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競合企業のデザイナーが「こけし」で共創。ソニーと富士フイルムが挑んだインハウスデザインの可能性

2026.07.09

企業のインハウスデザイナーといえば、自社製品やサービスのデザインを担う存在というイメージが強い。しかし、その専門性を企業の枠を超えて社会課題の解決へ生かそうという新たな試みが始まった。電通は、インハウスデザイナーの力を生かし、社会課題の解決に貢献するプロジェクト「IN-HOUSE→SOCIAL DESIGN UNIT」を発足。

その第一弾としてソニーと富士フイルムのインハウスデザイナーが日本の伝統工芸「こけし」の再解釈に挑んだ。日頃手がけている製品とは全く異なる領域である「こけし」と向き合い、インハウスデザイナーが「こけし」の新たな可能性を追求した。

企画展「ソニーと富士フイルムのデザイナーがうみだした、まだ誰も見たことのないこけしたち」が開催

6月17日から25日、新宿の伊勢丹本店にて企画展「ソニーと富士フイルムのデザイナーがうみだした、まだ誰も見たことのないこけしたち」が開催された。一般的に「こけし」と聞いて思い浮かぶものとは一線を画す「こけし」たちに、通りかかった人々も思わず足を止め、じっくりと作品を眺める姿が見られた。

富士フイルムとソニーが「こけし」でタッグ、インハウスデザイナーの魅力を発掘

この企画に参加したのは、ソニーグループ クリエイティブセンターとソニーデザインコンサルティング(以下、ソニー)と富士フイルムデザインセンターの若手デザイナーたち6名。普段は企業内でプロダクトやサービス、グラフィック、UI /UXなどさまざまな領域でデザイナーを務めるいわゆるインハウスデザイナーたちだ。

ソニーと富士フイルムは、カメラをはじめイメージング分野で競い合う企業だ。その両社の若手デザイナーが一つのテーマに向き合う機会は決して多くない。。その2社を繋ぎ合わせた電通のフューチャークリエイティブリード室の南木隆助さんに話を聞いた。

「インハウスデザイナー(企業で働くデザイナー)は、デザインのプロであると同時に、その企業ならではの技術や思考力を持った人財です。彼らと仕事をすると、『こんなにも面白いデザイナーがいるのか』といつも驚かされます。彼らをもっと世の中に伝えたいという思いを富士フイルムさん、ソニーさんにお声がけをすると、ぜひやってみたいとおっしゃっていただき、「IN-HOUSE→SOCIAL DESIGN UNIT」が発足しました」

株式会社 電通
フューチャークリエイティブリード室
アーキテクト

南木隆助さん

取り組みに賛同した富士フイルムのデザインセンター長・堀切和久さんは次のように話す。

「電通さんから話を聞いた時、とてもワクワクしました。インハウスデザイナーの挑戦という点だけでなく、ソニーさんとタッグを組むということに面白さを感じました。富士フイルムとソニーはもちろんライバル関係ではありますが、適度にライバルで適度にカルチャーが近い、程よい距離感の関係です。デザイナーにとってもいい刺激になりますし、ソニーさんと組むことでクオリティに関しても安心できました」

富士フイルム株式会社
デザインセンター   フェロー

堀切和久さん

ソニーデザインコンサルティングの代表・山田良憲さんも今回の取り組みで、インハウスデザイナーの可能性を広げることができたと話す。

「今回、企業で製品やサービスのデザインを手掛けてきたインハウスデザイナーが伝統や歴史にどこまで寄り添うことができるのかという挑戦でした。こけし制作に協力していただいた桜井こけしさんからは、『富士フイルムさんからはこけしの新たな表現の可能性を見せてもらい、ソニーさんからはこけしの本質や深さを見せてもらった』という言葉をいただきとても嬉しかったです」

ソニーデザインコンサルティング株式会社
代表取締役社長

山田良憲さん

ソニーと富士フイルム、2社のインハウスデザイナーがデザインしたこけしは以下の通り。

装うこけし(ソニーグループ クリエティブセンター 佐藤愛さん作)

纏うこけし(ソニーグループ クリエティブセンター 芹澤大輔さん作)

■灯るこけし(ソニーグループ クリエティブセンター 三島章正さん作)

■江戸切子のこけし(富士フイルム デザインセンター 太田壮さん作)

■金物こけし(切削)(富士フイルム デザインセンター 小林寛さん作)

■紙のこけし(富士フイルム デザインセンター 西村俊亮さん作)

「ソニーのインハウスデザイナーさんがデザインしたこけしはいい意味で『ソニーらしさ』がありますね。ソニーらしさとは”予測不能”。けれど、決してものづくりの文法から外れたものではないんです。そこに美しさを感じます」(富士フイルム・堀切さん)

「富士フイルムのインハウスデザイナーさんたちのこけしは愛嬌がありますね。富士フイルムさんといえば『チェキ』が代表作ですが、プロダクトがこけしににあってもどこか愛嬌やキャラクター性といった面で通ずるところがあります」(ソニー・山田さん)

世界的に見てもレベルの高いインハウスデザイナーの可能性

今回のチャレンジを通して、富士フイルムとソニーは何を得たのか。改めて「IN-HOUSE→SOCIAL DESIGN UNIT」を振り返ってもらった。

「若手のデザイナーにとってはいい経験になったと思います。今回は『こけし』というかなり狭いテーマでの挑戦でした。しかし、モノとその本質を捉えることは普段のデザインと変わりありません。答えがないのがデザインの面白さです。同じこけしでも6者6葉のこけしができたことが何よりその証左です」(富士フイルム・堀切さん)

「日本のインハウスデザインは世界的にもレベルが高いと改めて感じました。ソニーで60年以上、富士フイルムさんも50年以上。ともに半世紀以上の蓄積があります。このユニークな価値はもっと外に発信していきたいですね」(ソニー・山田さん)

「今回は、ふとした出会いをきっかけに、ソニーさん、富士フイルムさん、伊勢丹さんへの自主提案へと発展し、非常に刺激的な取り組みを実現することができました。

インハウスデザイナーは、その企業の思想や技術を深くデザインとして身体化しているユニークな存在です。そうした人たちが企業の枠を越えて出会い、互いの視点やデザイン哲学を掛け合わせることで、まだ見えていない社会との接点や、企業同士だからこそ生まれる深く新しいものづくりの可能性が立ち上がるのではないかと考えています。

今後は参画企業を広げ、インハウスデザイナー同士の掛け合わせによる第二弾も仕掛けていきたいと思っています。

この取り組みを通じて、多くのインハウスデザイナーの方々に、デザインを起点とした交流はもちろん、山田さんや堀切さんのような、企業の枠を越えて出会える師匠や先輩の存在を体感していただきたい。そして、そうした出会いや交流の中から、単独では生まれにくい多くの可能性を育てていきたいと考えています」(電通・南木さん)

ソニーと富士フイルム、それぞれ半世紀以上にわたり培われたデザインの思想は、「こけし」という小さな伝統工芸を通して新たな形で表現された。今回の取り組みは、作品だけでなく、日本のインハウスデザインが持つ奥深さを改めて示したと言えるだろう。インハウスデザイナーの可能性を改めて感じさせる好例と言えるだろう。

取材・文/峯亮佑、撮影/木村圭司

Author
大学卒業後、『週刊ポスト』で週刊誌記者としてキャリアを始める。医療、芸能、政治、社会問題などを担当し現場取材を中心に経験を積む。2023年からは@DIMEで編集者兼ライターを務め、ビジネスからエンタメまで幅広く取材・執筆を行なう。取材・執筆した企画(一例)/「ポケモン超進化論」(「DIME 2023年9・10月合併号」)、「ガンプラ45年の軌跡」(「DIME 2025年9・10月合併号」)

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