今年1月、豊洲市場の初競りで、つきじ喜代村すしざんまい(喜代村)が243キロのまぐろを史上最高額となる5億1030万円で落札して話題になった。円安や燃料高騰の影響もあり、まぐろの値段は年々上がっている。
まぐろは日本人の嗜好に合い、年齢や性別を問わず、多くの人に支持される魚で、成城石井(本社横浜市西区、代表取締役社長後藤勝基氏)の鮮魚カテゴリーの中でも高い人気を誇る。一方、近年はまぐろの価格が高騰していて、おいしいものを食べたいけれど高くて食べられない……そんな消費者の悩みを企業努力で解消してくれた成城石井の「鮮度革命」の取り組みを紹介しよう。
複雑なまぐろの流通を見直して美味しく手に取りやすい価格で
成城石井は沖縄県産の生まぐろを一度も冷凍せず空輸し、4月から首都圏の一部店舗で販売している。6月からは養殖生本マグロの本格販売もスタートしている。沖縄県のまぐろ仲卸会社坂下水産(沖縄県糸満市、代表取締役當山清範氏)とJALグループの協力により、現地加工した生まぐろを空輸し、パック包装後24時間以内に店頭で販売する。
成城石井 執行役員 広報管掌の五十嵐隆さんは「地産地消が叫ばれている中、遠いところからどうやって(生の魚を)もってくるのかなど、難しい点は多くて、従来のやり方ではありえないことばかりでした。それでも私どもでは『美味しいものを手軽な価格で消費者にお届けしたい』という気持ちで取り組みました」と多くの困難を伴ったと振り返る。
一般的なまぐろの流通において、漁獲されたまぐろはまず市場へ行き、仲卸が競りで買い付けたものが小売りへ行き、そこから小売各社が加工して売場へと流れている。水揚げ後、店舗に行くまでに時間が掛かり、複数社が関わってくるためトレーサビリティの確保が難しい。
特に鮮魚の輸送には氷や水が必須で、空輸が難しい。また、まぐろなど魚は身を切ってみないと品質や鮮度などの状態がわからない。成城石井では沖縄県内で魚の加工を手掛けている坂下水産と、輸送を担当したJALグループとともに、一つずつ課題をクリアしていった。
重量負担となる水や氷は使わずに、保冷機能付きのコンテナで輸送し、さらにまぐろは輸送前に切り身やサクなど店頭で販売しやすく加工した。頭や尻尾などの余分な部分は切り落としているため、輸送するまぐろの重量は一本丸ごとのまぐろと比較して約35%程度にまで軽く抑えることができたのも、物流コスト削減につながった。さらにまぐろはパックを詰め替えるだけで店頭に出せる商品もあるため、店舗での負担も削減させている。
「お金を掛ければ日本全国、どこからでも食材を持ってくることは可能です。しかし、私どもはスーパーマーケットとして、お客様の日常の食卓とつながっています。美味しくても、適当な価格でなければならない。その点は難しかった」と五十嵐さんは言う。
なぜ沖縄のまぐろなのか
成城石井 商品本部 商品部 鮮魚課 チーフの中村瞬さんはなぜ沖縄のまぐろに目を付けたのか、生まぐろ販売プロジェクトの背景について解説してくれた。中村さんは「沖縄県とまぐろを結び付けてイメージできる人は、少ないかもしれませんね」と言う。
「まぐろの産地は、大間のまぐろなどの青森県や、気仙沼の宮城県、和歌山県が有名ですが、実は沖縄県は生鮮まぐろの水揚げ量が全国3位と、たくさん水揚げされています。まぐろは暖かい海を好み、成長スピードが速い魚ですが、沖縄県は年間を通じて水温変化が少ないので水揚げ量が多いのです」(中村さん)。
「大間のまぐろなどに比べると沖縄のまぐろは脂はひかえめですが、もっちりとして、特に赤身がうま味として感じられます。現地は漁場と港が近いので流通までにかかる時間が短く、鮮度の高いまぐろが水揚げされていることから沖縄のまぐろに着目しました」。
「私も現地に行って食べた時、これまで感じたことのないもっちりした食感を強く感じました。首都圏で知られていない理由は、五十嵐も述べた通り、物流の問題と、鮮度を維持したまま流通させるのが難しく、これまではほぼ県内で消費されているからなのです」(中村さん)
まぐろは、海から釣った直後は死後硬直するため、噛み切れないほど固くて、うま味がない。一定時間、熟成させる必要があり、これを見極めるのも難しい。食べ頃となるタイミングで切り身に加工できるのは、坂下水産が培ってきたノウハウだった。
美味しさを確保するための企業努力
中村さんは事業推進本部 新規事業室 次長の水野翔太さんとともに現地を訪れ、通年通して生まぐろの味わいを確かめにいった。沖縄県ではホンマグロ(クロマグロ)、キハダマグロ、メバチマグロ、ビンチョウマグロの4種類が漁獲されている。これらのまぐろが一年中安定して獲れるため一年中美味しいまぐろを食べることができる。
「鮮度や状態が年間を通して安定しているか、春夏秋冬あわせて合計5回、沖縄に行って味や鮮度を確認しましたが、一年中、お客様に自信をもってお勧めできる味と鮮度を確認できました」と中村さん。
坂下水産とはまぐろをおろした状態だけでなく、サクやブツ切りなど、どうやったらより美味しさを確保できるか、魚の加工についても共同で研究を重ねた。さらに中村さんは、空輸した生まぐろを効率よく店頭に並べるための効率化も実現できるような工夫も重ねたと言う。また、空輸した生まぐろは4日経っても血などのドリップは出なかった。
今月からは養殖の生本まぐろが新登場
6月からは沖縄県本部町の養殖場で飼育された養殖本まぐろを販売している。天然に近いまぐろが育つように餌の9割以上をイワシやサバなどの生餌を与え、水揚げの際はまぐろにダメージやストレスを与えないように一本釣りしている。さらに釣った後は電気ショック・神経締め・内臓処理を施し、3分以内に魚を冷やし込みすることで、鮮度を保っている。
坂下水産の現地工場で頭や尾などを落とし、塊として梱包。空輸し、梱包後、24時間以内に成城石井の首都圏の一部店舗に運んでいる。本まぐろは赤身や大トロなど、部位によって好みが分かれるため、店頭では自由に選べる形にして商品化している。
成城石井では生まぐろは定番商品として通常販売し、養殖本まぐろは週末など特別なイベント開催時を中心に販売する計画である。気になる価格は、刺身用天然生まぐろで100g当971円、生食用まぐろたたきが100g当604円、天然ビンチョウまぐろ使用のまぐろポキは100g当539円。また、きはだとめばちの漬け握りは1パック1610円で販売する。店舗では現在、売り切れが相次ぎ、なかなか購入できないという声がXにあがっているが、店頭で「天然生まぐろ」のPOPを見かけたらぜひお勧めしたい。
成城石井では自社で輸入しているワインにも定評がある。特に今回の生まぐろは白ワインだけでなく、強い味わいが赤のピノノワールにもよく合う。暑くなるこれからはスパークリングワインを冷やして、天然生まぐろの強い味わいに酔ってみては?
文/柿川鮎子
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