良かれと思っていた「いつでも相談して」という上司の声がけ。実はこれが部下の自律的な成長を阻み、マネジメントコストを増大させる落とし穴になる可能性があります。本記事では識学の視点から、頼られる上司ほど陥りやすい罠を解明し、部下が自ら考えて動く「自走するチーム」をつくるためのマネジメント法を解説します。
良かれと思っていた「いつでも声をかけて」という上司の言葉が招く罠
「困ったことがあれば、いつでも、なんでも相談して」
部下やメンバーに向けてこのような温かい言葉をかける上司は多いのではないでしょうか。この声掛けは、チームの雰囲気を重視し、部下の心理的安全性に配慮し、自チームで孤立する部下を生まないための、上司として「100点満点の声がけ」に思えます。事実、そう言われた部下は安心し、その上司へ信頼感を募らせるでしょう。しかし、人の意識と行動の関係から「組織マネジメントの正解」をお伝えしている識学の視点で見ると、この上司の言動には根深い「落とし穴」が隠れていると言わざるを得ません。
良かれと思って開いた上司の「なんでも相談窓口」は、上司自身が自分の存在意義を満たすことができるのは間違いありません。しかし、部下にとっては、上司と部下の距離感を曖昧にし、成長機会を奪うマイナスの作用をもたらすことがあります。特に上司と部下の関係性が非常に良好で、一見円滑に回っているように見えるチームほど、この罠に深くはまり込んでいる可能性があります。
「頼りになる上司」「いつでも何でも聞ける上司」という心地よい響きの裏にあるリスクを識学理論から解明し、部下が「指示待ち集団」から「自律して動くチーム」へと成長するマネジメント法を、以下に解説します。
部下の成長を止める「3つの理由」と「経過介入」の弊害
チーム内での上司の役割は「意思決定やルール設定によって部下の環境を整え、チーム全体の結果の責任を負うこと」、部下の役割は「個々に与えられた役割の責任を果たし、求められた結果を出すこと」です。識学では、組織が機能するためには、上司と部下がそれぞれの「位置」と「役割・責任の境界線」を明確にし、双方が正しく認識していることが不可欠であると考えます。そしてこの「位置」と「役割・責任の境界線」の認識を狂わせてしまうのが、「なんでも相談して」という上司の優しい言葉です。良かれと思って発したその優しい言葉が逆効果になり部下の思考停止を招く具体的な理由は、主に以下の3つに集約されます。
第一に、「自分で考えなくなる」点です。前述の上司の声かけによって、部下は些細なことでもすぐに上司に答えを求めることが「正解である」と考えます。その結果、部下が「自分で課題を見つけ、解決策を考え、乗り越える」という本来ビジネスパーソンが成長するために最も大切な機会を失ってしまいます。
第二に、上司への「依存」を発生させ、上司の業務時間の大半が部下への対応に奪われる点です。上司がすべての部下に対して、部下が求めるタイミングで逐一指示やアドバイスを出さなければならない状態では、部下が増えれば増えるほど管理にかかる時間と労力が大きくなります。
第三に、「上司の介入が部下の言い訳を生む」点です。もちろん、新入社員や中途入社者が知らないであろう社内情報やマニュアル、ルール等は必ず伝える必要があります。しかし、上司がやってはいけないマネジメントは、部下の責任範囲である業務の「経過(やり方・進め方)」に関して細かく確認したり助言を加えたりする「経過への介入」をしてしまうことです。なぜ介入がダメなのか。理由はシンプルで、「部下の言い訳になるから」です。もし上司が経過に口を出し、そのアドバイス通りにやった案件が失敗に終わったとき、部下は「上司の言う通りにしたけれどダメだった」と心の中で言い訳をします。部下の意識上、失敗の原因は自分ではなく上司の指示のせいだと考えてしまうのです。
さらに、日常的にアドバイスや助言をされ続けると、部下はついには自ら質問をしない「指示待ちの状態」になります。その結果、「止まっていれば、上司が適切なタイミングで助けに来てくれる」と考え、動くことをやめてしまいます。この状態では部下は成長できません。
部下を成長させる識学流マネジメント
では部下を成長させるためには、上司はどのようなマネジメントをすべきか。答えは、上司が「部下に良い人と思われたい」のをやめることです。具体的には、識学の理論に基づく以下の三つのルールを徹底することです。
■部下に求める結果(ゴール)と期限を明確にする
上司が部下に求めることは、プロセス(やり方や頑張り)ではなく「結果」です。「いつまでにどういう状態(数値や成果)にすることを求めるのか」というゴールを100%明確に示し、部下との認識を合わせます。核心は、ゴールを達成するための経過(プロセス)の選択や工夫をすべて部下に委ね、その範囲内で必要な権限を与えることです。
■「答え」を与えるのではなく、部下の提案の判断に徹する
部下から相談や報告を受けた際、上司がその場で答えを出してはいけません。「で、あなたはどうすべきだと思いますか?」「何が課題で、どんな改善案がありますか?」と問いかけ、部下自身に思考させます。上司の役割は、部下自身が考えてきた複数の改善案に対して「承認」か「却下」の意思決定を下すことだけです。
■「結果」で管理する
頑張りや途中の経過に細かく口を出すのを一切やめ、設定した目標に対して「達成できたか、できなかったか」の事実のみで評価します。未達成であれば、なぜ届かなかったのか、次はどうするのかというPDCAを部下自身の頭で回させます。
上記の三点を徹底し、「上司は部下に求める結果とその期限を設定したら、プロセスは部下の責任の領域として手を出さずに結果が出るまで見守る」という、健全な位置関係で責任感と緊張感を保つことが重要です。上司の、良かれと思った過剰なアドバイスが、実は部下の緊張感と責任感を奪い、部下の将来の成長可能性の芽を摘んでいることに留意することが求められます。
夏の異動や新体制から始める「自走するチーム」への一歩
「なんでも相談して」という言葉は、一見すると優しさに満ちた素晴らしいメッセージです。しかしマネジメントにおいて、その優しさは時に部下の思考力を奪い、言い訳の余地を与える「毒」に変わってしまいます。経過への細かなアドバイスやプロセス管理によるマイクロマネジメントは、上司の安心感や存在意義を満たすかもしれませんが、部下の自立的な成長を著しく阻害します。
異動や新体制が本格的に動き出すこの夏のタイミングは、チーム内の「ルール」と「管理手法」を再定義する絶好のチャンスです。明日から部下に声をかけるときは、このように変えてみてはいかがでしょうか。
「目指すべきゴールと期限は明確にしたので経過は任せました。」「しかし、困ったときはいつでも相談にのります。その時は、必ずあなたが考えた改善策を持って来ることをルールにします。」
上司の本当の価値は、部下に優しくすることでも、頼られることでもありません。部下を市場で通用する自立した人材に育てることです。部下に経過を任せることは、放任ではなく、部下の可能性を信じるマネジメントです。あえて上司が「答えを与えない」という勇気を持つことこそが、自分で動き、成果を上げ続ける部下を育成する手段です。ひいては強い組織をつくるための正しいマネジメントの第一歩です。
文/識学コンサルタント 安藤利久
じつは重要!甘やかしとは区別をして成果を追求する「心理的安全性」を再定義することの必要性
「甘やかしたら良い結果は出ない、成長しない」と考える事ありますよね。スポーツで、子供の勉強で、ビジネスで、あらゆる局面で甘やかすことは成長に繋がらないと幅広く認…




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