就職活動は、人生の大きな分岐点のひとつだ。しかし、その選考プロセスにおいて、応募者の「適性や能力」とは直接関係のない要素が判断材料になっているケースもある。
日本労働組合総連合会(略称:連合)は、採用選考における就職差別の実態を把握するため、2023年の調査(※)に続き3回目となる「就職差別に関する調査」を2026年4月10日~4月15日の6日間でインターネットリサーチにより実施し、最近3年以内に就職のための採用試験(新卒採用試験、または中途採用試験)を受けた、全国の15歳~29歳の男女1,000名の有効サンプルを集計したので、注目のポイントをピックアップして紹介しよう。(調査協力機関:ネットエイジア株式会社)
※前回(2023年)の調査は「就職差別に関する調査2023」として2023年5月31日に発表。
「戸籍謄(抄)本」や「健康診断書」の提出などルールを順守しない採用選考の実態
採用選考にあたっては、応募者の人権を尊重すること、応募者の適性や能力を基準として行うことが原則とされており、適性や能力と関係がないことを採用基準とすると、就職差別につながるおそれがある。
適性や能力を基準とした採用選考を行うために、応募用紙については、中学校卒の採用試験の場合は《職業相談票(乙)》、高等学校卒の採用試験の場合は《全国高等学校統一用紙》を使用するよう定められている。
最終学歴が中学校の人(37名)に、採用試験に際し、《職業相談票(乙)》ではない応募用紙を提出するように求められたことがあるか聞いたところ、「ある」は51.4%(2023年58.1%)、「ない」は48.6%(2023年41.9%)と、提出が求められるケースは減少しているものの半数を超える結果に。
最終学歴が高等学校の人(248名)に、採用試験に際し、《全国高等学校統一用紙》ではない応募用紙を提出するように求められたことがあるか聞いたところ、「ある」は47.2%(2019年32.2%、2023年46.7%)、「ない」は52.8%(2019年67.8%、2023年53.3%)と、前回調査と同じ水準で推移していた。
大学卒や専門学校卒などの採用試験の場合は、大学などから指定された履歴書や《厚生労働省履歴書様式例》に則った履歴書を使用することが推奨されており、事業主が独自に応募用紙やエントリーシートの項目・様式を設定する場合は、適性や能力に関係のない事項を含めないよう留意するべきとされている。
最終学歴が四年制大学・大学院・専門学校・短期大学の人(709名)に、採用試験に際し、大学などから指定された履歴書や《厚生労働省履歴書様式例》に則らない会社独自の履歴書を提出するように求められたことがあるかを質問。
最終学歴が専門学校・短期大学の人(129名)では「ある」は48.1%(2019年27.9%、2023年41.6%)、「ない」は51.9%(2019年72.1%、2023年58.4%)、最終学歴が四年制大学・大学院の人(580名)では「ある」は54.8%(2019年62.6%、2023年54.4%)、「ない」は45.2%(2019年37.4%、2023年45.6%)と、最終学歴が専門学校・短期大学の人で「ある」が5ポイント以上上昇していた。
職業安定法では、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報などの収集が原則として禁止されており、採用選考時に戸籍謄(抄)本の提出を求めることや、合理的な理由なく一律的に健康診断書の提出を求めたり健康診断を実施したりすることは認められていない。
全回答者(1,000名)に、採用選考過程において、《戸籍謄(抄)本の提出を求められたこと》の有無について聞いたところ、「ある」は39.1%(2019年19.4%、2023年30.8%)、「ない」は60.9%(2019年80.6%、2023年69.2%)となり、「ある」は8.3ポイントの上昇。最終学歴別にみると、最終学歴が中学校の人では「ある」が54.1%と半数を超えた。
また、《内定が出る前に健康診断書の提出や応募した会社が手配した健康診断の受診を求められたこと》では、「ある」は42.1%(2019年48.6%、2023年52.0%)、「ない」は57.9%(2019年51.4%、2023年48.0%)と、「ある」は9.9ポイントの下降となっている。最終学歴別にみると、最終学歴が中学校の人では「ある」が62.2%と、突出して高い。
ルールを順守せずに応募者に対し書類の提出や健康診断の受診を求めるケースは最終学歴が中学校の人で目立っており、特に中卒者の採用において、採用側の意識の改善が必要であることがうかがえる。
「就職活動をしていて“学歴フィルター”を感じたことがある」人は44.3%
事業者が、応募者を出身学校名によって振り分け、採用選考の対象とするかどうか決めることは“学歴フィルター”と呼ばれており、たとえば特定の大学の学生しか説明会やセミナーに参加できないといったことがあてはまる。
全回答者(1,000名)に、就職活動をしていて、いわゆる“学歴フィルター”を感じたことがあるか聞いたところ、「ある」は44.3%、「ない」は55.7%となった。
最終学歴別にみると、「ある」と回答した人の割合は、最終学歴が中学校の人では54.1%と半数を超えている。また、最終学歴が高等学校の人では42.3%、専門学校・短期大学の人では41.1%、四年制大学・大学院の人では45.5%という結果に。
前回の調査結果と比較すると、学歴フィルターを感じたことがある人の割合は、全体では3.9ポイントの上昇(2023年40.4%、2026年44.3%)、最終学歴が中学校の人では8.9ポイントの上昇(2023年45.2%、2026年54.1%)、高等学校の人では8.7ポイントの上昇(2023年33.6%、2026年42.3%)。
専門学校・短期大学の人では4.5ポイントの上昇(2023年36.6%、2026年41.1%)、四年制大学・大学院の人では1.6ポイントの上昇(2023年43.9%、2026年45.5%)となり、いずれの層でも上昇する結果となった。
就職活動中に選考において学校名でふるいにかけられていると感じる人は増えているようだ。
「就職活動をしていて“男女差別”を感じたことがある」男性では37.4%、前回調査から7.3ポイント上昇
全回答者(1,000名)に、就職活動をしていて、いわゆる“男女差別”を感じたことはあるか聞いたところ、「ある」は36.0%、「ない」は64.0%となった。
男女別にみると、「ある」と回答した人の割合は、男性では37.4%と、前回調査(30.1%)から7.3ポイント上昇している。
最終学歴別にみると、「ある」と回答した人の割合は、最終学歴が中学校の人では67.6%と突出して高くなり、前回調査(41.9%)から25.7ポイントの上昇となった。
就職活動をしていて男女差別を感じたことがある人(360名)に、就職活動をしていて感じた男女差別の内容を聞いたところ、「男女で採用職種が異なっていた(男性は総合職、女性は一般職など)」(39.2%)が最も高くなり、「採用予定人数が男女で異なっていた」(34.4%)、「男性のみ、または女性のみの募集だった」(30.3%)、「男女で年齢制限が異なっていた」(25.6%)、「男女で制限条件が異なっていた(婚姻の有無や自宅通勤者限定など)」(24.7%)であった。
「“AI面接”を受けたことがある」20.6%!企業がAIを用いて選考を実施することに対する印象は?
近年、企業がAI(人工知能)を活用して採用業務を行う“AI採用試験”が実施されるケースがある。
全回答者(1,000名)に、企業がAIを用いて実施する“AI面接”を受けたことがあるか聞いたところ、「受けたことがある」は20.6%、「受けたことはない」は67.9%、「わからない」は11.5%であった。
企業がAIを用いて選考を実施することに対する印象を聞いたところ、「非常によい印象」が8.4%、「ややよい印象」が21.0%で、合計した『よい印象(計)』は29.4%、「非常によくない印象」が6.0%、「ややよくない印象」が21.1%で、合計した『よくない印象(計)』は27.1%となった。また、「どちらともいえない」は43.5%。
男女別にみると、男性では『よい印象(計)』と回答した人の割合が36.0%と、女性(23.0%)と比べて13.0ポイント高くなっている。
企業がAIを用いて選考を実施することに対する印象について、回答の理由があげられたので詳細を聞いた。
よい印象を持っている人の回答をみると、「対面しないことにより、緊張感がなく普段の自分を見せられる」といった心理的影響や、「人間と違って個人的な感情を持たない」、「選定する基準がわかりやすい」といった選考基準、「企業の人事だけでは対応できない人数を見られる」、「先進技術を活用している」といった効率や技術面に関する回答がみられた。
よいともよくないともいえない人の回答をみると、「実際に経験がないのでわからない」、「成長途上の分野でまだどうなるかわからない」、「どこまでAIに頼った面接を行うのか不明」といった不明点の多さに関する回答や、「面接の効率化と信頼性の面で一長一短だと思う」といった回答がみられる。
よくない印象を持っている人の回答をみると、「人対人の面接のほうが、思いや熱量が伝わりやすいと思う」、「実際に一緒に働く人達との交流がないと意味がない」といった人間同士で直接会話することのメリットや、「AIのバイアスが心配」、「現在のAIの精度が十分なものだという保証がない」といったAIの技術的な問題に関する回答が見受けられた。
「企業がAIを用いて実施する選考が、公平な評価につながると思う」39.5%
全回答者(1,000名)に、企業がAIを用いて実施する選考が、公平な評価につながると思うか聞いたところ、「非常につながると思う」が10.3%、「ややつながると思う」が29.2%で、合計した『つながると思う(計)』は39.5%という結果に。
一方、「全くつながらないと思う」が4.6%、「あまりつながらないと思う」が15.4%で、合計した『つながらないと思う(計)』は20.0%となった。また、「どちらともいえない」は40.5%。
男女別にみると、男性では『つながると思う(計)』と回答した人の割合が44.0%と、女性(35.5%)と比べて8.5ポイント高くなっている。
企業がAIを用いて実施する選考が、公平な評価につながると思うかについて、回答の理由を聞いた。
つながると思う人の回答をみると、「人間の独断がない」、「人間よりも合理的な判断をしそう」といった恣意性の低さに関する回答がみられる。
つながらないと思う人の回答をみると、「能力だけを評価して、内にある人間性がわからない」といった評価の偏りや、「現在の技術だとそこまでは無理だと思う」といったAIの技術的問題、「OBや他の就活生などから試験問題を事前に入手したら差が生まれそう」といった運用面に関する回答がみられた。
「採用選考過程において、企業からSNSアカウントを調査する旨の通知を受けたことがある」20.8%、前回調査から9.1ポイント上昇
近年、企業が求職者個人の匿名のSNSアカウントを調査する、いわゆる“SNS裏アカ調査”というものがある。
採用の自由の一環として、応募者について知るためにSNSアカウントを調査する企業が、コロナ禍でのWEB面接の導入を機に見られるようになった。しかし、身元調査にもなりうることから、新たな就職差別につながるおそれもある。
全回答者(1,000名)に、採用選考過程において、企業からSNSアカウントを調査する旨の通知を受けたことがあるか聞いたところ、「ある」は20.8%、「ない」は67.0%、「わからない」は12.2%となった。
前回の調査結果と比較すると、「ある」と回答した人の割合は9.1ポイント上昇(2023年11.7%、2026年20.8%)した。
また、採用選考過程において、企業からSNSアカウントを調査されたことがあるか聞いたところ、「ある」は21.8%、「ない」は63.3%、「わからない」は14.9%という結果に。
企業からSNSアカウントを調査する旨の通知を受けたことがある人(208名)についてみると、「ある」は77.4%となった。
前回の調査結果と比較すると、「ある」と回答した人の割合は、全体では11.1ポイントの上昇(2023年10.7%、2026年21.8%)、事前に通知を受けていた人についても11.6ポイントの上昇(2023年65.8%、2026年77.4%)となっており、SNSアカウントの調査の実施が増えていることが明らかに。
調査概要
調査タイトル:就職差別に関する調査2026
調査対象:ネットエイジアリサーチのモニター会員を母集団とする最近3年以内に就職のための採用試験(新卒採用試験、または中途採用試験)を受けた、全国の15歳~29歳の男女
調査期間:2026年4月10日~4月15日
調査方法:インターネット調査
調査地域:全国
有効回答数:1,000サンプル
実施機関:ネットエイジア株式会社
関連情報
https://www.jtuc-rengo.or.jp/
構成/Ara







DIME MAGAZINE
























