「言語化」が重要だと言われている。「なんでも“すごいですね”で終わらせてしまう」、「考えを言葉にできない」などのもどかしさを抱えている人も少なくない。思考を適切な言葉で伝えられれば、誤解や衝突を防ぎ、意思疎通が円滑になると思いながらも、それができない。この悩みの解決方法を、新刊『言語化は「ありきたりの言葉」でうまくいく。』(小学館)が話題の荒木俊哉さんに伺った。前編では言語化の本質について、ここでは実践的な方法について詳述していく。
「語彙力は不要」って本当?トップコピーライターが教える言語化の本質
「言語化」が重要だと言われている。「なんでも“すごいですね”で終わらせてしまう」、「考えを言葉にできない」などのもどかしさを抱えている人も少なくない。思考を適切…
言語化には入念な下調べと、「わかったふりをしない」ことが重要
――「対象のいいところを探して伝える」という言語化の本質を押さえた上で、その磨き方を教えてください。
まずは、対象をきちんと調べることです。ある程度の基礎知識を踏まえた上で、向き合うのです。商談や面接、面談ほか話し合いの場において、背景や専門用語などの知識を入れておけば、相手への理解も速くなりますし、伝わりやすくなります。
もう一つ、とても大切にしているのは、企業、商品、サービスの歴史的な成り立ちを理解しておくこと。私は対象がどのような経緯で誕生し、なぜ今の形や機能に進化していったのかを納得いくまで調べます。
その紆余曲折のプロセスの中にこそ、独自の隠された良さや、作った人が何に必要性を感じて、どう問題解決につなげたのかなどの物語が必ず眠っています。 事前にこういうことを押さえておくと、相手の本質をつかみやすくなりますし、「あの人は言語化ができている」という信頼関係にもつながっていきます。
ここで大切なのは、「わかったふりを絶対にしない」ということです。「自分は何もわかっていない」という前提、つまり素人であるという立場を隠さずに聞くことが大切です。相手と同じ立場に立とうとするのではなく、「相手のいいところを、理解し、伝える」という姿勢を崩さない。
わからないときは「それはなんですか?」「少し噛み砕いて教えていただけますか?」とストレートに聞く。話しているうちに、相手が見ている世界と、自分が知っている世界との共通点が見えてきます。これをできるだけ、わかりやすい言葉に当てはめていくのです。
――言語化はわかりやすいことが重要。荒木さんが1回目で言っていた「語彙力は必要ではない」という理由がわかりました。
私の新刊のタイトル『言語化は「ありきたりの言葉」でうまくいく。』にもあるように、言語化には難しい言葉は必要ではなく、「ありきたりのわかりやすい言葉」がいいのです。 ――語彙力以上に、物事の見方における「自分の軸」を決めることが大切だと感じました。
その通りです。ただ、自分の軸はどうしてもぶれてしまうもの。そこでおすすめなのは、日々の出来事の中から、特に印象に残ったことに対し「なぜそう思ったか」「何を感じたか」、理由を書くことです。
例えば、通勤や会議が嫌だと不満を抱えたとき、食べ物を美味しいと感じたとき、気候が気持ちいいと思ったときなど、「何かを強く感じた瞬間」を、短く簡潔な言葉で表現する。これにより、自身の好き嫌いの傾向が可視化され、自分の軸の解像度が上がっていきます。言語化能力を上げたいと思う人は、これを習慣化してみるといいと思います。
「意見がない人」から「マニアックで面白い人」に
――これを続けると、自分の意見がないという劣等感もなくなるような気がします。
言語化が注目されるほど、「私には言語化するほどの意見がない」というコンプレックスを抱える人が増えていると感じます。でもそんなことはありません。感じたことを言葉にすれば、それは形になります。 思考を言葉にすることを、楽しみながら続けていくと、あなただけの視点が生まれ、世界の見方も変わるはずです。
言語化と同様に、「偏愛」や「マニアックであること」も注目されて、深い知識や経験がないことに、劣等感を覚えている人もいると思います。そんな人にも、この「感じたことを短く簡潔な言葉で表現する」習慣をおすすめします。
日々の生活や、買い物も、単なる消費ではなく学びとなり成長につなげることができますから。
――スーパーの割引商品は朝が多いとか、あの店のカレーは水曜日が美味しいとか、日常の気づきが知識になる。
その通りです。対象の特性やいいところをSNSで発信すれば、多くの人の役に立つ知識になります。誰かが喜んでくれれば、もっと知りたいと思うようになり、自ずと何かを偏愛し、言語化能力も磨かれていく。言語化能力を磨くために、SNSを利用してみるのもいいと思います。
――SNSを続けるうちに、マニアックで面白い人になることができると感じました。自分の軸や思考の輪郭がわかれば、特別であることも見つけやすくなりますね。
その通りです。自分の軸があると、映画や小説、アートや音楽などの作品に触れたときに、自分の中に新たな切り口を作ることもできます。コピーライターは、モノの見方の角度が増えるほど、仕事の精度が上がるので、意図的に多くの作品に触れています。
その中で、私が最も影響を受けたのが、詩人・谷川俊太郎さんの『朝のリレー』という作品。世界の捉え方を変えるような気づきに満ちており、今でも読むたびに発見をいただいています。
――荒木さんの仕事の中で、モノの見方を変えたことで、大きく成功した例があれば教えてください。
印象に残っているのは、私の故郷・宮崎県から県のブランドプロモーションという依頼をいただき、2015(平成27)年に「日本のひなた宮崎県」というキャッチフレーズを作成したことです。
それまで、「太陽」という強い言葉を使っていたのですが、依頼の背景には、時代とともに価値観が変わり、新しいキャッチが求められるようになったことがありました。
そこで、私は歴史を紐解きつつ、さまざまな方向から言葉を選び、暖かさや共感性を生む言葉がいいと結論し、たくさんの言葉を集めました。その中から「日向(ひなた)」という言葉を選んだのです。私自身も関わったスタッフのみんなもしっくりくる言葉でした。
県の担当者の方にも喜んでいただき、このキャッチフレーズにより多くの方が宮崎県に興味を持つことにつながり、移住者や観光客が増えました。
さらにアイドルグループ『日向坂46』がこのフレーズと一致していた縁もあり、2019(令和元)年から宮崎県のPR活動を担う「みやざき大使」に就任。イベントやキャンペーンなどたくさんの活動が続いており、今年9月には大規模なフェスが行われます。
――言葉一つで世界は変わる。
そうなのです。だからこそ、相手のいいところを探すことから始めていただきたいと思っています。それにより世界はきっといい方向に変わっていきますから。
コピーライター 荒木俊哉(あらきしゅんや)
1980年宮崎県生まれ。一橋大学卒業後、2005年に電通に入社。営業局を経てクリエーティブ局に配属される。コピーライターとして活躍。これまで手がけたプロジェクトの数は100以上、20か国以上にのぼる。世界三大広告賞のダブル入賞をはじめ、国内外で20以上のアワードを獲得。著書に『瞬時に「言語化できる人」が、うまくいく。』(SBクリエイティブ)や『こうやって頭のなかを言語化する。』(PHP研究所)などベストセラー多数。
『言語化は「ありきたりの言葉」でうまくいく。』
荒木俊哉/著 小学館
言語化”という言葉が一般化するほど「言いたいことがうまく言葉にできない」「ちゃんと伝えているはずなのに、なぜか伝わらない」などの悩みを多くの人が抱えている。これを、広告の第一線で20年以上活躍してきたコピーラーターが、読者に伴奏しながら解決に導く。
Amazon取材・文/前川亜紀







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