「CSV」(共有価値の創造)は、提唱からまだ20年も経っていない概念である。
これは敢えてひねくれた言い方をすれば、「企業はもう慈善事業に手を出さない」ということだ。慈善事業とは、所詮はどこまで行っても「慈善」事業。そこに「利益」はない。しかし、CSVは企業が利益を上げることを前提とする。徹頭徹尾、商売なのだ。
それは地域とそこに住む人の幸福や価値観と接続した商売と表現するべきか。「そのサービスが売り上げを達成すれば、地域住民にとっても喜ばしい環境が整う」というような方向性を目指す。それがCSVである。
そうした概念に近いサービスを展開しているユニクロの例を見ていこう。

ダウンジャケットも縫い直せる!
服のダメージは恥ずかしいものか?
それは、その服の種類にもよるだろう。たとえば、ジーンズはダメージがむしろ価値を上げる要素になる。ダメージだらけのビンテージジーンズが高額で販売されることもしばしば。ならば、ユニクロで買った服が綻び出した時、それを縫い直したりすることは決して恥ずかしいことではないのでは?
RE.UNIQLO STUDIOは、ユニクロで購入した製品を対象にしたリペアサービスである。
たとえば、ダウンジャケットの破れは買い替えの動機になり得るほどの致命的なダメージだ。ミッキー・ローク主演の映画『レスラー』でロークが演じた落ちぶれたプロレスラーのランディは、腕の部分が破れたダウンジャケットを着ていた。それをテープで補修している部分が、彼の没落ぶりをよく表していた。しかし、普通に考えればテープでカバーしなければならないほどのダウンジャケットは間違いなく「用済み」である。
それを再生し、極力長く着れるようにしようというのがRE.UNIQLO STUDIOのコンセプトだ。
ダウンジャケットは破れだけでなく、ファスナーの故障もあり得る。スライダーの脱落は、ダウンジャケットにとっては致命傷以外の何ものでもない。が、RE.UNIQLO STUDIOではスライダーの再装着にも対応。700円という低価格で修理をしてくれるのだ。
コーヒーの木を新しくすると…
CSVは、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が2011年に提唱した経営概念である。僅か15年前のことだ。
あるコーヒー農園で栽培している木は、どれも老木で収穫量が少なくなっている。そこで、コーヒー飲料メーカーが無償で新しい木を農園に提供する。これはコーヒー飲料メーカーにとっては「利益の追求」に他ならない。なぜなら、収穫量が増えればそれ自体が巨大な利益になるからだ。もちろん、農園で働いている労働者に対する報酬も増えていく。
プロレスラーのアントニオ猪木は、少年時代にブラジルのコーヒー農園で奴隷のような労働を強いられていたことは有名な話である。猪木曰く、その農園の木は非常に収穫量が少ない上、報酬は単純な収穫量で決まっていたため、人数の少ない家族が経済的不利を被っていたという。猪木家は人数が多く、そのため他の移民家族から嫉妬されていたとも証言している。
なぜ、世界的企業は「CSV」が必須なのか?少年期のアントニオ猪木の生活から読み解く
2020年代から、大企業の間ではCSV(Creating Shared Value 共有価値の創造)がトレンドになっている。 これはハーバード大学経営大学院のマ…
もしも、この時代のコーヒー飲料メーカーがCSVを実施していたらどうか? その上で、労働者の報酬体系の改革にメーカーが直接乗り出したとしたら?
農園の労働者はより負担の少ない環境下で安定した収入を得ることができ、またそれが収穫効率として農園やメーカーに経済的恩恵を与えるだろう。労働者の家庭から猪木のような格闘家が育った場合、自分を育ててくれたメーカーに対して好意的な発言をしてくれるかもしれない。それが宣伝効果をもたらす可能性もある。
なお、猪木はブラジルのコーヒー農園で働いていた頃を一生涯の悪夢として認識していた。
「善意事業をやめる」のがCSV
RE.UNIQLOは着古した服の回収も行っている。
わたしたちは、ユニクロ店舗で回収した服をリユースし、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や世界中のNGO・NPOとともに、難民キャンプや被災地への緊急災害支援など、世界中の服を必要としている人たちに届けています。さらに、回収された服に新たな価値を加えてお客様へお届けする活動もはじまっています。また、ダウンなど、着なくなった服の素材から新しい服を作るリサイクルにも挑戦中。服へ活用できないものは、断熱材や防音材などの素材として活用されます。
(RE.UNIQLO ユニクロ公式サイト)
ここでは「服へ活用できないものは、断熱材や防音材などの素材として活用されます」という点に注目したい。
飲料用のペットボトルは今やほぼ全て再生品と言い切ってもいいほどだが、それ故に原料となるペットボトル(というより、それを砕いたペレット)が取り合い状態になっている。善意で再生ペットボトルの生産を行っているというのではなく、もはやペットボトルを作る最も安上がりの手段が再生ペットボトルなのだ。衣料品から断熱材や防音材を作るというのも、結局のところそれが多大な利益になるからで、決して慈善事業ではない……というのが本当のところではないか。
だとすると、これはやはりCSVに近い事業なのだ。
SDGsの「訴求の限界」が見えてきた中で…
SDGsは、筆者の肌感覚から言っても「訴求の限界」に達していると言わざるを得ない。なぜなら、SDGsは鎌倉時代の浄土宗のように理念の発露の強弱や、それを実施した回数を競うようになっているからだ。
SDGsは、より多くの目標を何度も徹底してやった人間・団体・企業のほうが偉い……という風潮が既に確立してしまっているように思える。この先「SDGs界の親鸞」が出てこない以上、こうした状態は続くだろう。
しかし、理念とはまた別に環境問題に関連する目標が直接的な収入につながるとしたら? ビットコインのマイニングが一時期流行したように、各分野の企業がこぞってそれを実施するに違いない。
そうした点からも、CSVが我々の住む世界にどのような影響を与えるのか注目する必要がある。
参考
RE.UNIQLO ユニクロ公式サイト
RE.UNIQLO STUDIO ユニクロ公式サイト
文/澤田真一




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