会議を早く切り上げることができたと思ったら、後から「そういう意味だったの?」と認識のズレが発覚し、もう一度会議をやり直すことになった。そのような経験はありませんか。「コスパ」の次は「タイパ」と言われる時代、効率化の手法を追い求めている人は増えていますが、実は落とし穴があります。本記事では、タイパ志向がなぜ手戻りを生むのか、そして本当の時短とは何かを、識学の視点から解説します。
タイパ志向に潜む落とし穴
近年、「タイムパフォーマンス(タイパ)」という言葉が広く使われるようになりました。動画を倍速で見る、会議を短時間で切り上げる、資料を要点だけでまとめる。このような行動は、一見すると生産性が高いように見えます。しかし、多くの現場では「早く終わらせること」自体が目的化してしまいがちです。例えば、会議を時間内に終わらせることに意識が向きすぎると、参加者全員が同じ結論、同じ完了イメージを持てているかどうかの確認が後回しになります。その結果、会議の直後は「うまくいった」と感じたとしても、数日後には「そういう認識ではなかった」というズレが表面化し、会議のやり直しが発生します。やり直しには、最初にかけた時間に加えて、認識をすり合わせる時間、修正作業の時間、関係者への説明の時間が新たにかかります。つまり、その場では時間を節約できたつもりでも、全体で見ると倍以上の時間を費やしてしまうのです。これが、効率化を急ぐことの本当のコストです。
なぜ手戻りが起きるのか
このような会議のやり直し、すなわち「手戻り」が起きる根本的な原因は、「効率化の手法」と「完了基準の共有」が、本来まったく別の話であるにもかかわらず、混同されている点にあります。ショートカットキーを覚える、テンプレートを活用する、会議のアジェンダを事前に決めるといった工夫は、あくまで「作業を早く進めるための手段」です。一方で、「どこまでやれば完了と言えるのか」という基準は、作業の速さとは関係なく、関係者全員が同じ言葉で、同じ状態を思い描けている必要があります。多くの組織では、この完了基準が担当者一人ひとりの感覚に委ねられています。上司は「大枠が伝わればいい」と思い、部下は「細部まで詰めるべきだ」と思っている。こうした基準のズレは、作業の途中では見えず、成果物が出てきた段階で初めて発覚します。発覚した時点では、すでに多くの工数が投入されているため、修正の手間は当初の想定を大きく超えることになります。つまり手戻りは、個人の能力不足やスピード不足が原因ではなく、「完了の定義」を言語化し、共有できていないことが原因なのです。今後は、この明文化と共有を個人の意識に委ねるのではなく、組織としての仕組みに落とし込んでいく必要があります。
「完了」の基準を言語化する
その第一歩となるのが、「完了」の基準を言語化することです。本当の時短を実現するために必要なのは、近道を探すことではありません。むしろ、作業に着手する前に、「ここまでやれば完了」という基準を、誰が見ても同じ解釈になる言葉で決めておくことです。
例えば「わかりやすい資料を作ってください」という指示は、人によって解釈が大きく異なります。一方で「A4一枚に、課題・原因・対策・期限の4項目を、数値を用いて記載する」という指示であれば、担当者が誰であっても、完成形のイメージにズレが生じにくくなります。
このように、完了基準を数値や具体的な状態で定義することは、一見すると手間がかかるように見えます。しかし、この工程を最初に丁寧に行うことで、後工程で発生する確認のやり取りや修正作業を大幅に減らすことができます。結果として、着手から完了までの総時間は短くなるのです。タイパを追求するのであれば、着手前のこの一手間こそが、最も投資対効果の高い時短策だと言えるでしょう。
識学が示す完了基準の作り方
識学では、組織内の生産性を高めるために、上司が目標を明確な完了基準で定義し、それを部下に共有して認識を合わせることを重視しています。
その際に大切なのは、あいまいな表現を極力使わないことです。「頑張る」「しっかりやる」「早めに」といった言葉は、聞き手によって受け取り方が変わってしまいます。これらを、「いつまでに、何を、どの状態にするのか」という言葉に置き換えることで、認識のズレが起きずに、全員が同じゴールに向かって動けるようになります。
また、完了基準を決める際には、上司だけでなく、部下にも「その基準で本当に問題なく完了と言えるか」を確認するプロセスを設けることが有効です。基準を一方的に決めるのではなく、双方が同じ状態を思い描けているかを確かめることで、後からの認識のズレを未然に防ぐことができます。
こうした積み重ねは、一つ一つの会議や作業では小さな手間に見えるかもしれません。しかし、組織全体で見れば、手戻りによって失われていた時間を大幅に削減し、結果として組織全体の生産性を高めることにつながります。
まとめ
効率化の手法やショートカットは、作業そのものを早く進める上で確かに有効です。しかし、それだけを追い求めて「完了の基準」を曖昧にしたまま走り出すと、後から認識のズレが発覚し、手戻りによって倍以上の時間を失うことになりかねません。
本当の時短とは、テクニックを磨くことではなく、始める前に「ここまでやれば完了」という基準を、誰の目にも曖昧さがない言葉で決めておくことにあります。次に会議や作業に取り組む際は、手法を探す前に、まず関係者全員が同じ完了イメージを持てているかを確認してみてください。その一手間が、結果的に最も確実な時短策になるはずです。
文/識学コンサルタント 栢本真一郎
「成功」を加速するマネジメントと聞いて、何を想像されるでしょうか?成功のイメージは様々かと思いますが、ここでは、会社・組織において、今これを読まれているマネジメ…




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