購入者の生の声は商品をより良くするためのヒント。
向き合い方は各社それぞれだが、ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の場合、毎月1回のペースで「マジボイス実現委員会」と題した会議体を実施し、自社ブランド品の改善点を決めている。
7月3日に実施された「マジボイス委員会」がメディア向けに公開されるとのことで、オブザーブしてきた。
ドン・キホーテを利用する人は知っている人も多いと思うが、『マジボイス』とは、PPIHグループのオリジナル電子マネー『majica(マジカ)』公式アプリに実装されている、販売商品に関する評価・投稿などができる機能。商品の改善ポイントはアプリを通じて収集したデータを解析した結果と、購入者が投稿した正直な声を元に検討される。
公開された「マジボイス実現委員会」は、4時間近くの長丁場。会場には議題に挙がる商品の開発などに携わる担当者が集まったほか、オンラインでの参加者も相当数にのぼった。
議題に挙がった商品は、自社ブランド『情熱価格』の中から選ばれた9アイテム。1アイテムに割り当てられた時間は25分ほどで、最初に進行役から購入者分析、いいよ!ビミョー分析、コメント分析、ポジティブなコメントとネガティブなコメントの一部紹介とまとめ、改善項目の抽出と改善方針などが報告される。いいよ!ビミョー分析とは、商品の満足度を分析したもの。『マジボイス』で購入商品に満足できたら[いいよ!]、満足できなかったら[ビミョー]をタップすることで得られた結果から満足・不満の割合を算出したものだ。
進行役からこれらの報告を受けた後に開発担当やデザイン担当など関係者が議論し、最終的に改善の方向性を決定する。議題に挙がった全9アイテムのうち印象に残った3アイテムの議論の過程を伝えたい。
日本一焼き芋を売っているドンキならではの悩み
(1)世界基準の甘さと日本基準の甘さには違いがある
牛乳で割ると焼き芋オレができるという『情熱価格 焼き芋ポーション10P』(以下、焼き芋ポーション)はいいよ!ビミョー分析の結果から購入者の多くが不満を感じていることがうかがえた。2026年6月21日時点で[いいよ!]38%、[ビミョー]62%となっており、男性50代、女性40代~50代で[ビミョー]評価が目立つ。
コメントを分析すると、「美味しい」「焼き芋の風味がしっかり感じられる」とポジティブなものもある一方、「甘すぎる」「最後まで飲みきれない」「牛乳が溶けにくい」といったネガティブな声が多い。とくに「甘すぎる」という指摘は、レビュー全体の約60%で見られたほどだった。
進行役が挙げた改善点は甘さ、溶解性など。顧客がなぜ甘いと感じるのかを分析した上で甘さを調整するか、パッケージでの割り方の伝え方を変更することが提案された。
会場では現行品と改良品のサンプルでつくった焼き芋オレが配られ全員が試飲。現行品は確かに甘すぎるきらいがあったが、改良品は甘さが調整され、明らかに飲み続けやすいものに仕上がっていた。
開発担当者からは「甘さについてはお客様が希釈する際に牛乳の量を増やせば調整できます」とあったものの、もともと甘さ強めにつくっていたことから甘さを調整することにした旨を説明。甘さのほかにも指摘が多かった「人工的な甘味料の味がする」についても対処するとし、「配合を見直し後味を改善することにしました」と報告された。
溶けにくさについては、改良品は冷たい牛乳でも溶けやすくなるよう調整したという。これにより現行品より薄くなるものの、甘さを抑えることで焼き芋感が強く感じられるようになることから焼き芋ラテらしさは維持できるとのことだ。
進行役から「甘さはアイスで飲んだ時とホットで飲んだ時のどちらを基準にして決めたのですか?」と質問が飛ぶ。この質問に開発担当者は「とくに基準は決めていませんが、アイスで飲んだ時は甘さが少し感じにくくなるので、アイスでもしっかり甘さが感じられるように配合を決めています」と回答した。
日本だけではなく海外店舗でも販売するため使える甘味料が海外でも使用できるものに限定されることから、開発担当者は「世界基準の甘さと日本国内の甘さの基準が異なるため、甘さは悩ましい」と打ち明けられた。
そのため改良後については、販売可能な国々でのみ改良品を販売し、日本国内の結果を踏まえた上で今後の具体的な世界展開を検討したいという意向が示された。
(2)焼き芋商品は期待が高くハードルが上がっている
また、改良品を試飲した会議参加メンバーから、改良後でつくった焼き芋オレについて「飲みやすくなりましたが、現行品よりさつまいもらしい繊維質の感じが弱くなりました」と指摘。この点について開発担当から溶けやすさ向上のため繊維質を弱めた旨の説明がされ、「繊維質の感じを気に入っている人もいると思われるので、改良後は変わったことがわかるようパッケージで謳うようにすればより良くなるのでないかと思われます」との考えが示された。
これに対し、デザイン担当者から次のような回答が示された。
「マジボイスで繊維質に対する好評な声が多ければ、パッケージでそのことを補足する必要はあると思います。ですが、お客様の反応が繊維質の評価よりも溶けにくいことに集中しているようであれば、この点に対するアンサーとして溶けやすくなったことを謳ったほうがいいと考えます。繊維質のことはお客様からどれだけ支持されているか次第になるかと思われますので、もう少し詳細を詰めてから結論を出した方がいいと考えています」
パッケージについては『マジボイス』のコメントを改めて精査し、その結果を踏まえて見直しをかけることになった。これを受け、開発担当者から次のような提案がなされた。
「味に関する意見が多いということは、ドン・キホーテの焼き芋に対する期待値が高すぎることが背景にあるかもしれません。日本一焼き芋を売っているので、ドン・キホーテの店舗で売っている焼き芋をイメージしてしまいハードルが上がってしまっていと思われます。もし焼き芋ではなくスイートポテト風とかであったらイメージは変わっているかもしれないので、こういう点も見直した方がいいかもしれません」
現在のパッケージには「ドンキの焼き芋と同じ品種! 紅はるかパウダー使用」の表記がある。開発担当者は「われわれは焼き芋商品を多くつくっていますが、よく言われるのが『いつもの焼き芋とイメージが違う』です」と明かし、これを受け進行役も「情熱価格の名前で発売する商品なので、『店頭で売っている焼き芋とは違う』と言い切らないとお客様は自然に焼き芋と結びつけてしまいます。納得いただける中身にするか、絶対結びつかないよう味は焼き芋とは違うことを明示するかの2択かなと感じています」と方向性を定めた。
この流れを受け、デザイン担当者からパッケージデザイン見直しの提案がなされた。
「商品名の変更の余地が大きいと思います。先ほどのスイートポテト風もそうですが、情熱価格の冠を生かすのであれば、『焼き芋を日本一売っているドンキが牛乳に一番合う焼き芋の味を研究したらこの味にたどり着きました 焼き芋ポーション』といった文脈でもイケると思われます。物は言いようですので、一度提案させていただきたいと思います」
『焼き芋ポーション』は、中身については飲みやすさや甘さを調整し溶けやすくする改善を進めていくことで決定。パッケージデザインについても、商品をより適切に表現したものにする検討していくことになった。
前向きな撤退を決意し再参入を目指す
(1)問題点は味や食感だけではなくパッケージも?
『焼き芋ポーション』同様、購入者の多くが不満を感じていることがうかがえたことから改良の対象になったのが、『情熱価格 バナナチップス海苔わさび味』(以下、バナナチップス海苔わさび味)。2026年6月21日時点で、[いいよ!]29%[ビミョー]71%と厳しい評価が下っている。
コメントもネガティブなものが目立ち、「わさびの味が強すぎて、バナナや海苔の風味が感じられにくい」「ポテトチップスのような軽い食感になっていて粉々になりやすく食べづらい」「バナナらしさがない」といった内容が多く寄せられていた。
進行役が改善項目として挙げたのは、(1)わさびの辛さ調整、(2)バナナの風味・食感の強化――という2点。会場で現行品を試食したが、確かにわさびが強く、バナナの風味が弱い。食感もバナナのイメージから遠いものだった。
「バナナらしさがない」といった購入者からの指摘について、開発担当者の見解は「バナナらしさはなくても問題ない」。バナナはあくまでの材料として使っており、この指摘も想定していたものだった。
タイではバナナを調理に使い、バナナを揚げてつくったポテトチップスのようなスナック菓子が販売されている。世界的には甘くないバナナが多く、じゃがいもの代わりにバナナが使われるケースは珍しくない。『バナナチップス海苔わさび』のバナナも、でんぷん質が多くじゃがいもの代わりなるバナナが使われている。
以上のような説明から、進行役から「パッケージの表現を変えるべきではなかったでしょうか?」と疑問が呈された。これに対しデザイン担当者は「いま大きく反省しているところです」と答え、次のように続けた。
「改めてパッケージを見てみると、甘いバナナを期待してしまうデザインになっています。商品名の表現を変えるはマストだと考えています」
進行役から「コミュニケーションの仕方に課題があると感じますので、デザインはしっかり議論して改善していただきたいです」とパッケージの改善要望が示される。バナナ感のアップはひとまず見送りとなった。
(2)想定外だったヘルシーさを期待しての購入
いっぽう、わさびの辛さ調整については、開発担当者は「可能です」と回答し次のように続けた。
「主に10代、20代の方々に購入していただきたかったのですが、マジボイスのデータを見ると、想定していた顧客とは異なり40代、50代の男女に購入されていました。こめ油を使っていることを謳ったこともあり、ヘルシーさを期待して購入されたのかもしれません」。
海苔わさびにした理由を進行役が開発担当者に問うと、試作時は海苔わさびのほか、塩味、ホットチリ味もつくったが、初の商品だったこともあり面白さを重視した結果、海苔わさびに決めたという。ただ、わさびは日本のわさびではなく西洋わさびを使用。日本人にはなじみが薄いことが味に対する評価を下げた面があったことを窺わせた。
「フレーバーを変えるのもアリだと思いますが……」と進行役が投げかけると、開発担当者は「マジボイスの投稿からヘルシーさや健康を求めて購入されていましたので、お客様の期待を裏切る結果になってしまいました。いったん終売し、新フレーバーで再チャレンジさせていただきたいと思います」と回答する。
正直、この判断には驚かされた。会場からも次のような疑問が呈された。
「この商品を購入されたお客様の中にはわさび味を期待して購入されている方もいらっしゃいます。そういう方たちからすれば、わさびの味を弱くすればイメージ通りになり美味しくいただけると思うのですが、一度わさびの味を弱くすることも検討した上で終売を決意されたのでしょうか?」
この疑問に対する開発担当者の答は次のようなものだった。
「この商品の一番のウリは、バナナを使ってもポテトチップスのようなスナック菓子がつくれることにあります。タイやベトナムではバナナスナックの売上が伸びていることから、日本で販売しても売上が期待できると考えました。バナナスナックに合う味として今回は海苔わさびを選びましたが、日本でバナナを使ったスナック菓子と聞くと、甘くて厚みのあるバナナの風味がしっかりあるものをイメージしがちです。このイメージと商品が合っていないので、ひとまず終売して、どうすれば日本にバナナスナックを根づかせることができるかを検討することが重要だと判断しました」
開発担当者は前向きな撤退を選んだ。バナナスナックの市場開拓は諦めたわけではなく、いつか新しい商品を発売したいという再チャレンジの意思を確認して、『バナナチップス海苔わさび味』は終売が決まった。
誰に向けた商品なのかを改めて問い直す結果に
(1)購入者からの評価は高いが完成度をさらに高める
「マジボイス実現委員会」は多くの購入者が満足していない商品の改善方針を話し合って決める場だが、ときには多くの購入者が満足している商品が俎上にあがり改善が検討されることがある。
コーヒー飲料の『情熱価格 濃縮コーヒーポーション無糖50P』(以下、濃縮コーヒーポーション無糖)がまさにそうで、[いいよ!]率が90%(2026年6月15日時点)と高いものの、[いいよ!]と評価した人のコメントの中に気になる点が見られることから、改善を検討することになった。
『濃縮コーヒーポーション無糖』はコメント分析から、美味しさ、コスパ、使いやすさに言及したポジティブなものがとくに多いが、「味が薄い」「香りが弱い」「開けづらい」といったネガティブなものも散見されていた。進行係はさらなる顧客満足の向上として、コーヒー感を強化する「味・コクの改善」を提案。開発担当者も「薄い」「コクがない」といった指摘については認めているところで、「コーヒー感は個人差によるところが大きいと思われますが、『薄い』『コクがない』という部分については改善の余地があります。より良い商品にするため、改良することにしました」と明かす。
会場の会議参加者に、現行品のポーションでつくったアイスコーヒーと味を濃くした改良品でつくったアイスコーヒーのサンプルを配布。飲み比べた限りでは、改良後の方濃く感じられたものの、誰が飲んでも明らかに濃くなったと感じられるほどではなく、人によっては言われない限り違いがわかりにくいものだった。
ただ、改良品の生豆使用量(換算値)は現行品の120%。濃さは上がっており、飲んだ時に舌で感じるBrix(糖度)を上げることで満足度を高めることを目指したという。生豆の使用量を増やして濃くつくってもコストは上がらないとのことだ。
「お客様の声から、現状ではこれ以上濃くする必要はないと捉えています。もっと濃いものを求められるとしたら、別の商品で提供することを考えないとなりません」と開発担当者。コーヒー飲料は生豆使用量の使用量が定められているので、さらに濃くするため生豆の使用量を増やすと、コーヒー飲料とは別カテゴリーの商品になる。
(2)美味しさを伝えることに少しこだわりすぎたパッケージ
議論は味のことから、当初の改善方針にはなかったパッケージデザインに移る。それは開発担当者から、「パッケージでこだわってくつくったものと推すよりも、手軽に飲めることを推すべき商品ではないでしょうか?」という問題提起がなされたためであった。
コーヒーポーションはコーヒーが好きで淹れ方にこだわりがある人向けではなく、コーヒーを手軽に飲みたい人向けの商品。対象としているユーザーは、レギュラーコーヒーよりも簡単につくれるがインスタントコーヒーよりは美味しいコーヒーを求めている人になる。
現行品のパッケージには「雑味のない深いコクと香り成分の維持を実現!」とあり、その下で製法を打ち出している。これら一連の表記は、同価格帯の他のコーヒーポーションと比較すると味に奥行きがあり、かつてのポーションコーヒーにありがちな口の中に残るレトルト臭を押さえスッキリとした飲み口になるよう仕立てたことに由来している。
ポーションコーヒーとしては格段に美味しいものが開発できたことの自負から、現行品は本格感のある味わいを訴求するものになったが、コーヒーに拘る人は豆から挽いて淹れるほど。むしろ、手軽につくれるポーションのメリットを生かし、暑い時にサッとアイスコーヒーがつくれるような打ち出し方をした方がいいのかもしれない、というのが開発担当者の見解である。
こうした意見に対し、デザイン担当は次のような見解を示した。
「水やお湯で割るだけでこんな美味しいコーヒーができるなんていいじゃん、というのが現在のパッケージの狙いですが、方向性としてはこれも正しいと思っています。しかし、これまでのやり取りを聞いた上で改めて見てみると、美味しさを伝えることに少しこだわりすぎ、水やお湯だけでつくれることのライトさが足りなかったかもしれません。購入されるお客様の姿や飲んでいるシーンを想像せずデザインをつくったところは反省すべき点だと思っています。リニューアルする際、飲むシーンを明確にしたライトな打ち出し方していこうかなと考えているところです」
結論としては、中身は会場で試飲した改良品に変更することで決定。パッケージで何を伝えるかについては検討の上調整となった。
これらのほかの6アイテムも、短い時間で活発に議論され、改善内容が明確にされた。ただ、今回レポートした3アイテムについては、何らかの事情によって決まった改善内容通りに改善されない可能性もあることをあらかじめご承知おきいただきたい。
取材・文/大沢裕司
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