WBCが日本国内ではNetflixの独占配信となり、地上波放送が無かったことで多くの議論が巻き起こった。
当時、Netflixは月額498円で契約できたキャンペーンを実施した。ゼロではないがユーザーの金銭的負担はかなり少なかった。それにも関わらず反発が大きかったのには、別の視点があったからだ。
野球人口は年々減少、しかし野球人気は変わらず?
Netflixの独占配信には有料配信であることへの批判と同等、もしかしたらそれ以上に「国民的スポーツなのに視聴のハードルを上げるな」という批判があった。
さまざまな企業・団体が実施しているスポーツに関する調査を見ると「国民的スポーツ=野球」は、すでに過去のものになりつつあることも事実だ。近年では日本の野球人口は減少傾向にあり、さらに若年層に限ればサッカーに逆転されるケースも確認されている。
日本野球協議会(日本野球機構、全日本野球協会などで構成)が公表した資料によると、競技団体に登録された野球人口は2007年の約161万人から、2023年には約94万人へと減少している。減少数は約67万人、およそ40%減という数字になる(出典:日本野球協議会「野球振興に関する調査報告書」2024年)。
特に若年層でも野球人口の減少は顕著だ。中高生を対象にしたデータではサッカーの競技人口が野球の競技人口を上回るという調査結果も出ている。例えば、日本中学体育連盟による報告によれば、令和7年度の男子生徒の加盟生徒数調査で野球(軟式)が約13万人に対し、サッカーは約15万人と野球人口をサッカー人口が上回っている。
一方で、国民全体の野球人気は依然として高水準を維持している。
株式会社電通が毎年実施している「スポーツ総合調査」の2025年版において「興味関心のある競技」では「野球」が36.0%と最も高く、2位の「男子サッカー」25.8%に対し、大きな差をつけている。
同調査を担当した電通スポーツビジネスソリューション局の井ノ本さんは説明する。
「本調査を開始した2019年以降、『興味関心のあるスポーツ』の項目で野球は不動の1位です。
本年の調査では『興味関心のある大会・リーグ』においても『WBC』が1位、『情報を見聞きする選手』でも大谷翔平、佐々木朗希、山本由伸が上位3位を占めています。国民の興味関心において野球は今もなお根強い人気があることは間違いありません」



経年の変化を見ると、「興味関心のある大会・リーグ」でWBCが一躍順位を上げたのは2023年の調査。同年の4月に日本が大会優勝した年だ。
「日本が優勝できる大会に国民は興味を持ってくれるという非常にわかりやすい構造が、客観的なデータでも改めて提示されています」
同じく、MLBへの興味関心も大谷翔平の活躍に伴い順位を上げているので大会やリーグへの興味の導線は実にわかりやすい。
今回の日本代表チームにも、国内外からスター選手が集結した。優勝への大きな期待とともに、その雄姿を見届けたいと多くの国民が感じたはずだ。そのような状況で「私たちの侍ジャパンが、なぜ今までどおりに観られないのか」と感じた人も多かったのではないか。

野球人気が「横ばい」であることの危機感
しかし、ここでポイントとなるのが「興味関心がある競技」における「野球」へのポイントは横ばいであるという点だ。
大谷翔平というスター選手の登場で野球に新たに興味を持つ層が現れたにも関わらず『野球』のポイントが大きく上昇をしていないのは、なぜなのか。
同じく、同調査を担当した電通スポーツビジネスソリューション局の中北さんは次のように仮説を立てる。
「他の調査であるように確かに国内の野球人口は減少をしています。野球への興味関心は下降傾向にあってもおかしくありません。そこに大谷翔平選手などの日本人選手の活躍やMLBへの興味が新たな層を開拓したことで野球人気の減少を食い止めたと考えることはできるかもしれません。またNPBに関してもSNSを中心に幅広い世代に発信力を持っていますので競技人口は減っても、野球を観戦したり、推し活をしたりする層など新たなファン層を開拓しているとも考えられます」

その一方で、国民の興味関心を大きく伸ばしている競技もある。「男子バレーボール」だ。
「男子バレーボールは、まず大前提として競技力が向上し、世界で十分に戦えるレベルになってきたことがありますが、そのうえで、石川祐希選手や髙橋藍選手をはじめとしたスター選手が登場した影響は大きいと思います。さらには、バレーボールは人気選手が出場する国際大会を毎年、地上波のテレビで放送をして、大会も日本国内で開催されます。日本国民にとってバレーボールは観る・楽しむにおいて非常にアクセスの良いスポーツになっています。男子バレーボールが『興味関心のある競技』で順位を伸ばしたのも納得です」(井ノ本さん)
競技人口の減少、他競技の台頭など、国民的スポーツの野球を取り巻く環境も変化している。そのような状況で、今回のWBCのように視聴ハードルを上げることは、野球人気のすそ野を狭めてしまうのではないか。
「競技団体の運営や選手の強化・育成のためには資金は必要で、『スポーツコンテンツの有料化』がそれらに貢献する面は大いにあると思います。
一方で、競技の普及という観点では、誰でも見られる機会を作ったり、興味を持った人が気軽に入ることができたりする入り口を作ることが重要です。今回の事例だけでなく、スポーツにおいてユニバーサルアクセス権と呼ばれる『誰でも自由に情報にアクセスできる権利』は長らく議論をされてきています。日本国内の話だと、地上波で誰でも見られるということは競技の裾野を広げるという意味でも大切なのかもしれません」(中北さん)
そのスポーツを代表するようなアイコニックな選手の存在と彼らの活躍を気軽に見られる機会。”国民的スポーツ”はこの両輪があってはじめて成立するのかもしれない。

中北隆盛さん(右)
電通
スポーツビジネスソリューション局
チーフ・プランニング・ディレクター
2005年電通入社。マーケティング部門にて、企業ブランディング、商品開発、事業コンサルティングなど幅広く戦略プランニングに携わる。近年は、国際スポーツ大会や日本代表、パートナー企業の戦略・企画・PDCAなどスポーツ領域のマーケティング戦略を中心に従事。筑波大学大学院「スポーツ価値創造論」講師、宣伝会議講師。
井ノ本宙さん(左)
電通
スポーツビジネスソリューション局
プランナー
2017年電通入社。入社以来スポーツ領域を中心に、スポーツスポンサーシップ戦略立案やアクティベーションプランニングをはじめ、マーケティング、運営、データ活用まで一貫して経験を重ねる。その後データ・テクノロジー部門を経て、2023年より現部署にて、企業のスポーツマーケティング支援や競技団体のグロースプランニング、新規事業開発などを推進。
撮影/干川修 取材・文/峯亮佑







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