国内電通グループが手掛ける独自のAI戦略「AI For Growth」。2026年5月に3年目を迎えるにあたり「AI For Growth 3.0」へと刷新、新たなビジョンを発表した。
かねてより進めていたAIエージェントをクライアントのマーケティング業務へと本格的に導入していくとともに、AIを活用した新たなフレームワーク「PSDCA」も提案する。
PSDCAとは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)のプロセスに、Simulation(仮説検証)を組み込んだモデルのこと。この次世代のマーケティングモデルがいかにして可能となったのかをみていきたい。
PDCAからPSDCAへ。時代はAIによるSimulation

5月下旬、今年電通グループ 代表執行役 社長 GlobalCEOに就任した佐野傑氏も登壇した「AI For Growth 3.0」発表会で、とりわけメディアから注目が集まったのが「PSDCA」と呼ばれる新たなマーケティングプロセスだ。
電通のマーケティング担当の執行役員の貝塚康仁氏は次のように説明をする。
「従来のマーケティングでPDCA、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)のプロセスではどれだけ精緻に事前の計画を立てていても実際の生活者や市場の反応はDo(実行)をした後でないと検証することができませんでした」

いざDo(実行)を実行したところ、事前の予測とは全く異なる反応が起こったり、予想を大きく下回るなんてことは珍しくない。Plan(計画)とDo(実行)の間に、Simulation(仮説検証)を挟むことで、こうしたリスクは大きく回避できるだろう。
そのカギとなるのが、dentsu Japanのマーケットツインと呼ばれるエンジンだ。
これまで電通が蓄積してきた生活者データやマーケティング実践知を、業種や商材ごとに異なる生活者や市場のリアルな反応を事前に再現できるマーケティングシミュレーションエンジンとなっている。
「ものづくりの世界では、実際にものを作る前にデジタルツインと呼ばれる可能空間でシミュレーションを行う環境があります。この空間で仮説検証を繰り返しながら失敗のリスクを最小化してものづくりは行われています。
しかし、マーケティングの世界はどうでしょうか。新商品や新しいキャンペーンが成功するかどうかは実際にコストをかけて市場に投入してみないと確かめにくい制約があります。電通は、製造業におけるモノのシミュレーション空間を、マーケティングにおけるヒトのシミュレーション空間へ拡張しました。それがAIマーケットツインです」

電通が生活者データをもとに作り上げたAIペルソナが、現実世界の人と同じように購買に至る購買ジャーニーやゴールデンパスをリアルに再現することができる。そしてAIペルソナの集合体は市場全体を再現することができるため、マクロとミクロの両面でシミュレーションが可能だという。
「つまり、AIマーケットツインの空間で、Plan(計画)を生活者や市場に問いかけて反応をシミュレーションすることができます。これにより、これまでDo(実行)の後にしかできなかった仮説検証が、Do(実行)の前にできるようになる。その結果、Plan(計画)の成功確率が大きく向上します。これがdentsu JapanのPSDCAの本質です」

PSDCAに欠かせない電通独自のAIサービス
AIによるシミュレーションは思考の収束、つまり同質化が起こりうる点が懸念される。この課題に対する解が「AI for Growth Suite」と呼ばれるAIプロダクト群だ。
dentsu Japanが独自に開発した6つの専門AIツールやAIエージェントのことで、いずれも電通が保有する大規模生活者データや、電通のクリエイターやマーケターの思考プロセスやノウハウが学習されている。
専門AIツール①:1億人規模の高解像度なAIペルソナを基にした仮想定量調査で生活者理解を支援する「People Research」

専門AIツール②:特定のAIペルソナとのデプスインタビューや対話を通じてインサイト抽出を行う「Talk」

専門AIツール③:商品企画を行う「Product Planning」

専門AIツール④:アイデア創出を加速する「Flash」

専門AIツール⑤:戦略立案を支援する「Plot」

専門AIツール⑥:メディアプランニングを担う「Media Flow」

AIエージェントプラットフォーム「Canvas」

人と市場を再現した仮想空間で仮説検証を繰り返し、より確度の高い意思決定を行うための次世代のフレームワーク。PSDCAは、AI時代のマーケティングの新たな標準となるのか。今後の実践事例にも注目が集まりそうだ。
取材・文/峯亮佑







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