東北を中心に全国で相次いでいるクマ被害。山間部だけでなく住宅街への出没もあり、深刻な社会問題となっている。
クマによる被害はなぜ増えた?おさえておきたい「大量出没」の真相
この夏、クマによる人的被害が相次いでいる。実は2023年も秋頃からクマによる人的被害が多く発生して問題になった。 「90年代は地域によっては、絶滅が心配される…
繁殖のピークを迎える6月~7月はクマが活発に動き出す時期。各自治体は電気柵設置や情報共有システムなど積極的にクマ対策に取り組んでいるが、ついに救世主が現れた。
オオカミ形の害獣撃退ロボット「モンスターウルフ」
北海道奈井江町の町工場「太田精器」が開発したオオカミ形の害獣撃退ロボット「モンスターウルフ」。赤外線センサーで近くに動物を感知すると、真っ赤なLEDの眼光を点滅させながら首を左右に動かし、大音量で威嚇するロボットなのだが…
初めて「モンスターウルフ」を見た読者の中には、「そんなバカな」と思う人もいることだろう。
確かに開発当初は専門家からも「ふざけてる、子供だまし」との声が少なくなかったという。
だが、今年はすでに約50件の受注があり、今年6月時点でレンタルも含め、全国で約380台のモンスターウルフが稼働している。
しかも、最初は小馬鹿にしていた農家が、シカやクマに対して予想以上の効果を目の当たりにして即購入したケースや、設置以来クマが全く出なくなったという事例が数多く寄せられているという。
「モンスターウルフ」はマジで救世主になり得る存在なのだ。
今回、開発者である太田精器の太田裕治社長に開発秘話、クマ撃退への思い、究極の獣害撃退装置への挑戦について話を伺った。
――モンスターウルフ開発のきっかけから教えてください
「2008年の洞爺湖サミットを機に、「これからの北海道の機運は環境ビジネスにある」と一念発起し、未経験ながら寒冷地向けのLED照明開発という大きな挑戦に乗り出したのがすべての始まりでした」
「しかしその後、ようやく製品化の目処が立った頃には大手企業や海外メーカーが次々と参入。小さな町工場では太刀打ちできない状況に。。。」
「多額の赤字を抱えて途方に暮れていた頃、地元農家の方からシカなどによる被害を耳にし、我々のものづくりで獣害対策が出来ないかと思ったんです」
――そこからロボット開発に?
「いえ、その時はまだロボットではなく、LEDと大音量を備えた野生動物撃退装置「モンスタービーム」を開発しました」
「知遇を得て、動物の生態に詳しい大学教授から「LEDの強い光を激しく点滅させると不快感を誘発できる」という助言がきっかけです」
かつて開発に力を注ぐも挫折を味わったLEDが、ここで真価を発揮した。
「強烈な光に加え、動物に強い嫌悪感を与えると言われる約18~21Hzの点滅光と大音量の威嚇音を組み合わせることで、動物に対して極めて強い刺激を与えることに成功しました」
実証試験ではクマやシカ、イノシシなどの野生動物が装置に近寄らないなどの効果を確認。
「その後、今度は「野生動物の天敵はオオカミである」とのアドバイスをとある大学教授からいただき、ならば「装置そのものを天敵の姿に模してしまおう」と決断。2016年、ついにモンスターウルフが誕生しました」
LEDによる確かな撃退効果&一目で野生動物に恐怖を与える圧倒的ビジュアル。
日本初のLED野生動物撃退装置「モンスターウルフ」は、大企業との競争に敗れた挫折と悔しさをバネに生まれた。
――「モンスターウルフ」最大のこだわりは?
「それは、野生動物を「慣れさせない」ための緻密な設計と工夫です。まず、20~30メートルの距離に近づいてきた動物の体温を赤外線センサーが感知して起動するだけでなく、センサーの範囲外であっても30分に1度、タイマーで自動起動する隙のない仕組みを構築しています。それと、腰を抜かすほどの威嚇音は最大約90デシベルという車のクラクション並みの大音量で約1~2キロ先まで轟きます」
「一番大事な「慣れ防止」については、動物が本能的に嫌がる天敵の音であるオオカミや犬の鳴き声、銃声、自然界にない人工音、そして人間自身の声など約50種類もの音をランダムに発生させることで、野生動物に記憶させない工夫を施しています」
「もちろん、オオカミのビジュアルもその一つ。動物がオオカミという姿を認識できているかは定かではありませんが、遠くにいても耳をそばだて、「あそこに得体のしれない恐ろしいモノがいる」という防衛本能と忌避行動を刺激し、近づけない空間を作り出せると思っています」
その実力は設置環境にもよるが、たった一台のモンスターウルフで平均して4ヘクタール、最大で11ヘクタールもの広大な土地を守り抜くという。
小さな町工場の技術とプライドと魂がウルフに注ぎ込まれている。
移動可能な「究極の獣害撃退装置」誕生へ
全国からの問い合わせや注文が殺到している「モンスターウルフ」だが、一台一台すべて手作り。丁寧に組み上げているため、1.5日で1台ほどの製造ペースだという。
一定の成果も認められ、認知度も急上昇中。
しかしここで、新たな問題が発生する。
「昨今のクマは山間部だけでなく住宅街にも出没します。確実な撃退が求められる一方で、「モンスターウルフ」の強力な威嚇音は住宅街において騒音問題になりかねないという大きなジレンマを抱えていました」
そこで現在、住宅街でも使える新型ウルフの開発に取り組んでいるという。
「現在二つの革新的なアプローチでシステムの改良・開発を進めています。一つ目は、ピンポイント威嚇を可能にする指向性スピーカーの開発です。周囲への音の拡散を防ぎ、狙った場所へ集中的に威嚇音を放つことができます。直線距離にして約200メートル先までストレートに音が届き、側面や後方への音漏れを極限まで抑える工夫を施しました」
「二つ目は、AIカメラ連携による「騒音」から「警戒アラーム」への価値転換です。クマを検知した瞬間にのみウルフが起動して威嚇音を発すると同時に、その作動信号を防災無線、LINE、メールなどを通じて即座に地域住民へ通知します」
「昨年の実証実験でもクマが逃避する確かな結果を得ており、「今、そこにクマがいる」ことを知らせる、命を守るための「警戒アラーム」へと進化しています。現在量産化に向けた最終調整中です」
さらに進化は止まらない。
年内には持ち運びできる「モンスターウルフミニ」も誕生するという。
「キャンパーや登山者、山林で作業する方々からの切実な声と街中にクマが出没するという昨今の社会問題を受け、昨年末に急遽「モンスターウルフ・ミニ」の試作品を開発いたしました」
「一見すると可愛らしい簡単な装置に見えるかもしれませんが、モンスターウルフの「本物の威嚇音」をそのまま内蔵しているため、「クマ鈴」の代わりとしてお使いいただくのはもちろん、いざという時は「防犯ベル」として機能させることも可能。日常使いできるアイテムとして、今年度末の一般販売を目指しております」
実はモンスターウルフ、2年前に全国的なニュースにもなったクマ被害で大活躍していた。
「北海道標茶町で60頭以上の牛を襲撃した「OSO18」というクマの事例です。被害のあった10キロ四方という広大な放牧地にモンスターウルフを2台導入したところ、ウルフ周辺の牛はクマに全く襲われなかったという事実を、標茶町の役場職員の方から明確に断言していただきました」
その威力と効果には獣害対策のライバル会社も感服し、「今までの獣害対策装置とは次元が違い、全く敵わない」とコメントしたという逸話も。
さらに今年、スズキとNTTドコモがモンスターウルフへの協力を発表した。
固定式だった「モンスターウルフ」にスズキが移動機能、ドコモが通信機能を提供するという。
「移動するモンスターウルフは、私たちが考える「究極の獣害撃退装置」です。日々変化する動物の出没箇所を固定の「点」で守るのではなく、移動による「線」や「面」へと変化させることで、威嚇力の飛躍的な向上と忌避効果範囲の大幅な拡大が見込まれます」
「また、動物がセンサーに感知した方向に追跡・追尾するシステムや、一定の時間になると特定のルートを自律的にパトロールするシステムにより、最も強力な獣害対策の形になると考えています。現在鋭意研究開発を進め、来年度にはシステムの一定の目処が立つと見込んでおります」
苦難を乗り越え、北海道の町工場・太田精器は一躍全国区となった。
今後の目標、挑戦したいこととは?
「モンスターウルフについては、遠隔操縦技術を取り入れることが大きな目標です。モバイル通信やリモート通信を活用できれば、都会で暮らす子どもがパソコンを通じて遠隔操作を行い、地方に住む親の実家の農地を獣害から守ることができるようになります」
「これは単なる機械の進化ではなく、遠隔操作を通じた「新たな雇用創出」であり、地域を守りながら都市と地方を結ぶ画期的なソーシャルツールになると大きな夢を描いています」
「北海道発の獣害対策から派生した新しいビジネスモデルという「ブルーオーシャン」を開拓し、ワクワクするような夢を描きながら、日本全国、そして世界へ向けて果敢に挑戦を続けていきたいと思っています」
取材協力
「モンスターウルフ」HP(株式会社ウルフカムイ)
株式会社太田精器
文/太田ポーシャ







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