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発売1年で1億6000万杯突破!ネスレ「ネスカフェ アイスブレンド」が大ヒットした3つの理由

2026.07.17

■連載/ヒット商品開発秘話

暑くなってくるとアイスコーヒーが無性に飲みたくなる人も多いことだろう。家庭で飲む機会も多くなってくるが、美味しいアイスコーヒーが簡単につくれることから現在、ネスレ日本の『ネスカフェ アイスブレンド』が好評を博している。

2025年3月に発売された『ネスカフェ アイスブレンド』は、アイスコーヒーとしての美味しさを追求して開発されたレギュラーソリュブルコーヒー(コーヒー抽出液に丁寧に微粉砕した焙煎コーヒー豆を混ぜ合わせ凍結乾燥させて製造するコーヒー)。『ネスカフェ』フリーズドライコーヒーで最も溶けやすく、冷たい水やミルクにすぐ溶けるのが特徴だ。2026年5月末時点で1億6000万杯が飲まれている。

アイスコーヒー専用として開発されたレギュラーソリュブルコーヒー『ネスカフェ アイスブレンド』。左からネスカフェ アイスブレンド80g、同エコ&システムパック(つめかえパック)95g、同つめかえ用袋50g、同スティックブラック20本入り

水にサッと溶ける機能性とアイスならではの美味しさの両立

開発の背景には、アイスコーヒーの飲用拡大があった。消費者行動研究所の「飲み物調査」によれば、2025年に日本で飲まれたコーヒーの約40%がアイスコーヒーである。飲む機会が多い夏は年々長期化するようになり、暑さも厳しくなり猛暑になってきている。

「こうした状況から、夏は在宅時間が増えることが想像され、気分の切り替えが難しくなってくる人が増えてくることが考えられました」

このように話すのは、飲料事業本部レギュラーソリュブルコーヒー&液体飲料ビジネス部 シニアブランドマネジャーの尾﨑由唯さん。アイスコーヒーの飲用は環境的な要因から、これからも拡大していく可能性が大きいと捉えた。

ネスレ日本
飲料事業本部レギュラーソリュブルコーヒー&液体飲料ビジネス部
シニアブランドマネジャー 尾﨑由唯さん

ただ、レギュラーソリュブルコーヒーやインスタントコーヒーはホットで飲むイメージが強く、アイスコーヒーを飲みたい時に使うものとは想起されづらい。アイスコーヒーの飲用は拡大基調が続いているにもかかわらず、この流れに追従できない現状があった。

そこで同社は、アイス専用のレギュラーソリュブルコーヒーを開発・販売することにした。

ホットで飲むものという固定観念を覆すため、開発では水にサッと溶け、水だけでつくれる機能性と、アイスコーヒーとして美味しく感じられる味わいの追求が必要と同社は考えた。重要なこの2つのポイントを実現するために生かすことにしたのが、スイスにあるネスレ本社のR&Dセンターが持っていたアイデア。このアイデアを発展させ、『ネスカフェ アイスブレンド』の完成を目指すことにした。

アイデアを元に確立した『クリスタルフローズン製法』

スイスのR&Dセンターが持っていたアイデアは、最終的に『クリスタルフローズン製法』へと発展する。『クリスタルフローズン製法』は、淹れたてのコーヒー液を丁寧に凍結し、コーヒー本来の豊かな風味を逃がさずに閉じ込めたもの。凍結乾燥(フリーズドライ)条件の最適化によりコーヒー粉一粒の内部により大きな隙間を形成したことで溶けやすいのが特長だ。元になったアイデアが製造ラインに落とし込まれ製法として実用化されたのは、『クリスタルフローズン製法』が初のことであった。

アイデアレベルのため、製造ラインに落とし込んでも最初から安定してつくれるわけではなかった。むしろ、従来の商品開発より難航した。

「『ネスカフェ』は1960年の誕生以降、いろんな商品をつくってきましたので、さまざまな要件を試し続けることができるだけの豊富な知見を有していますが、アイス専用のため従来の商品とは開発の切り口が異なります。溶けやすさとアイスならではの美味しさを理想の形で両立させることができるまで、想像以上の試作を必要としました」

このように振り返る尾﨑さん。試作回数は通常の倍以上に及んだ。製造チームは理想の商品をつくり上げるために、これまで培ってきた知見を活用しただけではなく、スイスから技術者を呼び寄せあらゆる製造条件をテストしたほどだった。

とくに難関だったといってもよかったのが、味づくりであった。酸味を抑えボディを引き立たせた芯のある味にしつつも、後味はスッキリ軽やかなものをつくるため、ブレンド、焙煎、抽出とさまざまな工程で試行錯誤を繰り返した。

求められたレベルが高かったことから、完成後は製造チームから尾﨑さんに対し「必ずたくさん売ってください」と託されたほど。次は、いかに売っていくかが課題になった。

水に溶ける様子はエンタメになる

レギュラーソリュブルコーヒーやインスタントコーヒーは、一度気に入ったブランドが指名買いされる傾向が強く、新ブランドが発売初年度から多くのユーザーを獲得するのは難しい。一杯飲んで口に合わなくてもなくなるまで飲み続けなければならないことから、ユーザーが冒険を好まないためだ。

こういう市場環境の中、発売初年度の目標は通常よりかなり高い1億杯。それでも2025年内に達成した。尾﨑さんは次のように話す。

「アイスコーヒーの飲用が拡大を続けていますので、この機会を逃すことなく初年度からヒットさせるため、非常に高い目標を設定することにしました」

しかし、商品には自信があったものの、尾﨑さんは発売前に「売れなかったらどうしよう?」と悩み、眠れない日々を送ったという。難しい市場向けに一見無謀とも思える目標を設定したのは、達成できれば社の内外でヒット商品として認めてもらえると考えたからであった。

また、同社としては『ネスカフェ』ブランドの既存品の売上が減ることも避けたかった。できるだけカニバリを起こすことなく新たなユーザーを獲得することが求められた。

そのため販促は、アイス飲用が多い若年層を意識して展開。水にサッと溶ける様子をテレビCMやSNSでのデジタル広告で見せるようにしたほか、インフルエンサーにつくる実演をしてもらいSNSに投稿してもらうことをした。

水を注いだ透明なグラスにコーヒー粉を投入すると、はらはらと溶けていくが、この溶けていく様子がテレビCMやデジタル広告を見た視聴者からの反響が最も大きいところだった。尾﨑さんは次のように明かす。

「コーヒーが溶けていく様子に『リラックスする』『理科の実験みたいで面白い』といった反応がありました。フリーズドライタイプのコーヒーは水に溶けにくいことが知られていますので、溶けないものが溶けることに驚かれます。完成前の溶けるところが面白いと捉えられたことは、今後の施策の大きなヒントにもなりました」

『ネスカフェ アイスブレンド』が水に溶けていく様子。レギュラーソリュブルコーヒーやインスタントコーヒー同様、凍結乾燥させて製造するが、従来のものとは異なり水に溶けやすい。水に入れるだけでかき混ぜなくても自然と溶けていく

また、2026年に3月にボトルコーヒーと濃縮ポーションを追加し、ラインアップを拡大した。両方とも、もともとは『ネスカフェ ゴールドブレンド』で販売されていたものだったが、『ネスカフェ アイスブレンド』のタッチポイントを増やし認知を拡大する目的からラインアップに加えることとし、中身も刷新。『ネスカフェ』ブランドのアイスコーヒーといえば『ネスカフェ アイスブレンド』という位置づけをより鮮明に打ち出した。

2026年3月に発売された『ネスカフェ アイスブレンド ボトルコーヒー』。キャップを開けるだけですぐに飲める手軽さに加え、すっきりとした味わいと香りの余韻が楽しめる点が特長。900mlの大容量で、[甘さひかえめ]と[無糖]の2種を揃えている
同じく2026年3月に発売された『ネスカフェ アイスブレンド ポーション』。1杯分ずつコンパクトな容器(ポーション)に収められ、牛乳で割るだけで香り高くすっきりとしたコーヒー感のアイスラテが簡単につくれる。水・豆乳・低脂肪乳で割ったアレンジも楽しめる。[甘さひかえめ]と[無糖]の2種を用意

アパートの住人がアレンジを提案

水に溶ける様子がエンタメになるというところから企画・実施された販促施策が、2026年4月26日~5月6日にかけて東京で実施された屋外イベント『NESCAFÉ APARTMENT #隣人と溶けるアイスコーヒー』であった。会場にアパートの一室を模した4つの部屋(101号室~104号室)が登場し、冷たい水にもサッと溶ける特長を、さまざまな暮らしのシーンに重ねて体験できるようにした。

『NESCAFÉ APARTMENT #隣人と溶けるアイスコーヒー』の会場風景。2026年4月28日(火)から5月6日(水)の間、新宿サザンテラス広場(東京都渋谷区)で開催された

「溶けやすさをエンタメ化してお伝えし、気分転換になったりお家時間が楽しくなったりすることにつなげていけたらいいなと思い、自分事に置き換えてイメージしていただけるよう、隣人の家にお邪魔してコーヒーを味わってもらう場をつくることにしました」

イベントの企画趣旨をこのように明かす尾﨑さん。コンセプトが異なる4つの部屋をつくり、各部屋の住人が『ネスカフェ アイスブレンド』を使ったアレンジコーヒーをつくり紹介。会場内に設けられたフリー試飲スペースで、自ら水にコーヒーを溶かす実演をしてもらう機会もつくった。

「実際につくってもらうことでコーヒーが溶ける様子に驚いてもらうことももちろんですが、これだけにとどまらずアレンジできることやいろんな楽しみ方ができることも知っていただきたかったです」と尾﨑さん。メニューに合う部屋をつくり、飲んでいそうな人物を住人にすることで、自分事として捉えてくれるようにした。尾﨑さんが会場を見た限りでは、「かんたん映えラテ」をつくる101号室の人気が高かった。

101号室の室内と住んでいそうなイメージの住人
101号室でつくられた「かんたん映えラテ」。

取材からわかった『ネスカフェ アイスブレンド』のヒット要因

1.手軽さと美味しさの両立

家庭でアイスコーヒーをつくる際、つくり方によっては時間がかかったり簡単にできたともして味わいが損なわれてしまったりするところがあった。手軽さと美味しさが両立しにくかったが、アイス専用のレギュラーソリュブルコーヒーを開発することで、手軽さと美味しさを両立。従来なかった選択肢を生活者に提示することができた。

2.コーヒー完成前に付加価値を持たせられた

水を注いだ透明なグラスにコーヒ粉を入れると、はらはらと溶けていく様子が確認でき、その様子が見る者に驚きをもたらす。エンタメとして楽しめるほどで、従来のレギュラーソリュブルコーヒーでは提供できなかった価値をコーヒー完成前に示すことができた。

3.新たな顧客層開拓に成功

販促ではアイスコーヒーの飲用が多い若年層に向けて重点的に訴求したことが奏功。従来の『ネスカフェ』ユーザーの中心は中高年層であることから、ブランド内でカニバリを起こさず新たな顧客層を開拓した。

実際に使ったことがなくても、イベント、テレビCM、デジタル広告、SNSにアップされた動画などで見かける機会も多いことから、水に入れるだけで溶け本格的なアイスコーヒーが手軽につくれることは浸透してきている。ブラックコーヒーで味わうだけではなくアレンジの提案が進めば、ユーザーは今まで以上の勢いで拡大していくだろう。

製品情報
https://nescafe.nestle.jp/icedblend

取材・文/大沢裕司

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Author
月刊誌の編集者を経て2005年からフリーランスライターとして活動。以来、企業取材に(ほぼ)特化し、雑誌、ウェブメディアへの寄稿のほか、ブックライティングも手掛ける。主な取材テーマはものづくり関すること全般と中小企業の経営。著書に『高すぎ! 安すぎ!? モノの値段事典』(ポプラ社)、『バカ売れ法則大全』(共著、SBクリエイティブ)などがある。

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