唯一無二を創りあげた開発者の「願い」
小嶋はこのミッションを受け取り、しばらく考えこんだ。さらに男性の心理に寄り添い、『ウーノ』ならではの製品にはできないか、と考えたのだ。
そこで彼女は、以前から男性の洗髪に対し持っていた仮説を検証したいと思い至った。
「女性は指の腹を使って頭皮をマッサージするように洗う方が多いんですが、男性は無意識のうちに力任せに洗っているんじゃないか、と思っていたのです」
細井らと共にヒアリングを重ねると、仮説は想像通りだった。ならばガシガシ洗いを受け止め、摩擦から髪や毛根を守りたい。とすると、洗っている最中の指と髪、指と頭皮の間に〝細かい泡のクッション〟を介在させればいい。
だが、壁が立ちはだかっていた。
「泡は皮脂やヘアワックスなどの汚れを取り込むことによって消えてしまいます。しかも男性は女性に比べ皮脂量が多く、そもそも泡が消えやすいんですよ」
彼女は消えにくい泡は作れないかと試作を重ねたが、やはり「これじゃダメ、あれもダメ」と納得できるものにならない。やはり「ガシガシ洗いはやめてください」と啓発していくしかないか……?
しかし小嶋はそれは違うと思い「いっそ洗うたびに後から泡が増えてくるような処方ができればいいのに」と想像した。彼女が印象的な言葉を口にする。
「もちろん『できる』という確信はなく、むしろ『願い』だったと思います。これができたら唯一無二のものになるのに、と──」
ところが、この願いが道を切り開いた。様々な知見を持つ相手に相談し、様々な資料を読み込むうち、汗や皮脂、スタイリング剤などに反応して次々と新たな泡が生成される処方は不可能でないとわかってきたのだ。
小嶋は再び試作を開始した。後から泡ができるだけでなく、泡を細かくし、毛穴まわりの繊細な汚れにもアプローチできるようにしたい。ガシガシ洗いを受け止めるためには、泡の弾力も必要だ。さらに彼女は野心的な試みを加えた。『ウーノ』にはスタイリング剤が多数あるのだから、シャンプーにスタイリングしやすい土台作りの役割も組み込みたい。
「実は開発当初、製品は1種類で進められていました。しかし男性がヘアスタイルを整える際、『ペタッとしやすい』『広がりやすい』という悩みがあることがわかったんです。そこで私たちは、シャンプー後に髪を乾かすだけで根元からボリュームアップできる『ボリューム』タイプと、広がりを抑制し、なめらかでまとまりの良い質感へ導く『スマート』タイプを作ることにしました」
コンセプトは決まった。しかしそれは次なる戦いの始まりでもあった。激戦区の売り場に置いてもらえなければ意味がないのだ。
男は無自覚!?やりがちなガシガシ洗い習慣

でもその習慣変えなくてOK!洗えば洗うほど泡立つ4Dバウンス泡を開発

【1】瞬時に素早く泡立つ泡の速度、【2】豊富な泡を生み出す発泡力、【3】髪一本一本を包み込む繊細で濃密な泡密度、【4】洗浄中も泡がへたらない持続安定性、の4つの特徴を実現。
開発に自信あり!「4Dバウンス泡」で男性の爽快な洗髪に寄り添いました

「良い」だけでは売れない。小売店を動かした立体提案
厳しい市場への参入を見越し、事業企画部の淀川奏太は最初に異例の決断を下した。新商品の情報を開示するのは25年10月の予定で、通常、それまでは社内の営業にも情報は伏せる。しかし彼は2月の段階で、一部の営業を巻き込み、小売店にどう提案するかを考えはじめることとしたのだ。
淀川はまず、開発チームが心血を注いだ商品の魅力をまとめた提案資料を作った。彼なりの自信作だった。しかし営業にプレゼンを行なっても反応が鈍い。彼は画期的な機能を説明するが……。
「皆さん『これで小売店様を説得できるのだろうか』と戸惑いの表情を浮かべていたんですよ」
小売店には小売店の論理があるのだ。新商品を置いてもらうなら、バイヤーは現在売り上げが立っている商品を棚から落とさなければならない。仮に売れ行きも1本あたりの利益の額も同じなら、新商品を入れる意味は薄い。
ここで、淀川の決断が生きた。まだ時間はある。彼は営業と幾度も話し合い、小売店向けのストーリーを組み立てていった。
「今回、若年層のメンズヘアケア市場活性化を図るために、我々は市場が停滞している要因として、男性には製品検討の際に見え隠れする〝髪悩みを指摘されたくない〟インサイトがあることを突き止めました。これらを踏まえ、発売時からテレビCMを含むプロモーションを投下して大きくブランド認知を広げつつ、購買心理を捉えた店頭の見せ方といった競合他社との差別化を意識しました」
売り場の作り方次第で新規買いも期待できるはずだ。
提案の武器はほかにもあった。小売店のデータでは、トリートメントまで買う男性は全体のわずか2割。複数アイテムの使用には限界があった。一方、『ウーノ』はオールインワンだからこそ売り場の棚の無駄を作らない。こうして、ストーリーは深化していった。
課題を共有すれば相手は動く。チームの確かな戦略と絆
小嶋には忘れられないシーンがある。商品を営業にお披露目すると、50代の担当者から声をかけられた。普段、営業は開発に高い基準を求めてくる。しかし、その声は要求や疑問ではなかった。彼は「この業界の人間としてありとあらゆるシャンプーを使ってきたけれど、今回のものが人生で一番でしたよ」と言うではないか。
商品が発売を迎えると、その熱は小売店や消費者にも伝播していった。商品はほとんどのドラッグストアに並び、ECサイトの出荷実績も計画比500%超え。淀川は「新客の獲得はもちろん、停滞気味のメンズヘアケア市場全体の活性化を後押しできた」と話す。これは新商品が「髪」という男の繊細な部分に入り込めたことを意味していた。
シャンプーの市場はすでに成熟していたはずだ。では、このチームはなぜその壁を乗り越えることができたのか? 細井が話す。
「全員の目線をそろえることを意識していました。開発や営業はもちろん、小売店様にも同じ課題感を持っていただければ、同じゴールを目指せるはずなんです」
細井が現在のメンズシャンプー市場の課題点を小嶋に伝えると、彼女は〝ガシガシ洗い〟を味方につけるという進化を実現した。パッケージ作りの際も、この状況を共有したからこそ『スカルプケア!』と大書されたものでなく、スタイリッシュなものとなった。また淀川がバイヤーに小売店側のメリットを伝えきると、多くの店舗が積極的な売り場展開をしてくれ、ついには腰が重かった消費者も動いた。すなわち、課題点を丁寧に共有していけば相手は能動的に「動く」のだ。
また、小嶋と淀川は全力で相手に寄り添った。小嶋はこう話す。
「そもそも男性はスッキリしたいと思ってガシガシ洗っているわけです。そんな中『習慣を変えてください』と言うのは最もハードルが高いことかもしれません。そこで私は『寄り添いたい』と考えました。この結果が、後から泡が増えてくるものはできないか、という発想になったんだと思います」
ユニークな商品設計で市場へ参入!

テレビCMと同時に、2週間にわたって東京JR山手線を広告ジャック。「洗うたび泡が増える」「新概念シャンプー」など商品価値を打ち出し、男たちを小売店のシャンプー売り場へと引き戻した。

34年目にして初のヘアケア洗浄剤市場へ参入。商品理解を深めるために、全国各地の営業メンバーが一同に会して〝実体験も含めた勉強会〟を行なった。
大規模な広告戦略と営業担当の努力で、小売店様にも喜んでいただける提案に!

ファイントゥデイ『ウーノ オールインワンシャンプー』
ヒットをひもとく挑戦者たちの足跡
男たちの悪癖に寄り添い、成熟市場に風穴をあけた「逆転の発想」のプロセスは右の3つ。
POINT 1|「マスになるニッチ」を意識した新市場の創出
POINT 2|男の〝ガシガシ洗い〟に寄り添う商品設計
POINT 3|「10年後どうなる?」が想像できる情緒と機能
取材・文/夏目幸明 撮影/干川 修 編集/髙栁 惠




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