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「なろう・異世界系」依存は失敗だった?KADOKAWAはラノベの質を上げるために何をすべきか

2026.06.02

KADOKAWAは2026年3月期の出版・IP創出事業の営業利益が前期比でおよそ52%減少し、40億円となりました。業績悪化の影響を受け、45歳以上を対象とした早期退職者の募集をかけると発表。構造改革に乗り出します。

KADOKAWAは国内出版事業の収益性悪化の要因として、「なろう・異世界系」など実績のあるジャンルへの偏重を挙げました。ライトノベル大手として進めた合理的な経営判断が、今回の失速を招いたと見ることができます。

優良顧客の声に応え続けることの危険性

KADOKAWAはIPの創出とLTVの最大化を経営の核に据えてきました。ヒット作を生み出し、得意とするメディアミックス展開でその価値を引き上げつつ、長寿化しようというものです。

IPの創出を加速するために取り組んだのが、刊行数の引き上げでした。2028年3月期にIP7000点超という目標を掲げ、編集者の採用とサポート体制を強化していたのです。225年3月期は全ジャンルの出版IPが6430点で、前期と比較して4%近く増加していました。

KADOKAWAは出版事業を振り返り、「刊行点数の増加がヒット作創出に結びつかず」と結論づけています。新味やクオリティが伴わないものが多く、ヒット作創出に結実しなかったというのです。

ここで思い出すのが、経営学者のクレイトン・クリステンセンの有名な著書「イノベーションのジレンマ」。その中で業界トップの企業が優良顧客の声に耳を傾けた結果、破滅へと至ることがあるという趣旨のことが書かれています。つまり、優良企業が合理的な経営判断を続けたとしても、失敗することを示唆しているのです。KADOKAWAがとった行動はこの現象を想起させます。

「なろう系」と相性の良い就職氷河期世代

ライトノベル読者の年齢層が上がっているかどうかについては、はっきりしたデータがありません。しかし、若者の読書離れが進んでいるのは紛れもない事実。文化庁による16歳以上の個人を対象とした「国語に関する世論調査」において、1ヶ月に1冊も読まない割合は2023年の調査で62.6%。2008年の調査では46.1%でした。

全国学校図書館協議会の「学校読書調査」では、1ヶ月に読んだ本の数がゼロ冊だった高校生の割合は2025年が55.7%で、2008年は47.0%でした。中学生も13.2%から24.2%に上がっています。

「なろう系」の特徴は、突出した能力のないごく普通の主人公が、異世界に転生して特殊な能力を持つに至ること。魔王などの強敵を討伐する爽快感が得られ、ヒロインなどと親密な関係を築ける疑似恋愛要素に面白さがあります。

「なろう系」を生み出すに至ったWebサイト「小説家になろう」のスタートが2004年で、90年代後半から2000年代初頭にかけて就職活動を行っていた就職氷河期世代とユーザーが重なると言われています。当時、職探しに困難を抱える人々が、異世界で活躍するストーリーに自らを重ねていたとしても不思議ではありません。つまり、ライトノベルの優良顧客は氷河期世代である可能性が高いのです。

KADOKAWAはその声に真摯に耳を傾けていたと考えられます。

そしてKADOKAWAのような大手企業の場合、属人的な仕事を排除しようとする力が自然と働きます。これは、組織として仕組み化しなければ会社が健全に成長できないからです。ましてや上場企業であれば、組織力が一層重視されるでしょう。そうなると、必然的に“勝ちパターン”に依存する傾向が強くなるのです。

顧客の声を聞くことを重視しつつ、IP創出のために出版点数を増やすという方針に従い、組織としてヒットの再現性を高めようとした結果、「なろう系」に依存。出版部門が不振に陥ったものと考えられます。

KADOKAWAが、組織運営において極めて合理的な判断を重ねたにも関わらず、業績を傾かせた様子がイノベーションのジレンマを彷彿とさせるのです。

出版物の多様性は組織力での解決が不可欠

KADOKAWAは「選択と集中」によるヒット作創出へと切り替える方針を掲げました。量から質への転換です。多種多様な作品を創出するための改革を実現するとしていますが、簡単ではないでしょう。ヒットする可能性が低いジャンルやテーマを、編集者が積極的に取り組むとは考えづらいからです。

組織的にジャンルとテーマを分散させる必要があるはず。KADOKAWAは明示していませんが、一つヒントになりそうなのがレーベルのカラーの復活でしょう。KADOKAWAは「電撃文庫」や「角川スニーカー文庫」、「MF文庫J」、「カドカワBOOKS」など様々なライトノベルレーベルを持っています。

電撃文庫は「ブギーポップは笑わない」などに代表されるSFファンタジーに強みを持っていました。「角川スニーカー文庫」は「ロードス島戦記」という王道RPG作品の金字塔を生み出し、その後は「涼宮ハルヒシリーズ」でセカイ系ブームをけん引しました。「MF文庫J」はボーカロイド楽曲のノベライズ作品に強く、「カドカワBOOKS」は小説投稿サイトの作品を書籍化しています。

しかし、レーベルごとのカラーは少しずつ失われており、異世界系やラブコメなどが混然一体となっている印象があります。これらを整理してジャンルやテーマを振り分けることで、ライトノベルの多様性が生まれるのではないでしょうか。

KADOKAWAの改革に必要なのは、既存顧客の声に耳を傾けることよりも、ライトノベルの市場を拡大するために新たな層を開拓することでしょう。難しい取り組みであるだけに、組織力を使った対策が必要になると考えられます。

文/不破聡

Author
大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融、経営戦略を中心とした記事を執筆中。得意分野は外食、ホテル、映画・ゲーム、エンターテインメント業界など。

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