企業にとって人的資本と人事データの利活用は、注力すべきポイントだ。人的資産の情報を整理・開示するための国際的な規格「ISO 30201(人的資産マネジメントシステム)」も登場し、実際にさまざまな企業が取り組んでいる。
コンサルティングや受託調査研究、セミナーの開催/講師派遣などを手掛けるMS&ADインターリスク総研は、全国の従業員規模100名以上の企業の人事担当者・意思決定者に「人的資本経営に関する実態調査」を実施して、その結果を公開した。
この調査は、慶應義塾大学大学院経営管理研究科講師/山形大学客員教授である岩本隆氏の監修のもとで「ISO 30201(人的資本マネジメントシステム)」の考え方に基づいて調査したものだが、人的資本経営の効率化のためのフレームワークとしてPDCAサイクルが機能していない企業も多く、人事データを分析や経営判断への活用まで進めている企業は約4割しかいなかった。データ活用の“量から質”への転換が課題だということが浮き彫りになった。
『目標の設定(定量化)』と『施策の効果検証』がPDCAサイクルの課題
「人的資本経営におけるPDCAの状況」
企業のPDCAサイクルの推進状況では、DとAに該当する『人事施策の推進』と『効果検証に基づく見直し』は取り組みが進んでいたが、『目標の設定(定量化)』は遅れているようだ。『施策の効果検証』のフェーズでも課題がみられる状況といえる。施策の効果を客観的に評価して、次の改善につなげるためのフィードバックループがあまり機能していないケースも一定数あるようだ。
約9割が人事データを保有するも分析・活用まで進めている企業は約4割
「領域データ保有企業と分析等への活用企業とのGAP」(小数点第2位以下は四捨五入して表記)
「自社では人的資本に関するデータをどの程度保有しているか」については、「すべての領域で保有している」と「一部の領域で保有している」を合わせた企業は87.9%と約9割を占めた。だが「保有しているデータを分析などに活用している」と回答した企業は約4割で、データが“使える”段階に至っていない企業が半数以上で、データ量は確保されていても分析可能な形に整備できていない状況の企業も少なくないようだ。
データ活用が進めば人的資本経営の効果を実感
「データを活用している領域数(縦軸)と効果実感数(横軸)の関係」
データの保有・分析状況と人的資本経営による効果実感の関係では、データを分析・活用している領域が多い企業ほど、効果を実感している割合が高かった。「ISO 30201』を参考に設定した人的資本経営にとって重要な12領域では、データ活用がまったくできていない「0領域」の企業は「効果を感じていない」割合が約6割もいた。
7領域から12領域で活用している企業では割合が26.1%にまで低下して、「効果を強く実感している」企業は55.5%と半数以上になった。データ活用の広がりは、人的資本経営の成果を高める要因になっているようだ。
今回の調査を監修した岩本隆氏は、次のようにコメントしている。
――1200社を超えるさまざまな規模の企業の人的資本経営の仕組みについて調査が実施され、現状の日本企業の課題が明らかになった。具体的には、人的資本経営のPDCAサイクルを回すにあたり、「定量的な目標設定」と「要因分析を含めた効果検証」の不足が課題となっている日本企業が多い。
内閣府令による人的資本開示では、人的資本の「インプット→アクティビティ→アウトプット→アウトカム」において「指標」と「目標」を設定し、進捗状況を報告することが求められているが、本調査結果から、アウトプットやアウトカムの目標設定が不足していることやアクティビティとアウトプット、アウトカムとの関係性が、論理的、定量的に示せていないことがうかがえる。
一方、人的資本経営の課題が明確になったことで、今後、日本企業が強化すべきポイントも明確になった。内閣府令の今後の改正により、経営戦略と連動した人材戦略の開示も必須化されるようになる。戦略には、客観性、論理性、定量性が求められるため、人材戦略を策定するにあたっては、勘と経験による定性的な判断ではなく、データを活用した定量的な判断が必要となるため、人的資本データ活用の強化が急務となる。
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人事データを多くの企業が保有しているのにもかかわらず、実際に活用できているのは約4割とかなり少ない印象だ。これからは保有する人事データをどう活用して人的資本を拡大するかが大切になってきそうだ。
■岩本隆氏プロフィール
慶應義塾大学大学院経営管理研究科講師/山形大学客員教授。東京大学工学部卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院応用理工学研究科Ph.D.。モトローラ、ルーセント・テクノロジー、ノキア、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2025年3月まで慶應義塾大学特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学産学連携教授。2023年4月より現職。
■『人的資本経営に関する実態調査』概要
調査対象:従業員100名以上の企業に勤務する人事担当者・意思決定者(課長職以上)
回答者数:1241人
調査期間:2025年8月22日~2025年8月24日
調査方法:インターネット調査
構成/KUMU







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