中東問題により原油価格が高騰し、日本人一人ひとりの生活に影響が出ている。原油から生産される重油などでお湯を温めている銭湯・温泉施設・宿は大打撃を受け、休業に至るケースも全国各地で起きている。
そこで今注目されているのは、太陽、風、水、地熱などから生み出される「自然エネルギー」を活用した施設。開業以来、施設内で生み出した自然エネルギーを中心に使用している温泉宿が星野リゾートの「星のや軽井沢」だ。重油などの化石燃料に依存しない方法を、軽井沢ファシリティマネジメントユニット・エキスパート職の阿部千尋さんに伺った。
水力発電とヒートポンプで自然エネルギーを活用する、サステナブルな「星のや軽井沢」
星のや軽井沢は「環境への負荷を最小限に抑えるエコロジカルなリゾート」を目指し2005年に開業。自ら使うエネルギーはできるだけ自分たちで生産するという「EIMY(エイミー:Energy In My Yard)」の考えに基づき、「水力発電」と「ヒートポンプ」によって施設内でエネルギーを生み出している。阿部さんいわく、EIMYは「エネルギーの地産地消」だ。
歴史を紐解くと、実は水力発電は星のや軽井沢の前身となる星野温泉旅館時代の約100年前から行われている。ただ、当時は灯油など化石燃料も使用。そして星のや軽井沢が開業した2005年にはほとんどのエネルギー消費を「電気」に移行した(一部調理ユニットのみガスを使用)。星のや軽井沢は全77室と決して小さくはない施設だが、施設全体が消費するエネルギーの約7割(約68% 2017年時点)を施設内で生み出している。
別の場所で生み出される自然エネルギーを購入し、施設で使う方法もある。しかし、利用する施設内で生み出した自然エネルギーをその施設で使うことが、最大限自然エネルギーを活用できる方法だという。ちなみに自然エネルギーは発電時にCO2をほとんど発生しないため、環境に配慮したエネルギーでもある。
阿部さん「ある火力発電所で、100のエネルギーを投入して電気を生み出したとします。しかしそこから送電し、各施設に届く間には35~40まで減ってしまうとされています。しかし、我々が施設内で発電すると、99.5前後は使用できる、というイメージですね」
EIMYを実践するにあたり、星のや軽井沢が導入したのが「ヒートポンプ」。「地中熱」と「温泉排湯熱」を利用して水の温度を上げ、熱エネルギーを回収するという仕組みだ。この「地中熱」と「温泉排湯熱」は電気に変換するのではなく、「熱」のまま利用しているという。
阿部さん「地中熱を利用したヒートポンプは、地上から冷たい水を地下に送り、地中の熱を吸収し、地上へと戻ってきた水を熱源として活用する仕組みです。簡単に言うと、20度の水を、おおよそ60度前後にまで温度を上げる能力を持っています。また、星のや軽井沢では源泉掛け流しの温泉を提供しており、その排湯熱もヒートポンプシステムによって新たな熱エネルギーに生まれ変わっています。
ちなみにお湯を作ると、同時に冷水もできるので、そちらは夏場の冷房にも活用しています。星のや軽井沢は活火山の浅間山が近くにあり、その地理的な有利点を活かしています」
それでは、温泉が湧き出るような自然豊かな場所だけしか、ヒートポンプは使えないのかと尋ねると、そうではないと阿部さん。「都心でも地中熱を有効活用している施設も結構あるんですよ」という。さらに、地中熱以外にもさまざまな「熱」が、有効活用できるようだ。
阿部さん「洗い場から発生する、排水から回収した熱も利用できると思います。また、夏の冷房運転期間については、その排熱も有効活用できるのではないでしょうか。意外かもしれませんが『冷やすところに排熱あり』。星のや軽井沢では、冷房運転にて発生する温排熱でお湯を作って利用しています。ちなみにドイツでは大規模なデータセンターで生じる排熱の有効利用が義務付けられています。サーバーから多量の熱が発生するデータセンターと、この熱を利用できる温浴施設は相性抜群かもしれません」
補助事業も活用。ヒートポンプの投資費用は約2.5年で回収
水力発電は大規模な施設が必要で、莫大なコストが必要となり、取り入れられる施設はほとんどないだろう。しかしヒートポンプであれば「ハードルは低いのでは」と、阿部さんは話す。各自治体の補助事業などを利用するのも一つの手段だ。
阿部さん「水力発電と比べた場合、ヒートポンプは圧倒的にコストを抑えられます。脱炭素社会の実現のために各自治体が補助事業もおこなっていて、2005年当時、私たちも活用しました。その結果、約2.5年でヒートポンプシステム導入に対する投資費用を回収できましたね」
当時、ヒートポンプなどの設備設計を担当したのは、現在企画開発グループに在籍している松沢隆志さん。その後も2021年より稼働を開始した星のや竹富島の「海水淡水化熱源給湯ヒートポンプユニット」など、各地で自然エネルギーを活用した取り組みを行なっている。
海水淡水化熱源給湯ヒートポンプユニットは「海水の淡水化」、「太陽光発電」、「ヒートポンプ」の3つの役割を担うマルチな設備。エネルギーの地産地消とともにプラスチックの削減もでき、500mLのペットボトルを年間で約1万4000本削減、CO2排出量は年間約35トンの削減を実現した。
阿部さん「導入前は、飲用水を島外からペットボトルで持ち込んでいました。 現在は星のや竹富島で飲用水を冷やす際に発生した温廃熱を、ヒートポンプを介してお湯を作り、利用しています」
自然エネルギーを活用し、エネルギーの地産地消を実践している「星のや軽井沢」。施設内にエネルギーを有効活用する仕組みを設けていれば、中東情勢などの外的要因に左右されにくく、持続可能な運営に繋がる。ネックは初期費用だが、星のや軽井沢のように国や地方公共団体による補助金を受けたり、もしくはクラウドファウンディングを活用したりといった方法もあるだろう。簡単なことではないと思うが、温泉や銭湯はその地域に住む人や旅人にとっての心の癒やし。一個人としても、全国の温泉・銭湯の持続可能な運営を切に願う。
・星のや軽井沢 HP
・星のや軽井沢 | 自然エネルギー活用の紹介「EIMY(Energy in my yard)」YouTube
取材・文/小浜みゆ
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