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なぜ、マクドナルドは「ハンバーガー屋」ではなく「不動産会社」と呼ばれるのか?

2026.05.17

ところが、本社の収益構造を読み解くと、まったく違う顔が現れます。同社の本質を最も的確に言い表したとされる、有名な一言があります。発言の主は、1955年から1967年にかけて初代社長を務めた財務出身の経営者、ハリー・J・ソネボーン氏です。

「我々は厳密には食品業界にいない。不動産業界にいるのだ。我々が15セントのハンバーガーを売る唯一の理由は、それがテナント(フランチャイズオーナー)が我々に家賃を払うために最も多くの収益を生むからである」

これは投資家向けに語られた説明であり、それから半世紀以上が経った現在も、マクドナルド本社の本質を正確に表現する言葉であり続けています。

「フランチャイズ料」より「家賃」が稼ぎ頭

マクドナルドの店舗のうち、本社が直営しているのはわずか5%です。同社が米証券取引委員会(SEC)に提出した直近の年次報告書(フォーム10-K)によれば、2025年末時点で全45,356店舗のおよそ95%が独立したフランチャイズオーナーによって運営されています。

ここで多くの人が思い浮かべるのは、「ロイヤルティ(フランチャイズ料)」というキーワードでしょう。ブランド使用料として加盟店の売上の数%を本社が徴収する、いわゆる一般的なフランチャイズ収入のことです。マクドナルドの場合、このロイヤルティは売上のおよそ4%とされ、新規契約店舗では5%に引き上げられています。

しかし、本社にとってこのロイヤルティは「主役」ではありません。

年次報告書によれば、2025年通期の総売上は約269億ドル。このうち、フランチャイズ店舗から得る収入が約165億ドルを占め、本社最大の収益源となっています。さらに重要なのは、その内訳です。2024年の開示数値では、フランチャイズ収入約157億ドルのうち、家賃(rents)が約100億ドル、ロイヤルティ(royalties)が約56億ドル。実に6割超が「家賃」で稼ぎ出されている計算になります。

つまり、マクドナルド本社の最大の稼ぎ頭は、ハンバーガーの売上歩合ではなく、フランチャイズオーナーから受け取る「家賃」なのです。

始まりは1950年代の資金繰り問題

なぜ、ハンバーガーチェーンが家賃で稼ぐ仕組みになったのか。その答えは、1950年代の同社の歴史にあります。

オリジナルのマクドナルドは、リチャード(ディック)とモーリス(マック)のマクドナルド兄弟が、1940年に米カリフォルニア州サンバーナディーノで開いた小さなドライブインから始まりました。後に「スピーディーサービスシステム」と呼ばれる効率的な調理方式で評判を呼んだこの店に目を付けたのが、ミルクシェイク用ミキサーのセールスマンをしていたレイ・クロック氏です。

クロック氏は1954年にマクドナルド兄弟とフランチャイズ契約を結び、翌1955年に全国展開を担うマクドナルド・システム社(現マクドナルド・コーポレーション)を設立しました。しかし、ビジネスは順調とは言いがたい状況でした。フランチャイズオーナーから受け取れるロイヤルティは売上のわずか1.4%ほどで、利益は薄く、店舗網拡大の資金調達にも苦しんでいたと伝えられています。

ここで登場するのが、冒頭の発言で知られるハリー・ソネボーン氏でした。アイスクリームチェーン「テイスティ・フリーズ」で財務担当役員を務めていた彼は、クロック氏にひとつの提案を持ちかけます。「商品の卸売やロイヤルティで稼ごうとするのをやめ、フランチャイズオーナーが商売をする『土地と建物』そのものを本社が押さえ、貸し出せばよい」というアイデアです。

1956年、この発想を具現化する子会社「フランチャイズ・レアルティ・コーポレーション」が設立されました。本社が一等地を取得(または長期で借り上げ)し、そこに店舗を建て、それをフランチャイズオーナーに転貸する――現在まで続くマクドナルドの「不動産モデル」の原型がここで生まれました。

「転貸し益」と「経営支配」の二重構造

このモデルの巧妙さは、単なる賃料収入を生むだけにとどまらない点にあります。

まず、本社は取得・借り上げた物件をフランチャイズオーナーに転貸する際、コスト(取得費や借り上げ賃料)に大幅な上乗せをして貸し出します。創業期には40%の上乗せだったと伝えられています。今日では、フランチャイズオーナーは店舗売上のおよそ8~15%を家賃として本社に支払うのが一般的で、売上に連動する変動家賃と、最低保証額を組み合わせた契約形態が中心です。売上が伸びれば賃料も伸びる「歩合家賃」の発想であり、店舗が繁盛するほど本社の懐も潤う仕組みになっています。

次に、本社が「地主」となることで、フランチャイズオーナーへの強力な経営支配力が生まれます。ブランドや品質基準を遵守しないオーナーを「賃貸借契約違反」として店舗から退去させることが可能になるからです。ロイヤルティ徴収だけのモデルでは難しい統制を、リース契約というレバーで効かせられる――マクドナルドのフランチャイズ契約は原則20年と長期ですが、その実態は「土地・建物の賃貸借契約」とセットになっている点が、他チェーンとの大きな違いです。

そしてもうひとつ重要なのが、不動産そのものが持つ含み益です。マクドナルドは現在、フランチャイズ店舗の敷地のおよそ55~57%、建物のおよそ80%を自社で保有していると開示しています。2025年末のバランスシート上、有形固定資産の正味簿価は約428億ドルに達しています。さらに、これらは取得時の原価で計上され減価償却を経た数字であるため、時価で評価し直せば規模ははるかに大きくなります。資産運用大手のマッコーリー・アセット・マネジメントは、同社の不動産の時価がおよそ1,200億ドル規模にのぼると試算しています(米モトリーフール、2026年2月)。

「家賃」が丸ごと利益になり、インフレが追い風になる理由

ここまで読んで、ひとつ疑問が湧くかもしれません。「不動産を持てば、固定資産税や修繕費もかかるはず。それを差し引けば、本社の取り分はそれほど大きくないのではないか?」と。

ところが、マクドナルドはこうしたコストの大半を自社で負担していません。同社の店舗の多くは、「トリプル・ネット・リース」(Triple Net Lease、通称NNN)と呼ばれる契約形態でフランチャイズオーナーに貸し出されているためです。

トリプル・ネット・リースとは、借主が家賃に加えて、(1)固定資産税、(2)損害保険料、(3)修繕費・維持管理費という三つの費用をすべて負担する商業不動産の契約方式です。米国の商業不動産業界では、貸主にとって理想的な構造として「ゴールドスタンダード(黄金律)」と評されており、ウォルグリーン(米国最大級のドラッグストアチェーン)やスターバックスなど、信用力の高いナショナルブランドの店舗で広く採用されています。

マクドナルドの場合、フランチャイズオーナーは家賃を払うのに加え、店舗の固定資産税、保険料、内外装の維持や設備更新までを自己負担します。本社側の物件関連の支出は、自社取得した不動産のローン返済(多くは固定金利)と減価償却を除けば、ごく軽微で済むのです。資産運用大手のマッコーリー・アセット・マネジメントは、マクドナルドのこのリース構造を「持続的なフリーキャッシュフロー成長を支える仕組み」と評しています。

そしてビジネスパーソンが思わず唸るのは、このモデルがインフレに極めて強いという点でしょう。フランチャイズオーナーから本社に流れる収入――家賃もロイヤルティも――は、その大部分が「店舗売上に連動する変動制」です。一方、本社が物件取得のために組んでいる借入の多くは「固定金利」。つまり、世界的なインフレで物価が上がり、ビッグマックの価格が引き上げられて店舗売上が伸びれば、本社の収入も自動的に膨らむのに対し、最大の固定費である借入返済額は変わらないわけです。

通常の飲食企業にとって、インフレは原材料費や人件費の上昇を意味する「逆風」です。しかし、マクドナルド本社の収益構造を分解すると、食材原価も店舗人件費も大半はフランチャイズオーナー側のコストとなり、本社はあくまで「家賃」と「ロイヤルティ」を上から受け取る立場にいます。この仕組みのおかげで、本社にとってインフレは敵どころか、むしろ収益拡大の追い風として作用するのです。

「飲食」と「不動産」を組み合わせる発明

1950年代当時、銀行から見れば「ハンバーガー店」はハイリスク事業の典型に映りました。ところが、ソネボーン氏のモデルによって、マクドナルドのバランスシートには「一等地の土地と建物」「長期の家賃契約」という極めて手堅い資産が並ぶことになります。これにより同社は、低金利での借入や高い財務レバレッジを実現し、爆発的な店舗網拡大の原資を得ていったといわれます。

整理すると、現在のマクドナルド本社の収益は三層構造になっています。土台に「直営店の飲食売上」、その上に「フランチャイズオーナーからのロイヤルティ」、そして最上段に「フランチャイズオーナーからの家賃収入」が積み上がる構造です。利益率はこの順に高くなり、最大の柱がもっとも収益性の高い「家賃」となっています。ハンバーガーを焼くのは加盟店オーナーであり、本社は彼らの売上に連動した賃料を低コストで受け取り続けるわけです。

マクドナルドを「世界最大級の不動産会社のひとつ」と呼ぶ向きがあるのは、決して誇張ではありません。同社のビジネスの正体は、ハンバーガーという強力な「集客装置」を上に載せた、緻密な不動産モデルなのです。ソネボーン氏の有名な言葉は、半世紀以上を経た今もなお、この企業の本質を最も簡潔に言い表しています。

【主な出典】
• McDonald’s Corporation, Form 10-K(2025年度、2026年2月24日提出)
• McDonald’s Corporation Q4・通期 2025年決算発表
• “McDonald’s $42B real estate empire, explained”(Workweek, 2022年)
• “McDonald’s Real-Estate Strategy”(Economy Insights, 2025年8月)
• “McDonald’s: A real estate powerhouse”(Macquarie Asset Management)
• “McDonald’s $120B Real Estate Portfolio…”(The Motley Fool, 2026年2月)
• ソネボーン氏の発言は同氏の投資家向け説明として広く伝えられている著名な引用

文/鈴木林太郎

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