長引く円安とインフレーションのダブルパンチにより、夏の家族旅行にかかる費用はかつてない水準で高止まりしています。航空券代やホテル代、現地での滞在費が高騰する中、多くのビジネスパーソンやファミリー層が頼みの綱とするのが、日々の決済やフライトで貯めた「マイル」を活用した特典航空券です。
しかし、2023年から2026年にかけて、日本の二大メガキャリアである日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)は、特典航空券のルールや必要マイル数を相次いで改定しました。「これまで通り、本家の公式サイトでマイルを貯めて予約すればお得に旅行できる」という過去の常識は、もはや通用しない時代に完全に突入しています。
ただし、先に本記事の結論をお伝えしておきます。マイル活用の目的は「安く飛ぶこと」そのものではありません。
移動コストを賢く圧縮し、浮いた予算と心の余裕を、現地での旅行体験に思い切り注ぎ込むこと。これこそが、物価高時代の旅の最適解です。その視点を持ったうえで、最新のマイレージ制度の全貌を正確に紐解き、外資系航空会社のマイレージプログラムを経由する「裏ワザ」を駆使して、熾烈な夏の特典航空券争奪戦を勝ち抜く方法を見ていきましょう。
ANAマイルの現在地:国際線ルールと「見落としがちなハードル」
ANAは近年、国際線特典航空券に関するルールを大幅に変更しました。必要マイル数の引き上げに加え、家族旅行を計画する層が事前に知っておくべきポイントがいくつかあります。
国際線特典航空券の必要マイル数引き上げ(ハイシーズンの激増) まず押さえておくべきは、ANA国際線特典航空券の段階的な必要マイル数引き上げです。2024年のビジネスクラス・ファーストクラスの増枠に続き、2025年6月24日発券分からは、ハワイ・北米・欧州方面などの「ハイシーズン」(ゴールデンウィーク・夏休み・年末年始など)の必要マイル数が大幅に引き上げられました。
実際の改定データを見ると、そのインフレの凄まじさが分かります。エコノミークラスやプレミアムエコノミーでの負担増もさることながら、特にハイシーズンのビジネスクラスは、北米や欧州などの長距離路線において、改定前と比べて必要マイル数が「約50%増」へと引き上げられるという劇的なインフレとなりました。家族旅行が集中する繁忙期ほど負担増が大きいのが現在のANAの現実です。
国際線における「年齢と荷物の壁」(国際標準ルール) 家族連れにとって大きな関門となるのが、国際線における幼児の年齢区分です。国際線では「0~1歳」が幼児(座席なし・小児運賃の10%等)、「2~11歳」が小児として扱われます。2歳の子供にも小児運賃(特典航空券の場合は大人と同じマイル数)が適用されるため、「2歳の誕生日を境に、突如として家族のマイル消費が跳ね上がる」のは紛れもない事実です。
国内線の注意点:2026年5月、ANA国内線も「2歳から小児」へ
ここで、家族連れが必ず知っておくべき極めて重要な変更があります。これまでANAの国内線は、幼児区分が国際線より緩やかで「0~2歳(3歳未満)」が幼児として扱われ、同伴者の膝の上に乗せる場合は無料という家族に優しいルールが維持されてきました。
しかし、2026年5月19日搭乗分から、この区分が国際線と同じ「幼児:0~1歳/小児:2~11歳」へと改定されます。
これにより、2歳の子供は「膝上無料」の対象から外れ、必ず座席の確保(航空券の購入または小児マイルでの発券)が必要になります。0~1歳であれば引き続き膝上搭乗(無料)が可能ですが、「国内線なら2歳までは膝上で無料」というこれまでの常識は、2026年5月19日以降の搭乗分では通用しません。お子様が2歳を迎えている場合はマイルの消費計算を根本から見直す必要があります。
「国内回帰」の戦略と、2歳以降の防衛策 それでも、低年齢(0~1歳)の子供がいるご家庭にとって、マイル消費の激しい国際線を避け、膝上搭乗が無料の期間に沖縄や北海道などの国内リゾートへシフトするのは依然として合理的な戦略です。座席分のマイルがかからないぶん、家族全体の消費を最も抑えやすいフェーズと言えます。
逆に言えば、2歳を迎えて「家族全員分のマイル」が容赦なくかかってくるフェーズに突入してからこそ、後述する外資系マイルのコスト圧縮効果が最大限に活きてきます。
そして子供がさらに成長し、例えば小学2年生ともなれば、本格的なアクティビティを全身で楽しめるようになります。外資系マイルを駆使して全員分の移動コストの上昇を吸収し、そこで浮いた生きた予算を体験のグレードアップに回していくのが、理想的なフェーズの移行です。
JALマイルの国内線「実質値上げ」の衝撃
JALの国内線特典航空券は、2023年の制度リニューアルによる距離別ゾーン制と「特典航空券PLUS」の導入に続き、2025年6月10日発券分からは全ゾーンで基本マイル数が一律500マイル引き上げられました。
特典航空券PLUSの「利便性とインフレのジレンマ」
「特典航空券PLUS」は、繁忙期でも追加マイルを支払うことで予約可能となる制度ですが、繁忙期の必要マイル数は劇的に膨らみます。 東京(羽田)~ 沖縄(那覇)線・普通席の場合、お盆のピークに上限近くで発券すると、往復で1人あたり最大89,000マイル前後が消費されます。これはANAのハワイ往復ビジネスクラス(ローシーズン 80,000マイル)を上回る水準であり、繁忙期に本家でマイルを消費することのコストパフォーマンスの悪化は避けられない現実です。
特典航空券争奪戦を勝ち抜く「外資系マイル」活用術(JAL派・ANA派)
JAL・ANAの本家プログラムがインフレ化する中、物価高に勝つための最強のソリューションが、アライアンス(航空連合)を組む外資系航空会社のマイレージプログラムの活用です。JAL派、ANA派それぞれに向けた最強の「裏ワザ」を見ていきましょう。
【ANA派】ユナイテッド航空(MileagePlus)の圧倒的柔軟性と「ハイシーズン潰し」
ANAマイルを貯めている、あるいはANA便をよく利用する層にとっての最大の武器は、同じスターアライアンスに加盟するユナイテッド航空(UA)の「マイレージプラス(MileagePlus)」です。UAマイルを使ってANA国内線を予約することには、本家を凌駕する凄まじいメリットがあります。
• 繁忙期(ハイシーズン)の圧倒的コスパ: ANA本家で繁忙期の必要マイル数が跳ね上がる中、UAマイルでANA国内線を予約する場合、短距離や中距離なら片道6,000~8,000マイル程度で取れるケースが多くあります。ANA本家が「ハイシーズン」で10,000マイル以上を要求する日程でも、UAマイルなら劇的に安く発券できる「ハイシーズン潰し」として機能します。
• 「2親等縛り」の撤廃とキャンセル無料: ANA本家は「特典航空券の利用は2親等以内」という厳しい縛りがありますが、UAマイルなら友人や恋人への発券も自由です。さらに、変更やキャンセル時の手数料も現在無料となっており、子どもの急な発熱などが多い家族連れにとって、ノーリスクで予約を確保できる最強の保険となります。
• マイル有効期限が「無期限」: 本家ANAマイルの「36ヶ月」という呪縛に追われることなく、じっくり貯めて一気に家族旅行に放出することが可能です。
※乗継時の要注意ポイント: UAマイルはかつて乗り継ぎ旅程に強いプログラムでしたが、2024年5月の改定以降、直行便以外(特に2回以上の乗り継ぎ)では必要マイル数が大幅に上がり割高になる仕組みに変更されました。地方空港からの出発などで利用する際は、直行便か1回乗り継ぎまでの旅程」で活用するのが鉄則です。
【JAL派】ブリティッシュ・エアウェイズ(Avios)の固定レート JAL国内線を予約する裏ワザの筆頭が、ワンワールド加盟のブリティッシュ・エアウェイズ(BA)が採用する「Avios」です。2023年~2025年にかけて必要Avios数は段階的に見直されましたが、繁忙期には絶大な威力を誇ります。
• JAL国内線(短距離): 10,500 または 11,000 Avios(片道)
閑散期に基本マイル枠で取れるなら本家JALマイルの方が安いため、「閑散期は本家、繁忙期はAvios」という使い分けが正解です。また、同じくAviosを採用しているカタール航空とアカウントを連携させることで、Aviosを等価交換し、どちらから発券した方がお得かを比較検討する「裁定取引(アービトラージ)」も可能です。
【鉄則】 外資系のマイレージプログラムは、予告なしのルール変更(サイレント改定)が突発的に起こりやすい世界です。クレジットカードのポイントを外資系マイルに移行する際は、必ず「今、この瞬間に発券できる空席があるか」を確認してから動かしてください。
「物価高・円安」時代のマイル戦略 節約は、体験のためにある
ここまでの実態から導き出される、具体的なアクションプランは以下の通りです。
1. マイルの価値基準のパラダイムシフト 現金価格が高騰する「お盆や夏休みの国内リゾート路線」に対し、UAマイルやAviosといった外資系マイルをぶつけるアプローチこそが、現在のコスパを最大化する最も確実な手法です。
2. 年齢ルールの過渡期を読み、外資系マイルへシフトする ANA国内線は2026年5月19日搭乗分から「2歳は小児扱い(必ず座席確保が必要)」へと変わりました。0~1歳の低年齢期は膝上搭乗で出費を抑えつつ、2歳以降で家族全員分のマイルが必要になったタイミングこそ、AviosやUAマイルへの切り替えでコスト増加を吸収するのが賢い防衛策です。
3. マルチマイレージ戦略の構築 JAL・ANAの「単一プログラム」だけでなく、ユナイテッド航空やBAなどの外資系プログラムを主軸とした特典航空券発券へとシフトも選択肢です。
そして最も大切なこと 浮いた予算を「思い出」に変える
ここまでコストパフォーマンスを論じてきましたが、マイル戦略はあくまで手段であって、目的ではありません。羽田~那覇の往復を、本家マイルの繁忙期上限・最大89,000マイル前後ではなく、外資系マイルの20,000未満で発券できたとしたら。その差分と現金で買わずに済んだ航空券代は、そのまま旅の「中身」に投資できます。
• ワンランク上のオーシャンビューの部屋に泊まる。
• 子供と一緒にシュノーケリングやガラス工房体験を予約する。
• 地元の名店で、値段を気にせず家族で美味しいものを食べる。
• 1泊延ばして、慌ただしい弾丸旅行を「余白のある旅」に変える。
私たちが本当に守るべきは「移動の安さ」ではなく、現地で過ごす時間の豊かさです。年々進む「マイルのインフレーション」を正確に読み解き、外資系プログラムを自在に使い分ける情報リテラシーは最強の武器です。しかしその武器を振るう本当の理由は、節約の達成感ではありません。
賢く飛んで、浮いた分だけ深く遊ぶ。それが、物価高の夏を最も優雅に乗り切る旅のかたちなのです。
文/りんたろう
マクロ経済や市場動向の分析を得意とする。私生活では物価高時代における家族旅行のコストを賢く圧縮し、現地での「体験」を最大化する独自のマイレージ戦略を日々実践している。







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