フジ・メディア・ホールディングスとSBIホールディングスが、メディア・コンテンツ領域での戦略的業務提携の実現に向けて協議・検討していることが明らかになりました。
SBIはオンライン証券や銀行、保険などを扱う金融グループ。フジ・メディアとのシナジー効果は薄いようにも見えます。しかし、SBIの代表取締役会長兼社長である北尾吉孝氏は、フジ・メディアの経営に強い関心を寄せていました。その狙いを紐解きます。
脱合理主義的な従来とは異なる経済圏構想を掲げたSBI
フジテレビに所属する女性アナウンサーのトラブルに端を発した大スキャンダルで、フジ・メディアの経営は大きく揺さぶられました。経営改善の圧力をかけていた勢力の一つが、アクティビストのダルトン・インベストメンツでした。
ダルトンは北尾吉孝氏に接触し、フジ・メディアの取締役候補として推薦しました。北尾氏は2025年4月に記者会見を開き、アニメ・映画・キャラクターなどのIPを主軸として海外展開を進めるべきなどと語っています。
ダルトンはフジ・メディアの不動産事業の分離を要求しており、メディア事業に経営資源を集中するべきだと主張していました。フジ・メディアにとって不動産事業は業績を安定させるうえで極めて重要な役割を担っていました。金融のプロである北尾氏はそれをよく理解していたはずですが、メディア事業に集中する体制づくりを進めようとしていたのです。このことから、メディアとコンテンツビジネスに対して高い関心を持っていたことがわかります。
しかし、フジ・メディアは2025年5月に発表した取締役候補に北尾氏を入れませんでした。さらに同年6月に開催された株主総会で、ダルトンが提案した議案は否決。北尾氏がフジ・メディアの取締役に就くことはありませんでした。
北尾氏といえば、2005年に堀江貴文氏率いるライブドアがフジテレビに買収を仕掛けた際、買収防衛の役割を担うホワイトナイトとして活躍したことで有名。その縁でダルトンから担がれたようにも見えますが、取締役に推薦される前からメディアに強い興味関心を示していました。2025年3月に「感情経済圏構想」を掲げていたのです。
感情経済とは消費者の感情や共感をコントロールし、消費や投資へと結びつける経済圏、エコシステムを形作ろうとするもの。従来の合理性を重視する経済活動のアンチテーゼとして北尾氏が唱えるようになりました。
フジテレビが大スキャンダルに見舞われたのは、ちょうどそのタイミングだったのです。
合理的な経済行動は一部で終焉しつつあるという事実
民放キー局は、長く続いた従来のビジネスモデルから脱却することができていません。スポンサーからの広告収入がメインであり、番組を作るスタッフや出演者は多少なりともその影響を受けることになります。
視聴率が広告収入を左右する強力な指標にもなっているため、数字が獲れる大物タレントや俳優が絶大な力を持つようにもなります。放送局は力の強い人に支配されてしまいがちなため、ガバナンスが利きづらくなってしまうのです。
一方、タレントや俳優への締め付けを厳しくすると立ち回りや演技で十分な力が発揮できず、面白い番組を作れなくなってしまうことにもなります。民放の放送局は経営の舵取りが極めて難しいのです。
テレビ局を巡る数々のスキャンダルが表に出るようになっていますが、これまで押さえつけてきた負の側面が噴出しているように見えます。ビジネスモデルが限界を迎えているのかもしれません。
SBIの北尾氏は2026年5月に「SBIネオメディア生態系」の戦略説明会に登壇。旧態依然とした広告モデルでは感情に訴える十分な力を発揮できないとし、自ら生態系を作らなければダメだと考えるに至ったと語りました。これを「SBIネオメディア生態系」と呼んでいます。
SBIは自らが強みを持つ金融とITにメディアを融合させ、既存のメディアが持つ課題を解決しようとしているのです。
この構想はやや分かりづらい部分もありますが、将来性を感じる壮大なものであることは間違いありません。
北尾氏は「感情経済圏」というキーワードを使っています。これまで「人は合理的に行動する」という前提で経済は形作られてきましたが、そこから一歩進んで感情を重視するというものです。
すでにその兆候は表れています。典型的な消費形態が推し活です。VTuberなどの配信者に対して、月に数十万円もの投げ銭をする人がいますが、その消費行動の合理性を本人が語るのは難しいでしょう。「好きだから」「振り向いてほしいから」「応援してあげたいから」というような、感情が行動を支えているからです。
ブロックチェーン技術でテレビの在り方は大きく変化するか
それでは、SBIがフジテレビと提携する狙いはどこにあるのでしょうか。SBIは足元で協議・検討している提携内容の一つに、ブロックチェーンやデジタルアセット関連の知見を活かしたファン参加、収益還元モデルの構築を挙げています。
これはIP・番組・イベントなどを起点として生まれる人々の感情を、消費、参加、投資、コミュニティ形成などを通して経済行動につなげるというもの。フジテレビが持つコンテンツ力と放送ネットワークを活かし、推し活のような消費行動に結びつけようとする動きだと見ることができます。
SBIは暗号資産取引所の運営を行うなど、ブロックチェーンにおける幅広い技術・サービスを持っています。2社が協力し合うことで、テレビ局から新たなコンテンツ形態が生まれるかもしれません。
戦略的業務提携が実現すれば、テレビの在り方が大きく変わる可能性もあります。
文/不破聡




DIME MAGAZINE














