制限時間は24時間。世界各国の若手広告クリエイターが、当日発表された課題をもとに広告やPRの企画を考え、プレゼン資料まで完成させる。そんなアイデアの世界大会が「ヤングライオンズコンペティション」である。2026年、日本代表としてPR部門に出場した内山智義さん(ハッピーアワーズ博報堂)と砂田肇さん(TBWA\HAKUHODO)は、世界を相手にどんなPRを考えたのか。競技の裏側や、限られた時間でアイデアを形にする思考法について、カンヌライオンズで審査員を務めた近山知史さん(博報堂PROJECT_Vega)とともに話を聞いた。
国連宇宙局から「宇宙が私たちの生活にとって欠かせないインフラになっていること」をPRしてほしいというお題
広告コンペティションは一般にはあまり知られていないが、広告業界では若手クリエイターの登竜門として世界各地で開催されている。広告会社や制作会社のクリエイターたちがアイデアを競い合い、優秀な成績を収めれば、キャリアを大きく後押しする実績にもなる。その中でも「ヤングライオンズコンペティション」は、各国予選を勝ち抜いた代表だけが出場できる世界最高峰の広告コンペティションだ。
大会は二人一組で挑み、当日発表されるお題に24時間で答えを出さなければならない。内山さんと砂田さんは初めてペアを組み、日本予選を突破した。そして世界大会で二人に提示されたのは、「宇宙が私たちの生活にとって欠かせないインフラになっていると知ってもらうこと」という国連宇宙局からのお題だった。

内山さんはお題が発表された瞬間を振り返る。
「宇宙というテーマは予想外でした。広告コンペでは実在する企業や団体がクライアントになることは多いのですが、国連という世界規模の組織がお題を出すことにも驚きました」
もっとも、二人は難しさよりも面白さを感じたという。
「宇宙について専門知識があったわけではありません。SFが好きだったり、星座に興味があったりする程度です。でも、だからこそ挑戦しがいがあるお題だと思いました」(内山さん)
二人が選んだ答えは「LOVE」
二人は、大会前から「アイデアを考える時間」は最初の6時間だけと決めていた。最初の1時間は、それぞれが一人で考える。続く1時間は二人でブレーンストーミング。このサイクルを3回繰り返し、計6時間でアイデアを出し切る。その後は企画を一本に絞り、仮眠を取り、残りの時間をプレゼン資料の制作に充てる。
「後半はいくら頑張っても、急に良いアイデアは出てきません。だから最初の6時間で勝負すると決めていました」(内山さん)
この戦略の結果、最終的に二人が出したコンセプトは「LOVE」だった。意外なことに、このアイデアは競技開始から最初の1時間で砂田さんが考えたものだった。出発点はマッチングアプリやデートなど、現代の恋愛だった。

「今の恋愛は、通信ネットワークや位置情報に関わるGPSなど、宇宙インフラによって支えられています。そこで『現代の生活者は宇宙のおかげで恋愛をすることができる』と伝えることで宇宙インフラの重要性を広められるのではないかと考えました。そのため『宇宙婚(Space Marriage)』という新しい社会記号を作り、広めるという企画を提案しました。」(砂田さん)
砂田さんには、もう一つ意識していたことがあった。
「今回は世界中の人が対象です。だから特定の文化や国ではなく、人類共通のテーマを選びたいと思いました」(砂田さん)
大会前には、人類普遍のテーマについても調べていたという。その考え方の根底にあったのが、PRで重視される「ヒューマンインサイト」だった。人間の行動や心理の奥にある本音や欲求を捉え、人の心を動かす。その考え方から導き出した答えが「LOVE」だった。

惜しくもグランプリを逃したが、ショートリスト入りを果たす
二人の作品はショートリスト(最終候補)に選ばれた。審査員からも「LOVE」というテーマ自体は高く評価された。一方で、課題として指摘されたのは、その先だった。
「私たちは最終的に『結婚式』をハックするという企画に着地しました。でも結婚式は文化や宗教、世代によって受け止め方が異なります。人類普遍のテーマを目指したつもりが、最後の最後で普遍性を失ってしまいました」(内山さん)
世界一になったノルウェーチームのアイデアは、その対極にあった。アポロ11号が月面に立てたアメリカ国旗は、長い年月を経て色が抜け、白くなってしまっているという。その「白い旗」を宇宙全体の旗と位置付け、宇宙ガバナンスの象徴にしようという提案だった。
広告コンペでは、お題に100%沿うことだけが正解ではない。クライアントが何を伝えたいのか、誰に届けたいのか、どのような表現がふさわしいのか。実際の広告制作と同じように、多くの条件を読み解きながら答えを導かなければならない。
「ライバルでしたが、本当に素晴らしいアイデアでした。クライアントが求めていたことを、一番深く理解していたと思います」(内山さん)
ヤングライオンズコンペティションは、世界最大の広告祭「カンヌライオンズ」の会期中に開催される若手クリエイター向けの国際コンペティションだ。同じ会場では世界中の広告作品の審査・表彰も行われており、今年は博報堂 エグゼクティブプロデューサーの近山知史さんが審査員を務めた。

「日本の広告は、これまでカンヌライオンズでグランプリを獲得するなど、世界でも高い評価を受けてきました。一方で、今年は日本からのエントリー数が少なく、少し寂しさを感じました」
背景には様々な要因があるが、クリエイターたちのカンヌライオンズへの関心の低下も要因の一つだ。
近山さんは、国内やアジアの広告賞で評価を得ることももちろん重要だとしたうえで、だからこそ若いクリエイターには世界へ目を向けてほしいと話す。
「国内やアジアの大会で評価されることは大きな自信になります。ただ、それだけで満足するのではなく、一度は世界のトップレベルと戦ってほしいと思います。今回、内山くんと砂田くんも世界に挑み、ショートリスト入りという素晴らしい結果を残しました。それ以上に、世界最高峰の舞台で得た経験は、二人にとって何ものにも代えがたい財産になったと思います。
世界で受けた刺激や学びを、日本へ持ち帰り、日々の仕事や次の世代へ還元していく。その積み重ねが、日本のクリエイティブ全体をもっと強く、もっと面白くしていくのだと思います」
世界最高峰の舞台で得られるのは順位だけではない。世界基準の思考を持ち帰ることこそが、日本のクリエイティブを次のステージへ押し上げる原動力になる。

内山智義さん
Planner/Copywriter /1999年東京都生まれ。2021年博報堂入社。2024年よりハッピーアワーズ博報堂。 インサイトの「発見」と心が動く「体験」を大事にしながら企画をしてます。2026年ヤングカンヌ&ヤングスパイクスW日本代表。それぞれ本戦ショートリスト&シルバー。その他、準朝日広告賞、OCC新人賞など。 趣味はミステリ小説と卓球。
砂田肇さん
Designer/Art Director/埼玉県生まれ、杉並区在住。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、TBWA\HAKUHODOへ入社。主にグローバルクライアントのプロジェクトにおいて、企画、デザイン、アートディレクションなどを担当している。ヤングカンヌPR部門日本代表、本戦ショートリスト。毎日広告デザイン賞 グランプリ/準グランプリ、朝日広告賞 準グランプリ/入選など授賞。趣味は本の制作。
近山知史さん
PROJECT_Vega ECD /2003年博報堂でCMプラナーとしてキャリアをスタート。2007年よりTBWA HAKUHODOへ出向、2010年にTBWA CHIAT DAYで海外勤務経験を経て、2024年より「官民共創クリエイティブスタジオPROJECT_Vega」を始動。「競争より共創を」を掲げ、社会を大きく巻き込むアクションやブランディングに取り組む。「注文をまちがえる料理店」「あきらめない人の車いすCOGY」「社会課題に、アンサーを。/SoftBank」など。カンヌライオンズゴールド、アドフェストグランプリ、ACCグランプリなど受賞多数。明治大学、一橋大学、早稲田大学、大東文化大学などでの講師、2026年カンヌライオンズをはじめ世界中のアワードで審査員を務める。京都府出身。
取材・文/DIME編集部 撮影/木村圭司




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