アクティビスト(物言う株主)のストラテジックキャピタルは、陶磁器・砥石メーカーのノリタケに対して株主提案を行ったと4月27日に発表しました。
6月の株主総会に向けて提案したもので、特設サイトにて「食器事業をはじめとした不採算事業への対応方針等を公表することを求めます」と、食器事業の切り離しを暗に求めています。
日本有数の高級陶磁器ブランドが窮地に立たされています。
日本で初めてディナーセットを開発・輸出した世界有数の会社
ノリタケのルーツは1876年に設立された森村組。日本最初期の貿易商社で、陶磁器や雑貨をアメリカに輸出することで規模を拡大しました。1904年にノリタケの前身となる日本陶器合名会社を設立。本格的に陶磁器の製造を手掛けるようになります。
日本陶器合名会社は陶磁器のノリタケだけでなく、衛生陶器のTOTOやセラミックメーカーのNGK、日本特殊陶業など、名だたる企業を生み出しています。
ノリタケは1913年にディナー皿の焼成に成功しました。純白の陶磁器を作り出す難易度の高さもさることながら、ディナーセットの基本となる平らな大皿を作ることは困難を極めました。和食器は形が異なることを重んじた一方、洋食器は均一性が求められるため、必要な技術そのものもまったく違うものだったのです。開発には20年かかったと言われています。
その困難を乗り越え、1914年に日本初のディナーセット「セダン」の輸出を開始しました。このセットはヒットし、主力シリーズとなりました。ノリタケの名は世界中で親しまれるようになったのです。
ノリタケの歴史は120年以上。その間に数えきれないほどのデザインや職人技が継承され、「金彩」「ラスター彩」「エナメル盛」「玉子ボカシ」などの技法も開発してきました。その技は海外でも高い評価を得ています。
しかし、ストラテジックは過去の中核事業の一つであった食器事業が今では足を引っ張っていると批判しました。TOTOやNGK、日本特殊陶業と比べると、ノリタケの市場評価は低く、食器事業は評価が高まらない要因の一つになっていることを示唆しています。
コストパフォーマンスを重視する時代に高級食器は生き残れないのか
食器事業が業績のマイナス要因になっていることは間違いありません。過去10期のうち、9期が赤字。2025年3月期は1000万円の営業利益を出したものの、2024年3月期は1億5000万円、2023年3月期は2億8000万円の赤字でした。
売上高も70億円前後。主力事業で売上500億円を超える工業機材事業などと比較をすると業績貢献は決して大きくありません。
ノリタケのような高級食器は、日用品としての利用に適していません。金銀の装飾が施されているものは電子レンジでの使用が不可。オーブンやグリルにも非対応で、煮沸や高温での湯煎には向きません。
高級食器メーカーは生き残り策に力を入れています。
デンマークの陶磁器メーカー「ロイヤルコペンハーゲン」は、磁器とシリコンという異素材を組み合わせたシリーズなど、若い世代が日常生活に取り込みやすい商品を開発しています。イギリスの「ウェッジウッド」も伝説的な陶芸家であるルーシー・リーの未発表デザインをマットな質感で蘇らせたコーヒーカップの製造など、伝統と革新に踏み込んだ製品づくりに邁進中。
ノリタケも世界的なデザイナーのマーク・ニューソンによる機能美に優れた食器を「Noritake Design Collection」として発売しています。しかし、オンラインの直営店で手に入りづらく、日常的に使いやすいシリーズを販売しているという一般的な認知度も低い印象があります。
人々の食器に対する意識も変わりました。かつては、中間層が百貨店で背伸びをして値の張る食器を買う消費者意識が根付いていましたが、今は100円ショップやホームセンター、ニトリなどで安く割れにくく使いやすいものを手にするのが主流。コストパフォーマンス重視の時代になりました。
バカラも中国系の投資会社に買収されたが…
食器事業が業績の足を引っ張っており、このような不採算事業で資本効率が悪化。株主に対して不利益になっているというストラテジックの主張は合理的であり、分かりやすいものではあります。
一方、ノリタケの食器事業は日本が世界に誇る文化として守るべきであり、整理するというのはやりすぎだという声もSNSなどで聞こえてきます。
今回の提案は上場企業のあるべき姿を問う重要なものだと言えるでしょう。上場企業は企業価値の向上が不可欠であり、東証は収益性や資本効率の改善を求めるようになりました。株価を意識した経営が義務付けられているのです。
しかし、資本効率を改善するという名目で、貴重な文化財が日本から消失した例もあります。最近ではDIC(旧大日本インキ化学工業)が運営していた「DIC川村記念美術館」がアクティビストなどの圧力によって閉鎖、移転を余儀なくされました。保有する作品数は1/4程度にまで縮小すると言われています。
この美術館には貴重な現代美術が多数収蔵されていました。海外に流出すれば国内で鑑賞する機会はないに等しくなるでしょう。
ノリタケが食器事業の売却を余儀なくされたからといって、食器ブランドそのものが消えることはないでしょう。高級クリスタルブランドのバカラは中国系の投資ファンドに買収されました。このときも、ブランド価値の毀損を危惧する声が聞かれましたが、今のところ商品が陳腐化したなどということは起こっていません。
恐ろしいのは、ノリタケの食器事業売却が決定したとして、譲受した会社が利益追求型だった場合。経営効率を追い求めれば、商品の質が低下する懸念もあります。
最近はアクティビストの台頭により、企業の文化的な活動が不採算であると切り捨てられる傾向が強まりました。経営者は資本効率と文化活動の落としどころを見つけなければなりません。
文/不破聡







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