6月17日から19日にかけて、東京ビッグサイトで『第19回 コンテンツ東京』が開催された。今や毎年恒例となった日本最大級のコンテンツビジネスの展示会である。
コンテンツには、クリエイターがいてメディアがあってそれを映し出すデバイスが存在する。それら全ての行程にまつわる人やモノが一堂に会するイベント……と表現するべきか。そのため、コンテンツ東京は複数の展示会の集合体という形になっている。今年は7つの展示会と1つのエリアで構成された。
数年前までのコンテンツ東京は、作品の源泉にクリエイターが控えていて、彼らの作り出すものをどのような媒体もしくは機器で表現するのか——という固定化された「流れ」が存在していた。が、それはAIの登場によって様子が様変わりした。業界そのものが分岐点に立たされたのだ。

コンテンツビジネスとAI
最初に説明しなければならないのは、この記事の執筆に着手したのは8月1日のことであるという事実だ。
なぜ、コンテンツ東京の開催終了から1ヶ月以上も経ってしまったのか。実はそのあたりが、この記事の中心議題にもなっている。
2026年のコンテンツ東京の構成展示会と構成エリアは以下の通り。
第19回ライセンシングジャパン
第18回クリエイターEXPO
第17回映像・CG制作展
第15回広告クリエイティブ・マーケティングEXPO
第15回コミュニケーションデザインEXPO
第2回イマーシブテクノロジーEXPO
第1回ファンコミュニティマーケティングEXPO
CONTENT Hub
初めてこのイベントを取材するライターの多くは、「なぜこんなにたくさんの展示会が同時開催されるのか?」と首を捻る。しかし、上にも書いた通りコンテンツとはそれを作る原作者とメディア、デバイス、広告手段、そしてファンとの交流が複雑に絡み合った代物である。恐ろしく巨大な分業制産業なのだ。コンテンツ東京は、そうした構図をそのまま反映している。
「AIの影響ですか? そうですね、あくまでも僕個人の範囲内のことですけど……正直殆どないです」
クリエイターEXPOで、筆者はイラストレーターの竜右衛門氏からそのような話を聞いた。
「たとえば、Adobe Illustratorみたいなイラスト制作ツールにAIを利用した補助機能が実装され、それを活用しているクリエイターはいるかもしれませんが……。徹頭徹尾AIが作ったイラストのせいで仕事の依頼が激減した、ということはないですね」
和の世界観を繊細なタッチで描く竜右衛門氏の作品は、まさに「彼しか実現し得ない空間」。陽と陰、手前と奥、そして様々な色彩が複雑かつ精緻な絵を構成している。これはさすがのAIでも完全再現できない、ということか。
人間の発想力は無限大
もう一つ、クリエイターEXPOで見かけた際立つ展示を紹介したい。
食品造形ディレクター、藤井裕子氏の展示である。
日本の食品サンプルは世界的に有名で、「まるで本物!」と大評判を呼んでいる。藤井氏の作品がそうした評判を十分に裏付けているクオリティーであることは当然だが、藤井氏は何と魚の内蔵までモデル化している。
この重量感、大きさ、そしてテカリ具合。正直、何と形容していいのか……。誤解を恐れずに書けば、この展示が今年のクリエイターEXPOの中で最も大胆で異彩を放つものではなかったか。人間の発想力は、やはり無限大である。発想力は人の手により形となり、我々の想像の遥か上を行くモノになっていく。
こうした発想力をAIが今後再現できるのか、という議論について筆者は言及を避けたい。筆者自身は最終学歴が高校卒業という、ただの男に過ぎないからだ。しかし、AIビジネスというものが今後どのような方向性で未開拓地を切り開いていくのかを観測することは辛うじてできる。
AIの使い道
コンテンツ東京の構成展示会、映像・CG制作展にこのような出展があった。
株式会社ラディウス・ファイブのイラスト制作ツール『copainter』だ。
このツールは、基本的に自分の筆でイラストを描くことを前提にしているが、ラフスケッチからのペン入れ、下塗り、着彩、そして完成済みイラストを読み込ませた上でのレイヤー分けを、何とAIがしてくれるという機能も有している。
たとえば、イラストそのものはAIに作らせ、それを読み込ませて線画と各ペイント毎のレイヤーに仕分けし、カスタマイズすることも可能だ。これはイラスト技術の向上を目指す人にとっての練習ツールにもなり得る。
このような具合に、コンテンツ東京の構成展示会では「AIに作業の一切をやらせる」というよりも「AIを補助機能として活用する」方向性の製品が多かったように思える。
それは結局のところ、AIには「できないこと」がまだまだあるからではないか? 或いは、「AIの使い道」に何かしらの変化が起きているのか?
筆者はその答えを、コンテンツ東京の開催から1ヶ月後にようやく見出すことができた。これが今に至るまで記事の執筆ができなかった理由でもある。
業界のトレンドは「フィジカルAI」
7月23日から25日まで静岡県静岡市で開催されていた『TECH BEAT Shizuoka』は、「フィジカルAI」の展示が目立った。
ロボットや車両にAIを組み込むことで、現実空間で正確な作業をできるようにする。たとえば、荷物の仕分け。大きさや重さ毎に複数種類の区分けをした上で、ロボットが荷物を整理していく。これにはAIとの連動が必要不可欠だ。
静岡市は工場の多い都市であるため、こうした展示が多かった……というよりも、「AIの使い道」としてフィジカルAIが優先され始めているということの表れではないか。言い換えれば、プロンプトからイラストやアニメを一から生成してしまうAIプラットフォームは企業から敬遠されてしまっているという意味である。
AI関連各社は「クリエイターの仕事を奪わないAIツール」の開発に注力するようになった。それは考えてみれば当然の話で、イラストを生成するプラットフォームは常に著作権のトラブルと隣り合わせ。ここは法的リスクが極めて大きい開拓地なのだ。特定のクリエイターの作風がAIに模倣されてしまう問題は、世界中の政治的議題にもなっている。
クリエイターたちが「AIが自分たちに悪影響を及ぼしているとは感じない」と答えるのは、AI開発者が人間のクリエイターを失業させない方向に舵を切った結果ではないだろうか。
人間がやるにはあまりにも膨大な作業や身体の危険が伴う作業は、AIを組み込んだロボットが行う。発想力が問われる仕事は、引き続き人間が担う。ただし、クリエイターが補助ツールとしてAIを活用することは想定されている。コンテンツ東京とTECH BEAT Shizuoka、この2つのイベントが見据えるのは「人間の手を生かすAIの使い道」である。
文/澤田真一
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