この夏、クラフトビール業界の物流インフラに変化が起き始めている。末端価格の2~3割を占めるといわれる物流コストを大幅に軽減するサービスの登場だ。どんな仕組みなのか。価格への影響は? Otomoni(オトモニ)運営会社の「Brewtope hub」とBest Beer Japanの「樽回収サービス」を紹介する。
現在の物流システムはクラフトビールに適していない
1994年の酒税法改正による規制緩和から30年余り経ち、クラフトビールブルワリーは今、1,000か所に迫る。コロナ禍以降の数年で劇的に増加し、「クラフトビール」の認知度は全国区と言っていい。
その一方で、クラフトビールの販売量は伸びあぐねている。ビール全体の販売量に占めるクラフトビールの割合は、いまだに1~2%台と見積もられている。クラフトビール先進国のアメリカでは10%台半ば。日本同様にこの数年で急速にクラフトビールが普及した韓国で5%以上と目されるのと比較しても低迷ぶりが明らかだ。
その要因に末端価格(飲食店や小売店での価格)の高さがある。大手製品の数倍になる価格の2~3割を占めると言われるのが物流コストだ。
この問題に切り込んだのが、クラフトビールの定期便サービス「Otomoni(オトモニ)」を提供するBrewtopeの「Brewtope hub」と、Best Beer Japanの「樽回収サービス」である。
Brewtope代表の金澤俊昌さんは「日本のお酒の物流システムは大手ビールメーカーに最適化された仕組み。大量の製品を全国へ一斉に配送する仕組みです。そもそもクラフトビールに適していません」と、物流システムの構造問題を指摘する。前提にあるのは、大手のビールとクラフトビールは、同じビールでもまったく性格の異なる商品であることだ。
酒販店の視点で見るとこうだ。大手のメーカーは数社しかないのに対し、クラフトビールメーカーは数百。仕入れ業務はこれだけで劇的に煩雑になる。しかも大手ビールのように大量に仕入れられるわけではない。バラエティの多さはクラフトビールの生命線であり、仕入れるほうも少量多品種にならざるを得ない。
また、大手ビールはテレビCMで全国あまねく製品のストーリーを伝えられるが、クラフトビールはそうはいかない。ブルワリー固有のストーリーが最大の差別化ポイントでありながら、それを全国に広告する資金力はない。
「そのストーリーをプロモーションできないと、大手ビールの横に何だかやたら高くて知らないビールが並んでいるな、という状況になってしまうわけです。つまり酒販店にとっては扱いにくい。既存の物流システムに乗せるにはムリがあります」(金澤さん)
近所のスーパーや酒屋にクラフトビールが広がりにくいのは、こうした事情があるからだ。
小規模ブルワリーが集まって「みんなでコストダウン」する仕組み
日本のクラフトビールの抱える問題点を、金澤さんは次のように説明する。
「今、日本のクラフトビールメーカーは、大きく2つの方向に分かれています。ひとつは既存の物流システムに乗れるよう大規模化を目指すブルワリー。もうひとつは、それ以外の、大部分を占める中小ブルワリーです。
大多数のブルワリーは卸を介さず、ビアバーやボトルショップ、飲食店などへ直接販売が中心です。そのため、一般の飲食店・小売店のクラフトビールの扱いが限られているのです。クラフトビールの飲み手が広がらない理由は明らかで、飲める場所、買える場所が圧倒的に少ないから。これを増やすために何をしたらいいか、ずっと考えてきました」
Brewtopeはクラフトビールの定期便「Otomoni」というB to C事業からスタートしている。冷蔵倉庫を整備し、冷蔵配達する物流網を使って全国のブルワリーから毎回異なるビールを届けるシステムを構築してきた。現在、500社以上のブルワリーと直接取引し、5,000種以上のクラフトビールを扱う国内最大級のクラフトビール専門販売会社である。
Otomoniの会員に、飲食店のオーナーが少なくないことに金澤さんは注目した。ビアバーだけでなく、日本料理店やイタリアンレストランなどからの問い合わせも多かった。つきあいのある酒販店がクラフトビールを取り扱っていないため、Otomoniで調達していたのである。
そこでBrewtopeが開発したのが、飲食店や小売店とブルワリー間の流通を代行する「Brewtope hub」だ。どんなサービスか。
「小規模ブルワリーの多くは社長とブルワー、数人のスタッフで切り盛りしています。樽詰め、缶詰め、配送伝票管理などの出荷業務、在庫管理、酒税管理などの業務に忙殺され、ビールづくりに集中する時間が削られてしまうのが現状です。Brewtope hubはこれらのオペレーション業務を支援する一元管理システムの提供、樽の保管、出荷、配送業務の代行でブルワリーの作業の効率化を図ります。配送は、複数のブルワリーをまとめて共同配送することで物流コストを下げる仕組みです」
事業化のポイントは共同倉庫、共同集荷、共同配送だ。
ブルワリーと飲食店が直販関係の場合、ブルワリーは飲食店から受注するたびに出荷する。あるビアバーにペールエールを1樽、あるレストランにIPAを1樽といった具合だ。配送は宅配業者に依頼する。多くは冷蔵便だ。個人が宅配便を使うのと変わらない。飲食店からブルワリーへ空樽を返却する際も同様だ。返却時は冷蔵便ではないが、物流コストがビール価格の2~3割を占めるといわれるのはこういうわけだ。
そこでBrewtope hubは複数のブルワリーの出荷をまとめて「共同集荷」する。いったん「共同倉庫」に保管し、そこから飲食店へ「共同配送」する。空き樽の回収も複数店舗まとめて「共同回収」し、「共同倉庫」に保管。1軒1軒、1樽ごとにかかっていた配送料を、まとめることで安くする。
「Brewtope hubは、“みんなでコストを下げよう”という取り組みです。物流の効率化にブルワリーの個の力ではどうにもなりません。利用するブルワリーが増えるほど配送ルートが充実し、物流コストを下げられます。その結果、仕入れ価格が下がり、店頭価格が下がり、より多くの人がクラフトビールを楽しめるようになります。クラフトビールを楽しむ人の裾野を広げる、これが私たちの目指すところです」
数の論理が効くのは配送料だけではない。金澤さんは、「ビールづくりにかかる主なコストは酒税、物流費、原材料費、資材費。Brewtope hubは物流費からアプローチを始めたが、将来的には、麦芽やホップなどの原材料、缶や瓶などの資材などを「共同調達」し、コストダウンすることをめざしています」と語る。現在、Brewtope hubへの参加ブルワリーを絶賛募集中である。
樽の回収費用が下がるとクラフトビールの未来が明るくなる
次に、店舗から出るクラフトビールの空樽の回収サービスを紹介しよう。Best Beer Japanがヤマト運輸と提携して始めた、その名もずばり「樽回収サービス」だ。ビアバーなどの店舗から出るクラフトビールの空き樽を1樽単位で回収し、従来の宅配料金の半額近くまで引き下げた。
Best Beer Japanは2018年に設立したクラフトビール業界に特化した流通システム会社。これまでブルワリー向けの在庫管理システムやビール樽のレンタル、飲食店向けのクラフトビールの注文プラットフォームなどを提供してきた。このたび「樽回収サービス」を事業化した背景には、クラフトビール業界特有の空樽返却の煩雑さがある。代表のピーター・ローゼンバーグさんは次のように説明する。
「ビアバーの通路脇などに、いろんなブルワリーの空き樽が積まれているのを見たことがありませんか? たとえば、クラフトビール専門店では毎月20~30種以上のビールを扱っていますが、取引するブルワリーも同じくらいの数に上ります。空樽を返却するには配送伝票を1軒ずつ作成します。多くは手書きです。宅配料金は、一般の宅配業者に頼むので、1樽で1,500円以上かかります。お店は送料を安く抑えたいので、2~3樽たまるまで店先に置いておくのです。しかし、まとめて返却するには樽を結束バンドで縛る手間が生じます。置いておくスペースもムダですね。
一方、ブルワリー側からすると空樽がなかなか店舗から戻ってこないのは、大きなストレスになります。新しいビールが樽詰めできないとなるとタンクが空けられない。新しい醸造ができない。生産スケジュールが遅れる……と、売り上げに直結する大問題なのです。店舗に“樽を早く返してください”と催促する手間も発生します。
また、宅配のドライバーにとっても空樽はやっかいな荷物です。結束されているので荷台にムダな空きができて非効率です。
このように空き樽の返却に関しては店舗、ブルワリー、宅配業者の3者ともハッピーではなかった。大元の原因は宅配料金の高さです」
そこでBest Beer Japanはヤマト運輸と提携して「1樽693円~」という料金設定を実現した。もちろん配送距離に応じて価格は上がるが、一般的な宅配料金と比べたら半額に近い。
「樽が空になったら、専用のプラットフォームから返却先のブルワリーと集荷日時を選んで送信するだけです。1分で済みますよ」
店舗は煩雑な樽の返却作業から解放され、空樽を置いていたスペースも空く。ブルワリーは樽が速やかに戻ってきて、生産スケジュールが狂う心配がなくなる。そしてトラックドライバーは荷台のムダをなくせる。3者にメリットがあるというわけだ。
「樽回収サービス」はサービス開始1ヶ月で、「当社の飲食店向けプラットフォームで購入された樽の数を上回る数を受注しています。サービス開始前にため込んでいた空樽も返却されているということでしょう」(ローゼンバーグさん)と順調な滑り出しだ。待ち望まれていたサービスなのだろう。
「当社が目指しているのはクラフトビール業界全体のインフラを整えることです。当面、ヤマト運輸と連携して物流を中心にしたクラフトビール課題解決に取り組んでいきます」と語る。
BrewtopeもBest Beer Japanも最終的に、多くの人がおいしいクラフトビールを楽しめることを目指している。小ロット多品種がクラフトビールの魅力であり生命線。それを犠牲にすることなく、クラフトビールに適した物流インフラが整ったとき、日本のクラフトビールはまた一歩前進するのではないだろうか。
【関連情報】
Brewtope hub
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取材・文/佐藤恵菜
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