スポーツ観戦では知らない者同士でも心が同期する
電通は学校法人早稲田大学、および学校法人東海大学との共同研究を実施。脳波や心拍といった生体データの分析などから、スポーツ観戦時に生じる人と人との「感情のシンクロ」の現象を確認するとともに、その特徴を解明した。
同社では、2025年7月にスポーツ未来研究所を発足させ、長年のスポーツビジネスを通じて培ってきた知見・ノウハウを生かして、未来志向でスポーツの真の価値を探求する取り組みを推進している。
本研究は同研究所と両大学との共同研究として、2025年9月に開催された第27回日本感性工学会大会および、2026年2月に開催された日本スポーツマネジメント学会第18回大会において、その成果が発表された。
■研究の概要
今回の研究は、公益財団法人日本サッカー協会の協力の下、SAMURAI BLUE(日本代表)がFIFAワールドカップの出場権を獲得した2025年3月20日のサッカー日本代表戦(埼玉スタジアム2002)を対象に実施された。
スタジアムで観戦中の会場観戦者の脳波や心拍といった生体データを計測するとともに、観戦後の満足度や心理的なつながりについて調査を実施。併せてテレビなどの観戦者に対するアスキング調査も行なうことで、スポーツ観戦に特有の「ワクワク」「ドキドキ」「ハラハラ」といった感情を定量的に捉え、人の感情が他者と同期・同調する「感情のシンクロ」について解明を試みた。
研究主体:株式会社電通 スポーツ未来研究所、学校法人早稲田大学 スポーツ&エンターテインメントマネジメント研究室、学校法人東海大学 スポーツマネジメント戦略研究室
調査環境:2025年3月20日 FIFAワールドカップ アジア最終予選(3次予選) 日本代表vsバーレーン代表(埼玉スタジアム2002)
調査対象1:日本人14人(男性8人・女性6人)が計測機器を着用して試合を会場で観戦。脳波や心拍の測定、アスキング調査を実施
調査対象2:テレビなどで試合を観戦した日本人817人に、試合当日と2週間後の2回、アスキング調査を実施

画像提供/電通
分析結果
■1:感情は他人でもシンクロする
観戦者の感情は、友人間はもちろん、他人間でも強くシンクロする傾向が見られた。
会場観戦者の生体データを分析したところ、友人間(友人と並んで観戦)でも他人間(他人同士が並んで観戦)でも脳波や心拍は同調して、感情のシンクロが起きていることがわかった。また、友人と並んで観戦している場合であっても、感情は離れた席の他人とより強く同期する傾向が確認された。
これは、スポーツ観戦における感情反応が、個人的な関係性よりも、スタジアム全体の観客の感情に影響されること、つまり「同じ試合・同じ瞬間を共有している」という状況そのものに強く影響されることを示唆している。
■2:感情が〝他人とシンクロする体験〟が満足感を生む
他者と感情がシンクロする体験は、観戦後の満足感や没入感を高めることが判明した。会場観戦者の生体データを分析したところ、周囲の観客と感情が一致している人ほど、試合への集中度が高まり、アスキング調査からは観戦体験全体への満足感が高い傾向が見られた。
感情のシンクロは、単なる盛り上がりにとどまらず、「その場に深く入り込んでいた」という主観的な体験価値を高める要因として機能していることを示唆するものだ。
■3: スポーツ観戦は心理的なつながりを生む
スポーツ観戦は、特に初対面同士の間で心理的なつながりを生み出す体験であることが確認された。会場観戦者へのアスキング調査からは、試合観戦の前後で、他者との心理的なつながりに関する指標が高まっており、とりわけ他人間ではその上昇幅が大きい傾向が見られた。
この結果は、スポーツ観戦が、会話や交流の有無にかかわらず、人と人との距離感を自然に縮める社会的な体験であることを示している。
■4:ファンとしての自覚・共感が人生の幸福感に影響する
観戦体験を「ファンとして意味のある経験だった」と捉える人ほど、「楽しかった」という一時的な感情にとどまらず、その後の幸福感の評価とも関連していることが明らかになった。
テレビ観戦者へのアスキング調査では、観戦体験を「他者と感情を共有できた」と認識した人ほど、「自分はファンであるという自覚」といった評価が高い傾向が見られた。こうした評価は、その後の人生の充実感や幸福感に関する主観的評価とも関連しており、その傾向は一定期間後の調査においても確認された。
これらの結果から、他者と感情を共有できたと認識されるスポーツ観戦は、体験そのものの楽しさに加えて、「自分にとって意味のある経験だった」という認識を通じて、人のウェルビーイングに持続的に影響しうることが示唆された。

本研究から得られる示唆〜スポーツは人と人との感情をシンクロさせる
スポーツ観戦の価値は、人と人との感情がシンクロする体験そのものにあり、それが友人・他人といった関係性を超えて生じていることが示された。
また、こうした感情のシンクロを伴う観戦体験は、ファンとしての満足感や、「自分にとって価値のある経験だった」「自分はそのチームや競技のファンである」といった自己認識と結びつき、幸福感やウェルビーイングとも関連していることが確認できた。
感情のシンクロは、人と人の関係性の有無を超えて、試合そのものが生み出す共有体験であり、人々のウェルビーイングにつながりうる体験であると考えられる。
同社ではこれらの結果を得て、以下のようにコメントしている。
「当社は、今回の研究成果を通じて、スポーツ観戦の本質的な価値は、スポーツへの感動にとどまらず、人と人との感情的なつながりにあると考えています。
今後は、調査データの分析・検証による研究を深め、「感情のシンクロ」のさらなる解明や、スポーツの価値の探求に取り組んでいきます。また、スタジアムやイベント空間の体験設計、スポンサー企業のコミュニケーション、地域や社会をつなぐ施策などに本知見を活用することで、スポーツを通じた新たな価値の創出を目指します。
当社は引き続き、スポーツが持つ社会的な力を科学的に捉え、より多くの人々にとって意味のある体験を広げていく取り組みを推進してまいります」
関連情報
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2026/0501-011038.html
構成/清水眞希







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