナメントに進出しながら、ラウンド32でブラジルに1-2で敗れ、過去4度阻まれてきたノックアウトステージ初戦を今回も突破できず、ベスト32で大会を終えました。それでも、これは敗北の言葉ではありません。「出来ている基準」をさらに上げるという宣言です。

明日から実践できる、3ステップ

STEP1 姿勢のルールを、3つだけ選んで書き出す。

条件は「全員が100%守れること」「達成に能力差が出ないこと」の2点だけ。(例:朝会は開始1分前に着席/依頼は24時間以内に受領返信/日報は当日21時までに提出)

STEP2 例外を、まず自分から消す。部下に守らせる前に、上司が守る。

順番を間違えないでください。「上司も守っている」――この一点だけで姿勢のルールは機能し始め、逆に上司が一度例外を使えば、そのルールは機能しなくなります。

STEP3 「守れなかった理由」を聞かず、「変える提案」を求める。

姿勢のルールに、守れない理由は存在しません。無理があるなら提案を出させ、判断は上司がする。決まったら、また全員が100%守る。この往復が、組織の基準を上げ続ける大きなエンジンです。

エースを称える組織は、エースが抜けたときに崩れます。当たり前の基準を上げ続ける組織は、誰が抜けても崩れません。そして後者のほうが、働く一人ひとりにとって優しい組織です。誰かが無理をして穴を埋め続ける必要がないからです。

「あの人がいないと回らない」――その言葉が誰の口からも出なくなった日が、あなたのチームが本当に強くなった日です。地味でいい。凡事徹底から始めてください。

※森保監督の「凡事徹底」は2026年5月15日のW杯メンバー発表会見での発言(前回カタール大会は「行雲流水」)。グループFは1勝2分・勝ち点5で2位通過(オランダ2-2/チュニジア4-0/スウェーデン1-1)。ラウンド32はブラジルに1-2で敗れ、3大会連続の決勝トーナメント進出ながらベスト32で敗退。

文/識学コンサルタント 大賀達雄

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