こんにちは。弁護士の林 孝匡です。宇宙イチわかりやすい法律解説を目指しています。
今回はセクハラ事件です。
高卒で入社してまだ1年目の女性へのセクハラです。
上司は、信じがたい言葉を浴びせました。
「処女に見えるけど処女じゃないでしょう」
「店舗にいる男の人と何人ヤッたんだ」
「頭がおかしいんじゃないの」
「エイズ検査を受けた方がいいんじゃないか」
裁判所が認めた慰謝料額は!?
(東京セクハラ<T菓子店>事件:東京高裁 H20.9.10)
※ 実際の判決を基に構成
※ 判決の本質を損なわないようフランクな会話に変換
※ 争いを一部抜粋して簡略化
登場人物
▼ 会社
・和菓子の販売などを行う会社
▼ Xさん
・女性(高卒の1年目・19歳くらい)
・お菓子づくりが好き
・洋菓子売場で勤務
▼ セクハラ発言をした店長
・Xさんの直属の上司
どんな事件か
店長がどんな人かを少し。
営業成績はトップクラス。むちゃくちゃ仕事ができる人だったのでしょう。
高校時代は陸上部。従業員にこんな思い出話をしていました。
「記録が落ちるとコーチから『土手に顔だけ出して埋めてやる、顔に小便をかけるぞ』と言われていたんだ。歯を食いしばって頑張っていた」と話していました。
……だからキミたちも頑張れってことなのかな。
こういうタイプあるあるなんですが、部下への指導が度を超えてしまいます。
順番に見ていきます。
店長の発言
店長は、Xさんの勤務態度に不満を持っていました。「他の従業員とのムダ話が多い」「たんに勤務時間が過ぎればいいという感覚で仕事をしているな」などの不満を持っていました。
▼ 昨夜、遊びすぎたんじゃないの
店長は、Xさんの仕事ぶりを見て力が入っていないと感じたのでしょう。「昨夜、遊びすぎたんじゃないの」と小言をいい、仕事をするよう注意しました。
▼ 頭がおかしいんじゃないの
クリスマス近くの繁忙期のころ。お客さんが殺到しているときのXさんの仕事ぶりが悪かったと感じ「頭がおかしいんじゃないの」と言いました。
―― 裁判所さん、この発言はどうですか?
地方裁判所
「NGではないですね。適切とまではいい難い部分があるものの、このような言葉でXさんを叱責注意したことが、直ちにXに対して損害賠償義務を発生させるような言動であるとは認め難い」
(高裁は「NGだ」とひっくり返しました。あとで解説)
▼ エイズ検査
店長はXさんに「僕はエイズ検査を受けたことがあるから、Xさんもエイズ検査を受けた方がいいんじゃないか」と言いました。
―― 裁判所さん、これヤバイでしょ?
地方裁判所
「NGではないですね」
―― Why!?
地方裁判所
「従業員の娘さんがエイズをテーマにしたテレビ番組に俳優として出演していたから出た発言でもあり、職場での雑談の域を出ないからです」
―― 雑談で済まされるんですかね!高等裁判所さん、なんか言ってやってくださいよ!
高等裁判所
「雑談で済まされないですね。違法です。上の発言を全体的にみると、Xさんが強圧的なものとして受け止め、または性的な行動を揶揄し又は非難するものと受け止めるでしょ。なので許容される限度を超えて違法です」
▼ 処女じゃないでしょう
店長はXさんに「処女に見えるけど処女じゃないでしょう」と言いました。
▼ 飲み会での発言
店長は飲み会中にXさんに以下の発言をしました。
「店舗にいる男の人と何人ヤッたんだ」
「何かあったんじゃない?キスされたんでしょ?」
「俺にはわかる、知ってる」
Xさんは泣き出し、他の従業員が店長の発言を止めました。
―― 裁判所さん、鉄槌をお願いします
地方裁判所
「セーフです。発言の内容や態様が適切なものであったとまでは言えない部分があるとしても、酒席におけるAの上記発言が直ちにXに対する損害賠償義務を生じさせるような違法性を帯びるものであるとまでは認め難い」
―― ウソやろ……。高等裁判所さん、何とか言ってやってください!
高等裁判所
「アウツです。こんな発言をする必要性は全く認められない。これらの発言はただXさんの人格を落としめ、性的に辱めるだけのものだ。他の従業員もいる場所で発言されておりXさんの名誉を害する。違法だ!」
■ 補足
セクハラじゃないと判断した地方裁判所は、証言などを聞いて「飲み会の雰囲気は悪くなかったじゃん」ってことも1つの理由に挙げてますね。「だから違法発言とまでは言えない」と。いやいや、女性はセクハラ発言が出ても場の空気を読むっつーの。露骨に嫌がるような表情は見せないっつーの、って話ですよね。
▼ シャドーボクシング
なんやコイツ!
店長はXさんにシャドーボクシングの真似ごとをしました。2次会のカラオケボックスで部屋が空くまでの間に。
地方裁判所は特に判断せず。
―― 高裁さん、コレうっとおしいですよね?違法ですよね?
高裁
「うっとおしいかはさておき、極めて不適切な行動です」
慰謝料をハジき出すときの材料になってると思います。
ほんで、なんぼ?
高裁は、会社に以下の賠償を命じました。
慰謝料 50万円
逸失利益 約99万円(6か月は休業せざるを得なかった)
弁護士費用 20万円
裁判ガチャ
セクハラ裁判って【裁判ガチャ】になる可能性が高いんです。なぜなら「この発言、女性が嫌がるだろうか?」は裁判官によって受け止め方が違うので。
ここはコントロールのしようがありません。コントロールできることは【1つでも多くの証拠を確保する】ことです。セクハラ上司が参加する飲み会には常時録音で臨みましょう。
相談するところ
セクハラの証拠さえ押さえれば、労働局でも損害賠償請求できます(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな~」があれば下記URLからポストしてください。また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
「ムズイ法律を、おもしろく」をモットーにコンテンツを作成している弁護士
YouTube:https://www.youtube.com/@saiban_LABO
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