■連載/ヒット商品開発秘話
近年、アイススラリーが熱中症対策、暑熱環境下での運動後のリカバリーなどから注目されている。アイススラリーは微細な氷が分散したシャーベット状の飲料。飲むと深部体温が下がり体を内側から冷やすことができる。
現在、家で簡単にアイススラリーをつくることができるアイテムが注目を集めている。そのアイテムは、ライフオンプロダクツの『アイススラリーメーカー』。2025年3月に発売されて以来、これまでに2万2000個以上を販売している。
『アイススラリーメーカー』は冷凍庫で冷やした容器(=本体)に冷蔵庫で冷やしておいたジュースやスポーツドリンク、炭酸飲料などの飲み物を注いだ後、付属のスプーンで1~2分間隔で混ぜていけばアイススラリーができる。出来上がりに要する目安時間は5~7分程度。フローズンカクテルやシャーベット状のクールスイーツづくりにも活用できる。
シャーベットメーカーの見せ方を変える
『アイススラリーメーカー』が企画されたのは2024年7月。同月に開催された『猛暑対策展』(主催:一般社団法人日本能率協会)からヒントを得た。開発を担当したプロダクトMDユニット マネージャーの西岡裕二さんは次のように話す。
「夏物の商品は本来、前年の5月や6月あたりから企画を立ち上げるのですが、商品のアイデアを探す一環で『猛暑対策展』に行ったところ、注目されつつあったアイススラリーに関する出展が目に留まったことから、アイススラリーをつくることができるアイテムを企画することにしました」
早速、アイススラリーづくりに生かせるものを探し始めた西岡さん。この過程で見つけたのが、シャーベットメーカーであった。
シャーベットメーカーは、冷凍庫で冷やした容器に冷やした飲み物を注ぐと20分ほどで冷たいシャーベットができるというもの。シャーベットは飲めないが、飲み物とシャーベットの中間のような状態で完成とすればアイススラリーになると発想した。
シャーベットメーカーを用いればアイススラリーがつくれると判断した同社であったが、自社ではシャーベットメーカーを扱ったことがない。既製のシャーベットメーカーを用い、それを『アイススラリーメーカー』として打ち出すことにした。
蓄冷剤が飲み物を徐々に凍らせる
そもそも、なぜ冷やした容器に飲み物を注げばアイススラリーやシャーベットができるのか? 秘密は容器の構造にあった。
パッと見ただけではわからないが、容器は二重構造になっており、間に蓄冷剤が封入されている。容器を冷凍庫に入れると蓄冷剤が凍ることから、十分に冷えた容器に冷えた飲み物を注ぐと、飲み物が外側から内側に向かって徐々に凍っていくというわけだ。
飲み物を注いだ後、何もせずそのままにしておけばシャーベットになるが、好みの固さになるまでの間に時折かき混ぜて内側に張り付いた凍った飲み物を剥がせばアイススラリーになる。スプーンが付属するのも、容器の内側に張り付いた凍った飲み物を剥がしたり凍りつつある飲み物をほぐして飲みやすくしたりするためである。
容器を冷凍庫で冷やす時間は10時間ほど。「正直なところ、『長い』と思わないでもありません」と西岡さんも言うが、早く発売することを優先したことから、元になったシャーベットメーカーの仕様は見直さなかった。
既存のシャーベットメーカーを生かすことにしたのも、早く発売することを優先したためであった。西岡さんは次のように話す。
「ステンレスなどでつくれば、容器を冷やす時間を含めて出来上がる時間を短縮することは可能ですが、熱中症対策からアイススラリーの注目度が高くなりつつあったので、時流を逃さないためにも早く発売することを優先しました。他社に先を越されないためという意味もあります」
元にしたシャーベットメーカーにはスプーンは付属していない。そのため、スプーンについては別途調達することになった。
当初は折りたたみ式のスプーンで考えていたが、内側に張り付いた凍った飲み物を剥がしたりするには強度が足りず折れてしまった。そのため折りたたみ式はやめ、強度のある分厚いものを用意することにした。
シャーベットメーカーは子ども向けのビビッドカラーが多いことから、男性や大人が熱中症対策のために手に取ってもらえるようなカラーリングや化粧箱のデザインを採用することにした。
カラーリングについては、同社の夏物商品でよく使われるピンクとブルーの2色の採用はすぐに決まった。当初はこの2色で展開することを考えていたが、売場でカラフルに見え、選べる楽しさも提供したいということから、映えるカラーとしてイエローを用意することにした。
店頭でアイススラリーをわかりやすく伝える
猛暑対策、熱中症対策という切り口でキッチン家電やキッチン雑貨を売り出した経験が同社にはなかった。そのため、当初はどこまで売れるか未知数だったが、2025年も猛暑だったことから、暑くなってくるにつれ、売れ行きが伸びていった。アイススラリーが家庭でもつくれる目新しさにテレビや雑誌といったメディアが注目し、取り上げてもらう機会に恵まれた。
「レビューを見ると、『テレビで見て購入しました』と仰っていた方が結構いらっしゃいました」と西岡さん。実店舗とECを比較すると前者の方の売れ行きがいいが、テレビで紹介されるとEC、とくに楽天市場に開設している同社のショップでの売れ行きが大きく伸びるという。
メディアで話題にしてもらうことのほか、インフルエンサーにサンプルを渡しInstagramで話題してもらうことにも取り組んだが、とりわけ注力したのが売場での見せ方だった。アイススラリーは注目度が高くなってきているものの、まだ広く浸透しているわけではないからだ。化粧箱や店頭に置く什器で、アイススラリーが何かをわかりやすく伝えることにした。
ネットでのレビューを見る限り、複数個購入するケースも多々見受けられるという。つくるためには冷凍庫で容器を10時間冷やさなければならず時間がかかることから、家族で使う場合などは1個では足りないことがあるためだ。
自動でアイススラリーとアイスクリームをつくる
しかし、アイススラリーが家庭で簡単につくれるとはいえ、手作業なのは面倒である。そこで同社は、アイススラリーを自動でつくる商品を企画。アイスクリームもつくれるようにし、2026年4月に『アイススラリーも自動で作れるアイスクリームメーカー』として発売した。プロダクトMDユニット スーパーバイザーの森岡良江さんは次のように話す。
「アイススラリーが自動でつくれるとなったら手軽になる反面、価格は上がります。しかし、アイスクリームもつくれるようにすることでお買い得感、お得感が生まれます。当社ではこれまで、アイスクリームメーカーをつくったことがなかったのですが、アイススラリーもつくることができるようにすることで他社のアイスクリームメーカーと差別化が図れる点も大きな魅力になると考えました」
『アイススラリーメーカー』と同じ構造の、蓄冷材を封入した冷却ポットを採用したが、『アイススラリーも自動で作れるアイスクリームメーカー』は24時間以上冷やす点が異なる。これは蓄冷剤の量が増えていることと、蓄冷剤をキンキンに冷やさないと固くならず水っぽいアイスクリームになってしまうためである。
モーター内蔵の本体にパドルを取り付け、冷却ポットにセットしてから付属のUSBコードを使って電源とつなげてから電源ボタンを押すと、自動でアイスクリームとアイススラリーがつくられる。モードの切り換えは電源ボタンを押すだけ。アイススラリーは約10分、アイスクリームは約20分で出来上がる。
冷却ポット内の材料は外側から徐々に凍っていくので、とくにアイスクリームをつくっているときは凍った部分が大きくなるとパドルが回らなくなってくる。そのため、固くなったらパドルを逆回転させ、逆回転させても動かなくなったら自動的に止まるようになっている。逆回転はモーターにかかる負荷から判断して実行するが、開発ではパドルを逆回転させるタイミング、パドルを停止させるタイミングの調整には手間を要した。
アイススラリーとアイスクリームが丁度良い固さでできる時間と量は、試作をつくりながら検証して決定。出来上がり後の止め忘れを防止するため、自動停止機能を持たせた。
取材からわかった『アイススラリーメーカー』のヒット要因3
1.時流に乗った見せ方
既製のシャーベットメーカーの見せ方を変え、アイススラリーがつくれることを謳った。アイススラリーが注目を集めつつあったので時流に乗った提案ができた形だ。
2.「つくる」という新しい選択肢の提示
注目を集めつつあるアイススラリーであったが、飲むに当たってはこれまで、買ってきたものを凍らせるぐらいしかなかった。選択肢がほぼない状況だったが、新たに家庭で好みの飲料でつくるという選択肢を提示することができた。
3.使い方が簡単
使い方が面倒だったり難しかったりしたら使ってもらえないが、飲み物を注いでかき混ぜるだけでアイススラリーができる。簡単なため子どもや高齢者でもつくることができるので、幅広い層の人たちに使ってもらいやすかった。
熱中症は屋外よりも屋内での発生が多いと言われている。東京消防庁の調査では、熱中症の発生場所で最も多かったのが住居などの居住場所。2025年6月~9月の間に熱中症で救急搬送された人を発症場所別に分類したところ、最多となる36%が住居などの居住場所だった。屋内にいても熱中症の危険は高いと言わざるを得ない。
これから夏本番を迎える。猛暑になることを想定し熱中症対策は万全にしておきたいが、在宅時にできる熱中症対策の1つとして、『アイススラリーメーカー』を使ってアイススラリーをつくって飲むのもいいだろう。
製品情報
アイススラリーメーカー
アイススラリーも自動で作れるアイスクリームメーカー
取材・文/大沢裕司
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