ジャパネットホールディングスが、家電メーカー・ツインバードに対して公開買い付け(TOB)をすると発表しました。1株800円での買い付けで、発表前の株価391円の2倍以上。全株の取得で87億円となる計算です。
家電量販店大手ノジマが日立製作所の家電事業を買収すると発表していますが、家電業界の垂直統合による再編が進んでいます。生き残りをかけて激しく争う様子が見えてきます。
ワクチン運搬用の冷凍庫で一躍知名度を高めた
ツインバードは新潟県燕市にある家電メーカーで、冷蔵庫や掃除機、コーヒーメーカーなどを製造しています。特にアイデア家電に強みを持つ会社で、頭皮洗浄の「モミダッシュ」やイヤホンをせずに音が聴ける「着るラジオ」など、大手メーカーとは一味違う商品を開発する会社としてよく知られています。コロナ禍では、業務用のワクチン運搬用冷凍庫が注目されました。
この冷凍庫にはスターリング冷凍機という技術が使われています。ヘリウムガスの吸熱反応を利用したもので、高い部品精度が要求されるために量産化は難しいとされていました。ツインバードは得意の金属加工技術を応用して量産化に成功。依頼を受けた厚生労働省や武田薬品工業に必要な数を提供しました。
しかし、近年は業績が低迷気味。2期連続で最終赤字となりました。採算性が悪化した家庭用冷蔵庫や洗濯機事業の縮小を決定。製品や部材の廃棄費用や棚卸資産の評価損を計上したため、2026年2月期は12億円を超える赤字を出しています。
冷蔵庫や洗濯機は特に競争が激しくなっている分野。背景の一つにあるのが、PB商品の台頭です。
家具大手のニトリは、ドラム式洗濯乾燥機を発売。容量10㎏で十分な機能を併せ持ち、10万円を切る価格設定は業界を驚かせました。そして、これに呼応するように家電量販店のヤマダが10万円台の商品を売り出したのです。
ツインバードは売上高が100億円規模の中堅企業。大手の価格競争に巻き込まれれば、収益性が悪化しかねません。そして、事業の縮小や撤退を進めれば技術力が失われることにもなるでしょう。
ツインバードは消費者向けの家電開発から、ホテルや医療機関、美容室向けへとシフトする方針を示しています。
ターゲットが明確で商品開発がしやすいジャパネット
ジャパネットはツインバードを買収することにより、SPA化を進めようとしています。SPAとは、商品の企画から製造、販売までを小売業者が一貫して手掛けるビジネスモデル。ユニクロやニトリが得意としています。
ジャパネットはすでに外部のメーカーと協力し、独自の商品開発を進めていました。累計販売台数が245万台を超えたジャパネットのヒット商品である日立のスティッククリーナーは、掃除機の軽さと吸引力という、相反する要素を両方取り入れたもの。ジャパネットがメーカーに強く働きかけて商品化に成功しています。
一方、このようなOEMモデルは商品の原型が決まっているため、顧客の声を十分に活かしきることができません。ジャパネットは長崎県長崎市に「ジャパレクラボ」という体験型の実店舗を設けています。ここで顧客は商品を試して購入することができますが、顧客の声を拾い上げるという重要な役割も担っているのです。
ジャパネットの強みは、年間数百万とも言われる「生の声」を開発やマーケティングに生かしているところ。アイデア家電の開発や金属加工に優れた技術を持つツインバードとは相性が良いと言えるのです。
また、ジャパネットは強固な顧客基盤を持っているという特徴もあります。家電量販店やECショップの場合、どうしても価格競争に陥ってしまいます。ジャパネットは数多くの会員を抱えているうえ、平均年齢が70歳とシニア層が中心。ターゲットが明確なために商品開発で重視するポイントを絞りやすく、付加価値をのせやすいという特徴もあります。
家電業界の新たな戦いの火ぶたが切って落とされる
家電量販店のPB競争は激化する様相を呈しています。
大胆な動きを見せたのが、ノジマによる日立家電部門の買収。ノジマは買収しても日立ブランドは残すとしています。一方、傘下に収めたことでPB商品開発に日立の技術を取り込むものと見られています。
ノジマはもともとコンサルティング型の接客手法に強みを持っており、顧客への提案力が強い会社。消費者の声を現場で拾い上げ、それをPBや日立家電にフィードバックする体制がとれれば、総合的な強さを獲得することができるでしょう。
ヤマダはエディオンとの経営統合を発表していますが、これによって両社のPB部門が活発化する可能性が高まりました。エディオンは「イーアングル」というアイデアやデザイン重視の家電を開発しています。洗濯機や冷蔵庫、テレビなど多種多様な商品を開発しているヤマダのPBブランドに新たな風を送りこむことになるのです。
ジャパネットのツインバード買収の動きは、家電量販店に新たな競争原理が働いていることを印象づけました。
文/不破聡




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