■連載/ヒット商品開発秘話
濃厚でありながらやさしいミルクの味わいが好評で、現在好調に売れているチョコバーがある。有楽製菓が2026年1月に通年販売を開始した『ミルクマニア』のことだ。2026年4月20日時点で600万本超が出荷されている。
『ミルクマニア』は、厳選したミルク原料を使用。さくっ&ほろっとした食感が味わえ、噛むたびに濃厚なミルク感が押し寄せてくる。
テストの意味から2025年6月から全国のスーパー、コンビニ、ドラッグストアなどで期間限定販売を実施したところ、予想を上回る売れ行きとなり、販路によっては想定よりも早く終売になったところがあったほど。好成績を受け通年販売に至った。
『ブラックサンダー』に次ぐ新ブランドを育てる
有楽製菓といえばザクザク食感が特徴なチョコバー『ブラックサンダー』が看板商品。1994年に発売されて以来、フレーバー、サイズ、容量、地域限定で多彩な展開を図ってきた。
『ミルクマニア』の開発も、『ブラックサンダー』が影響していた。マーケティン部長の杉田晶洋さんはこう明かす。
「会社の売上をほぼ『ブラックサンダー』1本でつくっているので、新しいブランドを立ち上げて育てることが長年のミッションになっていました」
『ブラックサンダー』に次ぐブランドがなかなか育ってこなかった同社であったが、これまでまったく手を打ってこなかったわけではない。いくつかの新ブランドを立ち上げたものの思ったように売上が伸びなかったほかに、工場の生産能力が限界に近づき新商品をつくりたくてもつくれない状況が重なった。このため、新ブランドの立ち上げが停滞することになった。
そんな状況にあった2023年秋頃、『ミルクマニア』の開発が始まった。きっかけは、豊橋夢工場第2工場(愛知県豊橋市)が2024年に竣工し、生産能力が拡大されることになったからであった。杉田さんは「チョコバーの生産能力がそれまでと比べて単純に2倍になるので、生産ラインをきちんと稼働させるためにも新商品は必要でした」と話す。
新ブランドでミルクにこだわったのには、2つの理由があった。
1つ目は、原料にこだわり単一の素材を極める専門店が増える傾向が見られたこと。単一の素材の美味しさを極めた商品は現在のように節約志向が高い時でも選ばれると捉えた。
2つ目は、2020年9月に発売された『ブラックサンダー 至福のバター』の存在。お客様が本能的に求める味わいとしてバターに注目し、『ブラックサンダー』の美味しさを極めるというコンセプトから開発された。
マーケティング部コミュニケーション企画課の北島あやさんは次のように話す。
「単一素材を極めた味わいに手応えを感じました。素材の中でもミルクは誰にとっても身近なものであり好まれやすいものであること、チョコレート市場の中で断トツの強さを持っているものがミルクチョコレートであることから、ミルクにこだわった新ブランドを立ち上げることにしました」
迷走の末にたどり着いた味わいの黄金比
『ミルクマニア』で目指した味わいは「専門店品質」だった。専門店品質とは、原料にこだわり高品質で美味しいものを意味する。
味については最初から具体的なイメージはなかった。「ミルクにこだわり、ミルクがしっかり感じられる、ミルク好きが納得するめちゃくちゃ美味しいもの」としか決まっておらず、試作検証を重ねていく中で企画と開発がすり合わせしていきながらつくり上げていった。
漠然としたイメージを具現化することになったので、これまでの自社商品と比べて試作検証の回数が大幅に増えた「他の商品の開発だと多くても10回ほど試作検証すれば完成となりますが、『ミルクマニア』は40回以上試作検証を行ないました」と杉田さん。40回以上の試作検証は同社史上トップクラスの多さだ。
完成までの間、ミルク風味の原料を片っ端から調達しては組み合わせを決めたり配合量を調整したりすることを繰り返し、迷走したこともあった。『ミルクマニア』に採用されている、クリーム風味パウダーと練乳パウダーを1:1でブレンドする黄金比にたどり着いたのは開発の終盤に差し掛かった頃。迷走の度合いは深かった。
食感もなかなか決まらなかった。「最初はベースにパフを使い軽めの食感で仕上げていましたが、濃いミルク味との一体感に欠けるところがありました」と振り返る杉田さん。だからと言って『ブラックサンダー』のようなザクザクとした強い食感にすると、ミルクの豊かなコクと合わない。濃いミルクからイメージされる食感に近づけるのに時間を要した。
現在のさくっ&ほろっ食感に決まったのは、開発の中盤あたりでのこと。自社で焼いたバタークッキーをベースに使ったことから生まれたものだった。
粉まみれの生産ラインと作業者
チョコレートに抹茶などの別の風味をプラスする際、従来であればすべての原料のうち3%程度が風味をつくる原料であった。『ミルクマニア』も当初は濃厚になり過ぎないようにする考えでいたが、ミルクの濃厚さで差別化を図る観点から風味をつくる原料は使えるだけ使うことにした。
ただ、そのお陰で生産ラインは大変なことになった。ミルク風味をつくる原料は粉末であることから、原料をフィーダー(供給装置)に投入すると周辺に舞い散ってしまい生産ラインと作業者が粉まみれになる。また、粉末が大量に混ざることでチョコレートがクッキーなどベースの原料をつなぐ役割を果たしにくくなり、チョコバーとしてきちんと成形できなくなる問題も発生した。
「長いバーに成形して固めてから一定の長さにカットするのですが、バーがうまくつながらずブツブツ切れてしまったり、カットした時にボロボロになってしまったりしました」と杉田さん。配合を微調整したほか、油脂類を変えてみたりフィーダーへのチョコレートの投入温度やバー成形時の温度、成形後の冷却条件を変えてみたりといった細部を細かく見直して解決を図った。
「ラボでの試作を終えた後の工場の設備を使った量産試作が長かったです」と振り返る杉田さん。通常であれば1回うまくいかなくてもその後すぐリカバリーできるところ、『ミルクマニア』に関しては5回ほど量産試作を繰り返した。入社して15年になるという杉田さんにとって、『ミルクマニア』の開発はこれまでで1,2を争うほど大変なものになった。
牛のシェフがラッピングされた路線バスが都内を走る
通年販売後の商品は期間限定販売時から価格以外は変わっていない。購入者の反応から改良点が見当たらなかったことから、そのままの形で販売した。
期間限定販売時も含め目立った販促は行なっておらず、メディアで取り上げてもらう他にはタイミングを見てSNSでプレゼントキャンペーンを実施する程度。それも『ブラックサンダー』の公式SNSアカウント上で実施している。
北島さんによれば、同社が思っていた以上にクチコミが拡散したという。「美味しい」という声のほか、コンビニなどの小売店で『ブラックサンダー』の隣に置かれるケースが多いことから、「ブラックサンダーの新フレーバー?」「ブラックサンダーの会社から新商品が出た」「ミルクマニアって『ブラックサンダー』の有楽製菓だったんだ」といったクチコミも拡散していった。
販促はリアルでの接点を持つことも模索した。いろいろ検討した末に決めたのがラッピングバス。2026年3月1日から2027年に2月28日までの間、都営バス渋谷営業所新宿支所管轄の路線を、パッケージに描かれているのと同じ牛のシェフがあしらわれた車両1台が、ランダムに走行している。
同社にとってラッピングバスは初の試み。工場がある愛知県豊橋市と北海道札幌市の両地域を走る路面電車で『ブラックサンダー』のラッピングを施した車両が運行されていることからヒントを得た。
また、早くもこの3月に新フレーバーの『ミルクマニアいちご』を発売。店頭で2種並べてもらうことにより露出を高めることや、再び『ミルクマニア』を購入してもらうきっかけとする話題づくりから、フレーバーを早期に追加した。
『ミルクマニア』の購入者層は『ブラックサンダー』とやや異なる。『ブラックサンダー』は40代前後の男性の購入が多いのに対し、『ミルクマニア』は30代女性が多い。男女比で見ると、『ブラックサンダー』は6:4で男性の方が多いが、『ミルクマニア』は4:6で女性の方が多くなる。
取材からわかった『ミルクマニア』のヒット要因3
1.イメージ通りの味わい
ミルクの濃い味わいを追求し、商品名やパッケージデザインもミルクの濃厚感が期待できるものを採用。一度食べるとその通りの印象を抱くことができた。イメージを裏切らない味わいが商品の信頼を高めたといってもいい。
2.クチコミの拡散
ラッピングバスが走っているとはいえ、販促活動の中心はSNSでのプレゼントキャンペーンであることから、商品の認知拡大に果たすクチコミの役割は大きい。クチコミが拡散する取り組みをしたわけではないが、味やパッケージデザインに誰かに話したくなる要素があり、多くのクチコミが拡散した。
3.『ブラックサンダー』のブランド力
商品のサイズが変わらないことなどから、店頭では『ブラックサンダー』の隣に置かれることが多い。そのため、『ブラックサンダー』の会社から出た新商品と理解されやすかった。知名度の高い『ブラックサンダー』のブランド力を自然に生かすことができた形だ。
購入者の中には味について「感動した」と評する人もいるほど。ほかにも「箱買いした」「お店にあったものを買い占めてきた」といった大量購入した声が多く、味わいが気に入りハマってしまった人が多いことが窺える。大人買いしたくなる気持ちは、食べたら理解できるであろう。
製品情報
https://www.yurakuseika.co.jp/milkmania/
取材・文/大沢裕司







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