カステラから無数のヒヨコが顔を出す「訳ありカステラ」がSNSで話題だ。実は、手がけた和菓子店もSNSでたびたびバズる。
可愛すぎるカステラを生み出したのは栃木県真岡市の御菓子司 「紅谷三宅(べにやみやけ)」の二代目店主、三宅正晃(まさあき)さん。
これまでも、サモエドやシマエナガ、コーギー、アザラシなど動物をモチーフにした上生菓子がたびたびバズった。
正直、見た目だけのインパクト勝負かと思われそうだが、そんなことなら筆者も取材しない、
バズる和菓子はすべて手作りで、一つ一つに魂が込められている。
そして、『日本菓子協会 最優秀技術会長賞』『全国菓子研究団体連合会 上生菓子部門グランプリ』など、数多くの受賞経験に裏打ちされた技術が圧倒的なカワイイを生み出している。
自らを「小さなミスすら許されない現代のストレス社会に求められる癒しの次世代和菓子職人」と称する、若き気鋭の職人に今回バズる和菓子を生み出す術、そして秘めた野望を聞いた。
――そもそも、独創性ある可愛いお菓子を作ろうと思ったきっかけは?
「和菓子=敷居が高い、格式高い…というイメージを壊し、若い世代や普段和菓子に馴染みのない方にも手に取ってほしいと思ったのがきっかけです」
「和菓子の伝統技術を使いながらも、思わず写真に撮って誰かに見せたくなるような親しみやすさと遊び心を掛け合わせることで、現代のライフスタイルに溶け込む新しい和菓子の形を目指しました」
そんな三宅さんの和菓子は動物をモチーフとした「練り切り」が多い。
練り切りとは和菓子の中で「上生菓子」に分類される上等な生菓子のこと。
白あんに求肥を加えて練り上げ、季節を感じる植物や動物などを表現した芸術的な和菓子だ。
店内でも一際目を引く「和菓子の花形」を若い人にも買ってもらいたいという思いから、デザインにこだわり、他を圧倒するような存在感の逸品を生み出している。
『紅谷三宅』で特に人気なのが伝統の練り切り技法で作った「癒しの練り切り」。
コーギーやペンギンなど愛らしい動物たちを表現した商品で、手仕事による表情の違いやディテールには極上の癒しが広がっている。
こだわりはデザインだけではない。
話題になる理由はデザイン以上にこだわる「美味しさ」にある。
「見た目だけと言われないよう、素材選びと製法には徹底的にこだわっています。白あんの舌触り、甘さのキレはもちろん、素材の味覚バランスを追求しています」
「見た目の可愛さで期待値を高め、食べた瞬間に「本格的に美味しい!」と感動してもらえるギャップを大切にしています」
ならば、あえて聞きたい。和菓子の「デザイン」と「味」、その2つは両立できるのか?
「完全に両立できます。むしろ、デザインと味は「視覚」と「味覚」でお客様を感動させる両輪だと思っています。可愛い見た目は食べる前の「ワクワク感」を生み出し、その高揚感があるからこそ味の美味しさがより際立ちます。見た目も味もどちらも諦めず高次元で融合させることが、現代の和菓子職人の役割だと考えています」
「手仕事のぬくもり」×「SNS時代の共感・エンタメ性」
見た目の可愛さと本格的な味を高い次元で両立させる「紅谷三宅」の二代目和菓子職人、三宅正晃さん。
以前、三宅さんは「生産性を無視した非効率なお菓子ばかり作っている」と語っていた。
自慢の「癒しの練り切り」でも生産性をかなり無視しているそうで…
「効率を考えれば型を使ったり工程を簡略化するのが常識ですが、一つひとつの手作業による表情や「お尻の穴」といった細かなディテールにまで一切妥協せず仕立てています」
「細部まで再現したいので大量生産はできませんが、手作業だからこそ宿る愛らしさと「くすっと笑える体験」を届けることが最優先なんです」
あんこをつくるだけで丸一日かかるという。すべて手作りゆえ、一つのお菓子に2~3分かかる。それを毎日数百個ひたすら作る。
正直、割に合わない。でも、やる。
その結果、こんな商品も生まれた。話題の「訳ありカステラ」。
季節ごとにさまざまな動物が顔を出す人気商品だ。
「世の中の“訳あり”の意味が逆だったら面白いのに…という発想から生まれた当店の看板商品です。通常は欠けや型崩れなどのマイナスな理由で安くなる“訳あり”ですが、当店のカステラはふかふかの生地の中に練り切りの可愛いヒヨコたちが無数に埋め込まれているという、嬉しくて愛らしい“訳あり”になっています」
油脂や膨張剤を使わず、青山養鶏場「あかねちゃん」の濃厚な卵や北海道産小麦を厳選。
伝統の「泡切り」製法でふっくら仕立てた本格派のカステラだ。
三宅さんの信念、それは「見た目の遊び心と、本格的な味わいとのギャップ」。
堅苦しく、高尚な和菓子の伝統を崩すことなく、しかし伝統に縛られることなく、信じた道を追求する。すべては多くの人を笑顔にさせる美味しいものを作るために。
「お客様がSNSや日常でどう楽しむかという体験までを設計してデザインに落とし込む発想力と、それをカタチにする手作業の細やかさだけは誰にも負けてないと思っています」
「伝統的な技法をベースに持ちながらも枠にとらわれず、クスッと笑えるユーモアを商品化する柔軟性が自分の強みかなと」
たびたび話題になり、注目されている理由をご自身はどう感じているのか?
「和菓子の持つ「手仕事のぬくもり」と「SNS時代の共感・エンタメ性」が上手く合致したからだと思っています」
「画面越しに見ても可愛く、実際に手にしたときには職人の手技に感動してもらえる。伝統技術を「堅苦しいもの」ではなく「楽しくて可愛いもの」として再定義して発信し続けている点が、多くの方に届いている理由だと感じています」
ここ数年、菓子製造小売の倒産が増えているという。原材料や光熱費などの高騰に加え、後継者不足、高齢化などもその一因だとか。
衰退もささやかれる和菓子業界をより盛り上げるために必要なことは何なのか。三宅さんはこう語る。
「和菓子の面白さ・自由さを次の世代に示していくことです。伝統を守ることも大切ですが、守るだけでは業界は縮小してしまいます。僕たちが新しい発想でヒットを生み出し、「和菓子屋ってこんなに自由で面白いんだ!」「職人ってカッコいい!」と思ってもらえる背中を見せることで、若い担い手やファンを増やしていくことが必要だと感じています」
三宅さんのこれからの挑戦が気になる。和菓子業界の革命児が目指す未来とは?
「単にお菓子を販売するだけでなく、「和菓子を作る・仕上げる楽しさ」を体験できる参加型コンテンツの展開です」
「例えば、お客様自身が練り切りをドリンクに乗せて完成させる体験型和スイーツや、地元の特産品と職人の手技を掛け合わせた新たなご当地和菓子の開発など、常に驚きのある挑戦を続けていきたいです」
取材協力
御菓子司 紅谷三宅
御菓子司 紅谷三宅 公式インスタグラム
和菓子職人 三宅正晃さんインスタグラム
文/太田ポーシャ




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