ご存知の方も多いと思うが、AEDとは心臓がけいれんし、血液を送り出せなくなった際に電気ショックを与えて心臓のリズムを正常に戻す医療機器。
AEDの理解を高めようと登場した「おもちゃ」
日本では2001年に国際線の航空機への搭載が認められ、段階的な規制緩和を経て、2004年に一般市民のAED使用が認められた。
身近な存在になってから既に20年以上。世界でもトップクラスの数のAEDが街中に設置されているが、日本は設置台数の割に使用率が低く、実際に心停止後にAEDが使われた割合は約4~5%とも言われている。
ほとんどの人がその存在は知っている。だが、「使い方が分からない」「救命講習を受講したことがない」という人も多い。
そんなAEDの理解を高めようと登場した「おもちゃ」がある。
遊びながらAEDを学べる『トイこころ』だ。
子どもの頃から遊びの中でAEDを体験できる環境を目指し、2024年に誕生した『トイこころ』は限定生産した1000個が1週間で完売。先日、再販が決定したヒット商品でもある。
開発したのは北海道北見市の株式会社坂野電機工業所。
主にコンプレッサーやポンプなど産業電気機器の修理点検をする会社だが、代表取締役の坂野恭介さんの想いがカタチになった。
「私は過去8年間、医療系の仕事をしており、その後、現在の坂野電機工業所という場所で働き始めました。過去の経験を活かそうとAED販売を始めたのですが、医療従事者と一般の方のAEDに対するイメージ・信頼度・認知度が全然違うと感じたんです」
「当時、AEDが登場して10数年経っていたのにまだまだ知らない人が多かった。それはなぜかを考えた時に、AEDを学ぶ以前の問題で、【興味がない】【知ろうとしてない】が原因であると感じました」
まず、坂野さんが制作したのが「ペーパークラフトAED」。子どもでも簡単に組み立てられる本物そっくりなデザインは一躍話題に。
公式HPから無料ダウンロードできることも後押しし、公開から2か月で300以上のダウンロードを突破。その反響を受けて生まれたのが『トイこころ』だった。
「楽しみながらAEDを知り、自然に使い方も学べるコンテンツがもっと必要だと思いました。そこで着目したのが「お医者さんごっこ」です。子どもたちの遊びの中にAEDを自然に溶け込ませたい、遊びの一つとして存在してほしいと思い『トイこころ』の開発に踏み出しました」
こうして生まれた『トイココロ』。再現度が凄い。
「電気ショック大成功だ」「リズムに合わせて心臓マッサージしてみよう」などの自動音声に合わせて電気ショックを行う、リアルな操作方法は本物のAEDとほぼ同じ。
さらにこんなこだわりも。
「AEDらしさとおもちゃらしさはすごく考えました。AED感は残すべきですが、そもそも気に入ってくれないと意味がありません。ですので、光る・振動する・音声があるなどの楽しいギミックは入れるようにしました」
「細かい気遣いでいうと、ショックボタンの後に心臓マッサージをする流れがあり、本物は2分間あるのですが玩具ではそれは長いので10秒ほどになっています」
「それと、本物のAEDには終わりがないのですが、トイこころは玩具なので最後に【ミッション完了だ】というセリフを入れて達成感を持たせるようにしました。『玩具だけどAED。AEDだけど玩具』を自分なりにしっかり考えて作りました」
おもちゃAEDに続く新たなコンテンツとは?
『トイこころ』は、子どものためのおもちゃとしても優れている。
小さな指でも簡単に押せるようなボタンは押し心地や沈み具合を0.1mm単位で調整し、押したことがはっきりと分かる感覚を大切にした。
また、子どもでも持ちやすいサイズ感を保つため、基板や部品、ボタン位置なども0.1mm単位で調整。小さなサイズに楽しく遊べる振動機能も盛り込むという困難な設計も見事に実現。
ユーザーを惹きつける魅力に満ちた『トイこころ』は当然、反響を呼ぶ。
2024年に予約での限定販売をスタートすると、わずか1週間で完売。そして今年3月、新たに3000個の予約限定販売を行うと、1日で1600個を突破した。
――これだけ反響があったのは何故だと思われますか?
「私も驚いている部分ではあるのですが、2024年の初回販売の反響が大きかったのかなと思います。このおもちゃはいままで世の中に存在しないものでした。おそらく日本にも世界にも」
「それまでこのおもちゃの必要性や遊ぶイメージが理解されなかったのですが、【初回販売時に1週間で売り切れ】、【様々なメディアで取り上げてもらえた】、【購入者の声】、【私の知らないとこでのオフラインの口コミ】など、トイこころが日常に存在する風景を多くの方がイメージしやすくなった点が大きかったと思っております」
――今後の販売予定や新たな展開は?
「私としては今後も販売できる状況を作っていきながら、幼稚園・保育園・小学校などへの設置も積極的に進めていきたいと思っております。そうして、たくさんの子どもたちがAEDを楽しく知る世界をどんどん作っていきたいです」
「このおもちゃは子ども向けではありますが、子どもが遊んでいる様子を親が見ています。そして、親も一緒に遊びます。そうすると【子どもから大人に】という流れができ、最終的に親世代にもAEDが浸透していく未来が作れると思っております。最終的には日本の救命率向上に貢献できればうれしいです」
親子でも楽しめる『トイこころ』は現在、一般家庭のみならず病院・幼稚園でのイベントやイオンの遊具施設にも設置されるなど、新たな体験を生み出すおもちゃとして広く浸透し始めている。
実際に購入した方からは、「街中のAEDを見つけるようになった」、「講習に今度行こうという会話ができるようになった」など嬉しい感想が届いているという。
また、幼稚園や小学校の先生、病院関係者の方からは「こういった話をしたかったがなかなかきっかけがない中、この玩具がそのきっかけを作ってくれた」という声も。
おもちゃをきっかけにAEDは少しずつ、しかし確実に広まっていく。
そしてこれからも、坂野さんの挑戦は続いていく。
「私にはAED認知サイクルを作りたいという思いがあります。これは子どもから大人になるまでに間に当たり前に心肺蘇生法(AEDを含む)を知る世界を作る事です」
「幼稚園児から大人になるまでにAEDを含む心肺蘇生法にどう関わっていくかを節目節目に作っていく必要があります。これからは幼稚園児から小学生を対象としたコンテンツにもっと厚みをつけつつ、その上の方々にも興味を持っていただけるコンテンツを作っていきたいと思っております」
「現在、すでに動いているのは絵本制作です。絵本を通して楽しくAEDを知る世界を作っていきたいと思っております。その先には、『心肺蘇生法とAEDって人が倒れた時にやる選択として当たり前じゃん』という世界があるはず。救命率も変わってくる未来に向かって挑戦し続けていきます」
取材協力
トイこころ公式HP
坂野代表取締役公式X
株式会社 坂野電機工業所
文/太田ポーシャ







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