バックオフィスの人件費を半分にできます」。AI導入を支援する会社の営業担当者は、削減額を具体的な数字で示しながら、経営者にそう売り込むらしい。実際、ある企業は人事部門5分の1に縮小。別の現場では、アルバイトが一人また一人と消えていったという。AIに仕事を奪われる〝AI首切り〟の恐怖が、静かに進行している。
AI代替を理由にした人員削減は、まず海外の巨大テック企業から表面化した。報道ベースでは、カスタマーサポートや事務職を中心に、数百人から数千人規模の削減が相次いだという。その波は、もう日本に上陸している。もはや、対岸の火事で済まされない。
ある日突然、机が空になる。「積み上げてきたものを奪われる」恐怖
中堅メーカーに勤める権藤正志さん(仮名・45才)は、所属する人事部が1年で5分の1に縮んだと明かす。
「採用も勤怠も、社員からの問い合わせ対応も、すべてAIのシステムに集約されたんです。10人いた人事部が、気づけば2人。もちろん日本ですから、いきなりクビにはならない。でも、ある人は営業へ、ある人は地方の工場へ異動。早期退職を選んだ先輩もいます。そして私自身、来月から畑違いの部署に移ることが決まりました」
配置転換と退職勧奨。権藤さんは「実質、クビみたいなものですよ」と肩を落とす。
「10年以上この仕事を続けてきて、45才からまったく違う部署で一から覚え直しです。積み上げてきたものをすべて失ってしまった。それに、家族になんて説明すればいいのかわかりません。妻や子供に、『パパの仕事、AIで十分なんだって』とでも言えばいいんですか?」
また都内のコールセンターで派遣として働いていた丸山映見さん(仮名・33才)は、ある日を境に職場の人間が減っていったと話す。
「問い合わせの一次対応に、AIのチャットとボイスボットが入ったんです。最初は『みんなの補助になるから』という説明でした。でも、徐々にバイトの子がいなくなり、入ってから半年後には隣の席だった同じ派遣の子が契約更新されなくて。その次の月は、向かいの人。机が一つずつ片づけられていくのを、黙って見ているしかありませんでした。」
最後は、丸山さんの番だったという。
「上司の社員も気まずそうに『人員削減のためです』って。AIだから、文句を言うこともできない。気づいたら、バイトも派遣も、私を含めて全員いなくなっていました」
雇い止めという名の、事実上のバイト全員解雇だ。
作業時間が6分の1になっても、人件費は減らない理由
なぜ、このようなことが起きてしまっているのか。生成AI学習コミュニティ「SHIFT AI」代表の木内翔大氏はまず、AI導入の営業マンの「人件費半分」という売り文句を、こう切り分ける。
「あの売り文句は、半分本当で半分ミスリードです。『作業時間』の削減と『人件費』の削減が、営業トークの中ですり替えられている。定型・大量・テキスト中心の業務なら、作業時間が5?8割減るのはもう珍しくない。ある海外の大手フィンテックは、カスタマーサポート1件あたりのコストを2年で約4割下げた。AIがおよそ700人分を処理し、人が11分かけていた問い合わせを2分以内で解決していると公表しています。」
ただし、と木内氏は続ける。
「作業時間が6分の1になっても、人件費が6分の1になるわけじゃない。空いた時間を別の価値に再配置できて初めて、コストとして効いてくる。〝削減〟を目的にすると、だいたい失敗します。さっきのフィンテックも、従業員を約5500人から3400人へ4割減らして〝AIが700人を置き換えた〟の象徴になった。でも経営トップが後に『コストを評価軸にしすぎて品質が落ちた、行き過ぎた』と認めて、サポート要員の再雇用に動いている。純粋な首切りで成功した例は、むしろ少ないんです」
しかし、AIによって消える仕事は確かにあるという。
「職種で消えるのではなく、正確にはタスクで消えるが正しい。同じ職種でも、定型タスクは消え、判断タスクは残ります。一次対応のサポート、データ入力、カスタマーサービス。このあたりは真っ先に置き換わるでしょう。逆に残るのは、最終的に責任を取る判断や、信頼関係、そしてAIを使いこなして指揮する側の仕事です」
では、AIを指揮する側に回るにはどうすればいいのか。木内氏の答えはシンプルだ。
「コツは一つだけ。〝使ってみる〟で止めず、〝実装する〟ことです。多くの人は、新しいツールを触って満足して終わる。そうじゃなく、自分の業務で一番時間を食っている定型作業を一つだけ選んで、丸ごとAIに任せきってみる。レポートでも議事録でもいい。一つの業務を最後までAIに乗せきると、〝何を任せられて、何は自分が判断すべきか〟の線引きが体でわかる。この感覚こそが、これからのスキルの本体。ツールは変わっても、この設計力は陳腐化しません」
その先に、価値の上がる領域があるという。
「AIを実務に組み込むAX人材、複数のエージェントを設計し指揮する人、人とAIの役割分担を作り直せる管理職、そして品質と責任を担保する人。最終的に人が責任を取る部分は、むしろ価値が上がります」
職種は関係ない。大切なのは、AIを指揮する側に回れるかどうかだけだ。
【識者プロフ】
木内翔大氏(株式会社SHIFT AI代表)
生成AI学習コミュニティ「SHIFT AI」を運営。利用者数No.1の実績を誇る(GMOリサーチ&AI株式会社調べ)
文/桜井カズキ
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