こんにちは。弁護士の林 孝匡です。宇宙イチわかりやすい法律解説を目指しています。
経理を、1人の従業員に任せていませんか?
今回取り上げるのは、会社の経理会計事務を1人で担当していた女性従業員が、5年以上にわたり不正を行っていた事件です。
不正の内容は、かなり多岐にわたります。
・自分の給与を水増しする
・商品券やギフトカードを購入し、自分のボーナスとして受け取る
・会社の給油カードを使い、自分の車に給油する
会社が従業員を提訴。裁判所の判断は!?
以下、わかりやすく解説します。
※ 実際の判決を基に構成
※ 判決の本質を損なわないようフランクな会話に変換
※ 争いを一部抜粋して簡略化
どんな事件か
▼ 会社
産業機械・工作機械の製造販売を行う会社
▼不正を働いた従業員
女性(Aさん)
パートタイムの事務職として勤務していた。おもな担当業務は経理会計事務。不正行為の発生時には、Aさんが1人でこの業務を担っていた。チョー危険である。
■ 具体的な業務内容
Aさんは、従業員のタイムカードから労働時間を積算する作業と、計算した支給額を各従業員に振り込む作業を担当していた。なお、Aさん自身の給与は振込ではなく現金支給とされていた。
■ 給与の水増し
悪魔のささやきがあったのでしょう。Aさんは、自分の給与の算出および支払いにあたり、労働時間の積算においてタイムカードに記録された労働時間の合計を水増ししたり、算出された給料支払明細書記載の金額に一定の上乗せをした額を支給したりすることがありました。
―― なんで給与の水増しという不正行為に手を染めたんですか?
Aさん
「会社が勤続年数に応じた有給を与えてくれなかったり、適切な休憩時間をくれなかったことに不満を抱いたのが一因です」
■ 会社口座からの出金
Aさんは、経理会計事務の一環として、従業員への給与の支払い、預金の積立て、取引先への支払い等のため、会社の口座から出金を行うことがありました。
ところが……この機会を悪用して商品券またはギフトカード購入名目で136万円を出金し、購入した商品券等を自分のボーナスとして受領していました。
なお、後に裁判においてAさんは「社長の指示または了解があった」と主張したが、裁判所に否定されています。
■ ガソリンスタンドでの給油等
Aさんは、会社の給油カードを持っていました。給油カードとは、ガソリンスタンドでの給油、洗車、修理等に利用でき、事後に会社に対して請求が行われるカードのこと。
2度あることは3度ある…。ここでも魔が差したのでしょう。
Aさんは、自分のために新たに給油カードを作り、そのカードを使って自分の車への給油等を行ったのです。
■ 退職
入社から約8年後、会社がAさんの不正行為を察知し、追及したところ、Aさんは退職しました。
その約6か月後、会社はAさんに対して訴訟を提起しました。
裁判所のジャッジ
裁判所はAさんに対して「約448万円を支払え」と命じました。
以下、裁判でのやりとりを要約します。
■ 給与の水増し(約191万円)
Aさん
「自分への支給内容について社長から承認を受けていました」
裁判所
「たしかに、Aさんの積算した労働時間に基づき支給額を決定していたのは社長であるが、Aさんが社長に提出していたタイムカードには、Aさんが自己の考えに基づき算出した総労働時間が記載されているにとどまり、それのみで、総労働時間が水増しされていることが一見して分かるようになっていたとまではいえない。社長の承認はなかった」
■ 会社口座からの出金(約145万円)
Aさん
「商品券またはギフトカードの購入は、社長が私へのボーナスの支払いとして金額を指定して購入を指示したんです!」
裁判所
「そのような指示を裏付ける証拠がねぇ。パートタイム従業員であるAさんにボーナスを支給する根拠や理由があることもうかがわれない」
■ ガソリンスタンドでの給油等(約112万円)
Aさん
「給油カードは社長のすすめにより作成しました!」
裁判所
「会社には、すでに2台の営業車両用の給油カードが存在し、それを使い回すこともできる状況であったところ、あえてAさんの自家用車のために給油カードを作成する必要性があったとはいえない」
またAさんは、給油を巡って次の主張も展開しています。
Aさん
「給油カードは私的な範囲での利用も一定程度許容されていました」
「仮に業務のための利用に限られるとしても、私は自家用車を業務に用いることもあったんです」
裁判所
「社長は、Aさんが自家用車を用いて頻繁に配達を行っていた期間について、給油カードを用いることを許容していたにとどまり、これを超えて、頻繁に配達業務を担当する期間が終わった後に給油カードを使用することを許容していたことを認めるに足りる証拠はない」「本件の給油等は、社長の指示または了解に基づかないものであり違法」
今回は以上です。本会社の経理業務を1人の従業員に任せることは危険ですね。
「こんな解説してほしいな~」があれば下記URLからポストしてください。また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
「ムズイ法律を、おもしろく」をモットーにコンテンツを作成している弁護士
YouTube:https://www.youtube.com/@saiban_LABO
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