ボーナス支給直後の6〜7月は、離職率が年間で最も高まる時期のひとつです。
しかし社員が辞める本当の理由は、金額への不満だけではありません。「なぜこの評価なのか分からない」という納得感の欠如こそが、優秀な人材を離職へと駆り立てるのです。
曖昧な評価基準と感情的なフィードバックが不信感を蓄積させ、9月の上半期終了を待たずして優秀な人材が離脱するリスクを高めます。6月の今こそ、評価の根拠を明確にし、部下が「この組織で頑張る理由」を見出せる環境を整備することが離職防止の本質です。その具体的な仕組みを解説します。
1.ボーナスへの不満が退職理由という錯覚
夏のボーナス支給日を迎え、経営者や人事担当者は一安心されたかと思います。
しかし、本当に注意すべきなのは支給直後の6月から7月にかけてです。この時期、多くの企業で「ボーナスをもらったら辞めよう」と密かに決意していた優秀な社員の離職が表面化するからです。
多くの経営者が陥りがちな錯覚は「ボーナスの金額が少なかったから不満を持って辞めたのだ」という捉え方です。確かに金額に対する不満はゼロではないかもしれませんが、それはきっかけに過ぎません。優秀な社員の退職を後押しする実体は、ボーナスそのものではなく、その算定根拠についての「納得感の欠如」にあります。
「これだけ会社に貢献したのに、なぜこの評価なのか」「何を基準にこの評価になったのかが分からない」という疑問が解消されないまま積み重なり、ボーナスを機に会社や上司に対する不信感が頂点に達し決断するのです。
どれだけ立派なオフィスを構え、魅力的なビジョンを掲げていても、この納得感がなければ、社員は組織に所属し続ける意味を見出せなくなり、転職してしまうのです。
2.「与える」と「もらう」のバランスの崩壊
識学では、組織とそこに属する社員の間では、お互いに「有益性」を与えて・もらうという、いわばギブ&テイクの関係性が成立しているとしています。
具体的にそれを社員と組織に当てはめると、社員は「この組織にいれば成長できる、正当に評価されて報酬が得られる」という有益性を期待して入社しており、組織は「この社員が成果を出して事業を拡大してくれる」という有益性を見込んで雇用しています。
本来、この両者の有益性はギブ&テイクのバランスが保たれていなければなりませんが、評価基準が曖昧な組織では、このバランスが容易に崩壊する傾向にあります。
例えば、社員が「自分は組織に有益性を発揮しているのに、組織から納得のいく評価や報酬が返ってこない」と認識することが常態化すると、社員側の有益性のバランスは徐々に崩れていきます。そして、この状態になった社員が取る最終的な行動は「退職」です。
3.「有益性」の中身は「成長」のみ
では、社員と組織の間で双方の認識が一致し、「有益性」のバランスが保たれる中身は何でしょうか。それは「成長」です。社員が成長することで会社への貢献度が上がります。それによって会社の業績も上がっていきます。また、会社が成長することで社員もステイタスや報酬といった有益性を得ることができます。よって、成長はどちらにとっても有益なわけです。注意すべきことはその成長を定量的に測ることです。数字や状態を明示することでお互いの認識を合わせることができるわけです。
「給与」や「福利厚生」をイメージした方もいらっしゃると思いますが、有益性の拡大なしに、社員が求め続ける「給与」「福利厚生」を組織が一方的に与え続けることはできません。限界があります。また、「やりがい」や「仲間」を思い浮かべた方もいらっしゃるかもしれません。これらは会社が与えるものではなく、社員が日々の仕事の中で自ら見つけ出していくものです。
4.評価制度は他者評価であることを意識させる
貴社の評価制度の項目の中に「自己評価欄」はないでしょうか。該当項目について頑張ったことを記入したり、点数をつけたりする欄です。この欄は会社内の評価は自分でできる、という意識を助長させやすいのです。あくまでも、組織における評価を決める権利を持っているのは、本人ではなく常に「他者(上司)」という意識を醸成する必要があります。
なぜならば、自己評価意識が強い社員は、自分が思った通りの評価や報酬が得られなかった時、その原因を「自分の実力不足」とは捉えず、「上司には見る目がない」「評価制度の仕組みが悪い」と他責にする傾向が強いため、自らの行動を改めようとはしなくなります。結果として、ボーナス支給直後にもっと自分の価値を評価してくれるであろう会社へ転職していくのです。
または1次評価者欄と2次評価者欄という欄がないでしょうか。一見、客観的な評価を担保しているように見えますが、2次評価者は、ほぼ感覚的に評価を行っているのではないでしょうか。
被評価者からすると、2人の評価者がいるので、そもそもどちらに評価を獲得しに行けばよいのか迷いが生じます。
また、評価項目の中で定性的な部分が多く、その根拠を明示できない場合はフィードバックの際に注意が必要です。社員からなぜそういう評価になるのかと質問された場合、「今回は致し方ない」とか「自分は悪く評価していない」など不明確な回答をしたり、「自分の不足を素直に受け入れないのはいかがなものか」や「そういうことにこだわるのは〇〇さんらしくない」など本論から外れた感情的な対応をしたりしてしまうと、社員の中に不信感が蓄積していきます。そして、その評価が前回よりも下がった時には「なぜ下がるのか全く意味が分からない」という納得感の欠如につながっていくのです。
5.評価制度の3つのポイント
優秀な社員の離職を防ぎ、持続的な組織の成長をするために、評価制度のポイントは次の3点です。「評価の中心は成長に着目する」「定量評価にする」「自己評価させない」です。
まず、1つ目は「評価の中心は成長に着目する」ことです。社員により多くの有益性を出させることを意味します。市場環境が激しく変化する現代において、組織が現状維持に甘んじることは市場からの退場を意味します。したがって、社員のパフォーマンスに対して常にステップアップを要求する基準を設定し、成長を支援していく会社の姿勢を明確にします。当然、過去と同じ成果に留まっている場合は評価を下げる必要もあります。
2つ目は「定量評価にする」ことです。誰の目から見ても結果が一目瞭然である状態を作ることです。「よく頑張った」「主体的に動いた」といった定性的な項目での評価は、上司の個人的見解に左右されることが多くなります。よって、そのような項目においてもいつまでにどういう状態に持っていけば評価されるのかを明確にする必要があります。
そして3つ目は「自己評価させない」ことです。定量評価に基づいた他者評価であることを徹底することです。フィードバック面談ではどれだけ頑張ったかという「自己評価」ではなく、「自己分析」を報告させてください。「自己分析」とは過去の部分で何が不足していて目標に到達できなかったのか、自責で考えさせることです。また、未来に対して
どのように行動を変化させていくのかも併せて問いかけて認識を合わせることで、双方が納得できる面談になるでしょう。
6.記事のまとめ
夏のボーナス後に優秀な社員が辞める本質的な原因は、ボーナス金額ではなく評価の「納得感の欠如」です。組織と社員の有益性のバランスを保つには、互いの有益性である「成長」を定量的に測る必要があります。
離職を防ぐ評価制度のポイントは3点です。
1つ目は、常にステップアップを求める「成長への着目」。
2つ目は、上司の主観を排除し結果が一目瞭然な「定量評価」。
3つ目は、他責思考を防ぐため「自己評価させない」ことです。
フィードバック面談では自己評価ではなく客観的な自己分析を促し、他者評価を徹底することが優秀な社員の定着に繋がります。
文/識学コンサルタント 岡田正和
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