人生100年時代。キャリアは定年後も続いていく。「専門技術を持つITエンジニアは職に困らない」と思われがちだが、ミドルからシニア層へと年齢が上がるにつれて、市場からの需要は下がる傾向にあるともいわれている。
ベテラン世代のエンジニアが、変化の激しいIT業界でこの先も勝ち抜いていくためには、一体どのような戦略が必要なのだろうか。
シニアエンジニアの需要に詳しい専門家に市場ニーズを聞くとともに、現役シニアエンジニア(60代男性)への取材から、ベテランならではの勝ち筋を読み解く。
シニアエンジニアは50歳をすぎるとオファーが下がる?
経験豊富なベテランITエンジニア(40~60代)に特化したフリーランス求人サイト「レガシーフォース」を運営する株式会社モロは、フリーランスとして活動する40~60代のITエンジニア252名を対象に「求性と年齢に関する実態調査」を実施した。
調査によると、案件のオファーが減ったと感じた年齢について、早い人では30~40代からという声も上がったが、全体を平均すると「54.7歳」という結果になった。
オファーが減った原因の最多は「年齢」だが、対策としては、「特に何も動けていない」が157名(62.3%)で最多に。
少数の回答だったが、中には「希望単価・年収条件を下げた」が14名(5.6%)、「スキルセットの更新」が7名(2.8%)、「リファラル活用」が4名(1.6%)いた。
多くのエンジニアが年齢による危機感を認識していながらも、次の一手に踏み出せていない厳しい実態が浮き彫りになっている。
40代以上のエンジニアの需要は?生き残り方は?
実際の現場における40代以上のミドル・シニアエンジニアの需要は、今どうなっているのだろうか。株式会社モロの代表取締役である前田洋平氏は、市場の現状を次のように分析する。
前田洋平氏
株式会社モロ代表取締役。大手ITでエンジニアを経験後、「Visional」で新規事業や事業承継M&A事業部長を歴任。2024年独立し、経験豊富なベテランITエンジニア(40~60代)特化のフリーランス求人サイト「レガシーフォース」「レガシーフォース」を運営。
https://freelance.legacyforce.jp/
「ひと言でいえば『二極化』が進んでいます。当社の調査では、オファーの減少を感じ始めた年齢は平均54.7歳で、『明確に減った』と答えた方は40代で8.5%、50代で25.4%、60代以上では66.1%と、年齢とともに急増します。
一方、金融・公共系などのレガシーシステムの保守・刷新の現場では、経験豊富なシニアの需要はむしろ根強く、若手が参入しない技術領域では人材不足が深刻です。
つまり『年齢で一律に絞られる市場』と『経験そのものが希少価値になる市場』が併存しており、どちらの土俵で戦うかで40代以降の景色は大きく変わるというのが実感です」
――成功している40代以上のエンジニアの共通点は?
「共通するのは『若手と同じ土俵で戦わない』方です。やりたいこと起点ではなく、市場のニーズ起点で自分の強みを置き直す『リポジショニング』ができる方は強いです。
ベテランほど、自分の技術は当たり前になっていて価値に気づきにくいものですが、若手が参入しにくい領域や、経験の厚みがそのまま信頼になる現場に目を向けると、途端に希少な存在となります」
――40代以上のエンジニアが勝ち抜くために、早期から身につけておくべき知識やスキルとは?
「特定の技術よりも先に、『自分の強みを言語化し、市場のニーズに置き直す力』を鍛えることをおすすめします。具体的には次の3つが挙げられます。
1)特定の製品や言語に閉じない設計力・課題整理力といった『持ち運べるスキル』
2)要件定義や顧客折衝など、上流工程で活きる『対人スキル』
3)生成AIなどの新しいツールを日常業務に組み込む『キャッチアップの習慣』
定期的に自身のスキルの棚卸しを行ない、それを現在の市場ニーズと照らし合わせる作業を、40代のうちから習慣化できるかどうかが、10年後のキャリアに決定的な差を生みます」
<現役エンジニアの声>60代からの勝ち筋とは?
では、実際にシニアの年齢に達してから第一線で活躍し続けるエンジニアは、どのような戦略をとっているのだろうか。
業界歴30年以上の現役ベテランエンジニアであり、現在66歳の村岡敏孝氏は、まさに「自分がやりたいこと」よりも「市場が求めるもの」を追求したひとりだ。
「若手と同じ土俵で戦わない」ことで、独自の強固なキャリアポジションを獲得している。
村岡敏孝氏
IT歴32年のOracle DBエンジニア。金融・公共など基幹システムの設計・構築・移行を多数担当。66歳の現在もAIを活用しながらレガシー領域へ活躍の場を広げている。
村岡氏は、AIとの対話(壁打ち)を通じて自身のキャリアのヒントを得た。そこで辿り着いたのが、自身が最も得意とする「Oracle」の領域だけでなく、「Access」や「VBA」といった〝若手エンジニアが関心を持ちにくい古い領域〟にあえて目を向けるという戦略だ。
多くの企業では、かつて自社のエンジニアが作り込んだExcelやAccessのシステム資産がレガシー化しており、「誰も中身をメンテナンスできなくて困っている」という深刻な状況があることに気づいたのである。
実際にそれらの領域にまつわる案件を調べてみると、シニア世代であっても納得のいく報酬額の需要が、一定数確実に存在していることを発見した。
一般的に60代以降のエンジニアとして、特にどんな壁が訪れるだろうか。村岡氏は実体験から次のように語る。
「最も高いのは『書類選考の壁』だと思います。面談の場にさえ立てれば、30年以上の経験をきちんとお伝えできる自負はあるのですが、その手前の書類の段階で見送られてしまう。
技術的なスキルそのものよりも、『自分たちより年齢の離れたシニア人材と一緒に働くことへの心理的な懸念』が大きいようです。
だからこそ、若手と同じ土俵でスキルの新しさを競い合うのではなく、自分のこれまでの長い経験そのものが参入障壁となり、価値に変わる場所を慎重に選ぶことが大切だと感じています」
――どのような展望を抱いているのか。
「今は自分の専門性を再発見し、さらに磨きをかけることに集中しています。レガシー分野への参入もそのひとつです。自分の持っているものは当たり前すぎて価値に気づきにくいんですよね。
その棚卸しにAIとの壁打ちは有効で、最近は客観的に見出した強みをもとにコンサル分野への挑戦をすすめられています。それをどう現実に落とし込むかを考えるのが楽しみです。
自身の強みと市場ニーズのマッチングも大切だと思っています。常にアンテナを立てて柔軟性を持ち、これからは情報発信とフィードバックで自分をアップデートしていきたいです」
シニアエンジニアが勝ち残るには「経験そのものが希少価値になる市場」にいかに入り込むかが重要であるようだ。そのためにはまず自分の強みを改めて捉え直すこと。そして市場マッチングを追求し続けることが人生を勝ち抜くポイントといえそうだ。
【調査出典】
モロ「求人と年齢に関する実態調査」
取材・文/石原亜香利
なんかモヤモヤする。それは「価値観の押しつけ」社会の中で生きているから感じることだという。 人間関係のモヤモヤは、ほぼ立場のマウントであると言われる。他人と自分…




DIME MAGAZINE


















