昇進や異動が重なる4月、新任リーダーが陥る最大の罠は「部下に好かれようとすること」です。部下の顔色を伺う「人気取り」は、組織内に致命的な「位置のズレ」を生み、規律を破壊します。本記事では、新任リーダーがなぜこの罠に陥るのか、そしてそれが組織にどんなダメージを与えるかを解説します。これを読めば、部下との適切な距離を保つ「結果を出す管理」の重要性と具体的な実践方法へのヒントとなるはずです。
リーダーの役割は「勝利」に導くこと
本来のチームリーダーの役割とは、チームを勝利(=目標達成)に導くことであって、部下から個人的に気に入られることではありません。この大前提を忘れてしまう新任マネージャーは後を絶ちません。なぜなら、人から好かれることは一時的な承認欲求を満たし、心地よいからです。しかし、会社という組織において、チームを勝利に導くからこそリーダーへの真の信頼が生まれ、結果として上司と部下としての健全な人間関係が保たれるのです。
逆に、リーダーが部下に気に入られることを優先し、ご機嫌取りをしている間にチームの生産性が下がってしまえば、どうなるでしょうか。業績は低迷し、部下自身の給与や市場価値も上がりません。短期的には「優しくていい上司」と言われても、長い目で見た時に「この人についていっても自分が成長できない、報われない」と気づき、会社からだけでなく部下からも見限られる存在となってしまうのです。真の優しさとは、部下を甘やかすことではなく、勝てるチームを作り、部下に「成果」と「成長」という形で還元することに他なりません。
新任リーダーが陥る「孤独」の正体
では、なぜ人は簡単に「部下に気に入られたい」という罠に陥るのでしょうか。それは、リーダーの最も大きな役割の一つが「決める」ことだからです。「決める」ということは、すなわち「線を引く」ことです。全員が100%満足する魔法のような意思決定など存在せず、何かを決めれば、必ず損をする人や納得のいかない人が出てきます。
新任のリーダーにとっては、これまで「決められたこと」に順応したり、時には同僚と一緒に会社の方針に不満をこぼしたりする「受ける立場」でした。そこから急に、決めるという慣れない作業を背負うことになります。昨日まで仲の良い先輩の一人だったのに、今日からは部下にとって都合の悪いことも堂々と指示し、指摘しなければならない立場になるのです。この役割の劇的な変化によって、一定の孤独を感じ、居心地の悪さを覚えるのはある意味で当然の現象です。しかし、この「孤独」から逃げ出し、部下と同じ目線に立って同調してしまうことこそが、マネジメントの失敗の第一歩となります。
新入社員との間で起こる「位置」の逆転
ましてや、人事異動が重なる4月というタイミングは、新卒の新入社員が現場に合流する時期でもあります。現代の若者は、社会人になるまでの間、受験などの関門がありながらも、学ぶ環境や取り組む趣味、部活動、さらには入る会社に至るまで「自分で選ぶ=対象を評価する」という機会に恵まれてきました。そのため、入社してからも、会社において自身が「被評価者(評価される側)」であるという認識に完全にシフトしきれていない新社会人が少なくありません。
この「対象を評価することに慣れている新卒社員」と、「決断することに孤独と不安を感じている新任リーダー」が組み合わさったときが罠への入り口です。上司が部下から「良い上司であると評価されたい」と無意識に願い、より部下のご機嫌を取るような構図が生じやすくなってくるのです。本来、上司が部下を評価し、指導する立場(位置)であるはずが、部下が上司の顔色や言動をジャッジし、上司がそれに怯えるという「位置の逆転」がここで完成してしまいます。
人気取りが招く組織崩壊のシナリオ
では、この位置の逆転と人気取りが、会社にどのようなダメージを与えていくのでしょうか。
第一に、部下からすると、上司が自分たちに気に入られようと振る舞い、機嫌を窺っていることは一目瞭然です。部下が求める基準に達していなかったり、ルール違反をしたりしても、上司が嫌われることを恐れて指摘を躊躇することが明白になれば、部下は上司を軽視し始めます。そのような関係性において、上司はますます部下のご機嫌取りに終始せざるを得なくなります。
気を使われることに慣れた部下は、さらに気を使ってもらわないと動かなくなります。上司が後になって焦り、急にルールに厳格な対応をしようとすると「人によって、または時と場合によって態度が違う」とダブルスタンダードな対応を批判され、後味の悪い感情だけが残ります。また、一人の部下のイレギュラーな振る舞いを「嫌われたくないから」と許してしまえば、真面目にルールを守っている他の部下に対してもイレギュラーを認めざるを得なくなり、一度崩壊した規律や秩序を取り戻すことは、ゼロから組織を作るよりも困難な道となります。
求められるのは「結果を出す管理」
最後に、このような事態を防ぎ、組織を成長させるために、リーダーに求められる真のマネジメントとは何なのでしょうか。
それは、部下との「情緒的な繋がり」に依存するのをやめ、適切な距離を保った上で「結果を出すための管理」に徹底的にフォーカスすることです。上司の仕事は、部下のモチベーションを上げることでも、悩みを聞いて過度に共感することでもありません。明確なゴールを設定し、求める結果にたどり着くためのルール設定を行い、結果が未達であれば不足を指摘し、次の行動を促さなければなりません。そこに上司個人の感情や「嫌われたくない」という迷いが介入する余地はありません。新任リーダーに必要なのは、部下と仲良くなるスキルではなく、孤独を受け入れ、毅然とした態度で「位置」を保ち続ける覚悟です。それこそが、部下を迷わせず、結果的に彼らを成長させ、チーム全体を勝利へと導く最短のルートなのです。
記事のまとめ
チームの勝利ではなく、個人の人気取りに走る「好かれる上司」は、一時的な安心感と引き換えに、上司と部下の位置関係を逆転させ、組織の規律と生産性を根本から破壊してしまいます。新任リーダーがマネジメントにおいて感じる孤独や摩擦は、決して悪いものではなく、役割を正しく全うしようとしている証拠でもあります。
明日からやるべき行動は、「全員から好かれなくてもよい」と割り切り、部下の顔色を窺って判断を曲げないことです。まずはチームのルールと目標を明確にし、それを厳格に守らせることが重要なのです。自身のパーソナリティとは分けて、時に汚れ役を買ってでも「リーダーの仮面」を被ること、すなわち役を演じることがリーダーへの第一歩となります。
文/識学コンサルタント 山口裕弘
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